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バスのピンポン早押し選手権開催のお知らせ

作者: 夕日色の鳥

家紋武範様主催『知略企画』参加作品です。

え?

どこが知略だって?

ちゃんと長考してるでしょ?


どうぞ、お気軽にお楽しみください。

『さぁー!

今日もやってまいりました!

マモル君7歳が緊張の面持ちで入場です!』


 ランドセルを背負った男の子がバスの真ん中のドアから入ってくる。


『今日も私立小学校の紺の制服に身を包み、紺のお帽子をしっかりと被っての登場です!

そして、マモル君。

バスの前方の席に向かいながら、一番後ろの席をチラッと見ました!

そこにおわしますは長年のライバル。

歴戦の猛者。

人呼んで、早押しジジイ!

利蔵(としぞう)、御年70!』


 バスの後方右側の一番後ろに鎮座していたのは、杖を持った老人。

 マモル君を見ると、ニヤリと口角を上げる。


『さぁー、連日の連戦。

ここまでの戦歴は、マモル君5勝。

利蔵180勝。

恐るべし早押しジジイ!

マモル君はこの連敗から脱却できるのか!』


「右よーし。左よーし。

出発しんこーう!」


 そして、2人を乗せたバスが発車する。


『マモル君。

緊張の面持ちです。

一方、利蔵は余裕の表情で風景を楽しんでおります。

マモル君。先は長いぞ。

今からそんな状態で、勝負の時まで保つのかぁー!』


 バスは安全運転で道路を進み、いくつかの停留所で止まり、そして、その時はやってくる。


『さぁ、さぁ、さあさあさあ!

次の停留所を過ぎれば、2人の目的地!

第三小学校前だ!

マモル君は学校に。

利蔵は文化会館に行くために、毎朝ここの停留所で降りていく!

そして、バスから降りるためには、「次、止まります」ボタンを押さなければならない!

彼らは、それを早押しするために毎朝勝負を繰り広げているのだ!

ボタンは1番に押した者にしか反応を許さない無慈悲な存在!

1つの停留所に対して、たった1人だけが許された権利!

はたして、今回その栄冠をつかむのは誰なのか!』


 バスは第三小学校の1つ手前の停留所で止まる。


『さあ!

両選手、ボタンに手を添えて、構えに入ります!

このバスはボタンが押せるようになったら、「次、止まります」の部分が光るようになっています!

また、車両先頭の電光掲示板に次の停留所の名前が表示され、車内アナウンスが鳴る瞬間でもあります!

どこで判断するかは選手次第ですが、現在ではボタンに集中し、点灯と同時にボタンを押す形が主流となっております!』


「右よーし。左よーし。

出発しんこーう!」


『さぁー!

ついにバスは第三小学校に向けて発車しましたー!

ここから1分足らずでボタンは押せるようになります!

選手両名に緊張が走る!』


 そして、ボタンが点灯する。


 ピンポーン!


『つぎ、止まります』


 バス内にアナウンスが流れる。


『ああああーーーっと!

なんと押したのは幼き少女!

これにはマモル君も利蔵も口をぽかんと開けているぅ~!!

とんだ伏兵の登場だぁーー!!』


 そして、その少女は2人に勝ち誇ったかのような笑みを見せて、悠々とバスから降りていった。

 マモル君と利蔵も悔しそうな顔をして、それに続く。


『ここで少女に関する情報です!

彼女は4月からマモル君と同じ小学校に通うようで、今日はお母さんと一緒に、家から学校までのルートを確認しに来たようです!

これは意外なライバル登場だ!

まるで2人に挨拶代わりとばかりに見事な早押しを見せた少女!

これは春から楽しみだぁ!!』










 また別の日。


『さあ!

またまたやってまいりました!

今日もマモル君が意気揚々と入場し、利蔵がそれを迎えます!

今日は件の少女はいないようです!

正真正銘、2人の一騎打ちだ!』


 マモル君は1番前の左側の席に座る。

 そこからは、運転席がよく見えた。


『おっと!

マモル君、いつもと違う席だ!

そして、そのまま前に抱えたランドセルに顎をのせ、長考の構えを見せたぞー!

これには利蔵も怪訝な表情だ!

いったい何を考えている、マモルくーん!』


「右よーし。左よーし。

出発しんこーう!」


 そして、バスは第三小学校前の1つ前の停留所を出発する。


『さあ!

来るぞ来るぞ、この瞬間!

この緊張感がたまりません!

おーと!

ここでマモル君、手すりのボタンに手をかけながら、運転手さんの手元を見ている!

そう!

このバスの停車ボタンの切り替えのスイッチングは手動なのです!

運転手さんがスイッチを切り替えることで、停車ボタンが点灯し、電光掲示板が切り替わり、アナウンスが流れます!

マモル君は運転手さんの手元を見ながら、切り替え時のほんのわずかな、カチッという音を頼りにボタンを押すつもりだー!

これには利蔵もびっくり!

さあ!

どうなる!

早押し選手権!!』



 ピンポーン!


『つぎ、止まります』



『マーモールー君だー!

ここでマモル君が久しぶりの勝利!

マモル君、思わずガッツポーズ!

利蔵の表情は窺えないぞー?』


 そして、マモル君は意気揚々とバスを降りていく。

 しかし、


『降りなーい!

利蔵、降りないぞー!

これにはマモル君もバスの外で唖然としている!

今日は利蔵の病院の日だったー!

利蔵の今日の下車は次の次の停留所!

市大病院前だー!

マモル君びっくり!

勝負でもない日に、自らの手の内をさらしてしまったー!』


 発車するバスをぽかんとした顔で見上げるマモル君。

 去り際、利蔵が後ろを振り返り、ニヤリと笑ったのをマモル君は見た。








『さぁーて!

お送りしてきたバスのピンポン早押し選手権!

そろそろお別れの時間となりましたー!

はたして、マモル君は再び勝利をつかみとれるのか!

利蔵の連勝はどこまで続くのか!

そして、春から参戦する少女の実力は!

これからも目が離せません!

あ、ですが、ちゃんと安全運転は心掛けてますから、ご安心ください。

いやー、これがあるから運転手は辞められない!

これからも、安全運転で選手権を楽しみたいと思います!

ではまた、次の選手権で!』



「右よーし。左よーし。

出発しんこーう!」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰もが共感できる心理戦ですね! 面白かったです! タイトルを見ただけで、何が起こるかはわかるんだけど、 逆に題材がシンプルなので、先の展開が想像つかず、 どんな心理戦が繰り広げられるんだー…
[良い点] 面白かったです。 [一言] ジジイひまやろ 運転手いつか事故るわ
[一言] 知略企画から伺いました。 誰だお前と思っていたら、お前かーー!! (*´ー`*)場所によって早押しに有利なボタンとか、ないですかね?利蔵はきっとバイオハザ◯ドで連打ボタン練習している。 …
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