新しい命とはじまり
「ないっっ!」
え?
意識がある?
っていうかここどこだよ。
俺は次に意識を得ると、コンサートホールのような場所にいて座っていた。
あたりを見渡してみても、なん席かの空席はあれども基本的にすべての椅子の上に人が座っていた。
ちょっと待て落ち着け落ち着くんだ。
え?おれ死んだよな。
あ、少しずつ思い出してきた、確かトラックに衝突されて、それで・・・
あ、そうだ!
「工具セット!」
しまった。
ここがどこかわからないというのに、大声をあげてしまった。
幸いほかの人たちはみな静かにしているというわけではなく、みんな何かそわそわしているようなので、そんなに目立たないですんだ。
そんなことより工具セットだ、なぜか俺は工具セットを手に持ったままだった。
あんな大きさのトラックに衝突されたら工具セットだって壊れていてもおかしくないのに、傷一つない無事な様子だった。
それに気づいてから、自分の服装にも気が付いた、この服装だって出かけるために来たものと全く同じ服装だった。
つまり何もかもすべてみんな、死ぬ前と同じ状態ということだ。
なんて考えているうちにすこしずつ冷静さを取り戻してきた。
冷静さを取り戻すと、今は死んでしまったことも重要だが、今現に意識があるのだからそっちよりもこの状況について分析したほうが良いと思い、あたりを見渡してみた。
すると、何もない空間から空席の上に一人人物が出てくる瞬間を見てしまった。
決して目を離していたわけではないのに、まるでその人が召喚されたかのようにふっと出てきた。
そして完全に召喚され切った瞬間から、
「うわあぁああぁ、あ?あ?あ?、、、え?」
という叫び声からだんだん疑問にと変わるという全く自分と同じことになっているということに気づいた。
そのことから、きっとこの状況は空席がなくなるまで続くという仮説と、自分より先に来た人がいるという仮説を立て。
早速、周りの人をより真剣に、些細な変化も見逃さぬように見渡してみた。
するといろんなことを言ってる人がいた。
「きっとこれは夢だ。夢なんだ。」
「まさかこの後デスゲームでも始まんじゃね?ウケルww」
「どぅひゅひゅ・・ヒヒ・・きっとこの後の展開は、美少女で、ドエロイ格好をした女神さまが出てきて、この僕を異世界に転生させてくれるんだ。ヒヒヒヒヒ」
「いやあああああぁぁぁ。家に帰して。返してよおおおぉぉ。」
さっきまでざわついているとしか思っていなかった声はよく聞くと、この場にいる人は俺と同じで意味の分からないうちにこの場所にいるというようなことを言っているということが分かった。
俺だって異世界転生物やデスゲームものの小説や漫画、映画は好きだ。
しかし参加する人が、主人公が俺だとやっぱり受け入れることは難しい。
しかもこの先に何が起こるのか、想像もつかない状況だ。
はっきり言ってみんなに混ざって俺も発狂したかった。
けれどそんなことをしていたとて状況が変わらないことは目に見えているので、より多くの情報を集めることにした。
まず、一番驚いたことはこの席から離れられないということだ。
何が起きているのかはさっぱり理解できなかったが、まるで見えない壁でもあるかのように、ほかの人の場所へ移動することができなかった。
次に驚いたのは、人の数と座席の数だ。
ざっと計算してみて大体一万人。
しかし、どうにか一万人の共通点を探そうとしても、何もわからなかった。
けれど、みな一度死んでいるということは確からしい。
信じたくはなかったが、俺だって死んでいるということだ。
最後にわかったのは人の償還される速度だ、このペースでいくとあと五分もかからないうちに満席になるだろう。
俺の予想ではこの席が満席になるとともに何かが始まるはずなので、それまでに情報はできるだけ入手しておきたい。
そう思って俺はもっと周りを見ていたが、特にそれ以上の発見はなかった。
残りの空席がざっと十席くらいになると、壇上に謎の男が立っていた。
その男は、ご丁寧に後ろのプロジェクターにも表示してあって、それに気づいた人は、何かが始まると察してあれほどうるさかったのに、水を打ったかのように静まり返っていた。
俺は情報収集を切り上げ、その男に注目した。
よく見るとその男はカウントダウン?をしていた。
その数は残りの空席とリンクしていたので、やはり満席になると何かが始まるのだろう。
3
2
1
残りの席が一つになったとき、心臓が高鳴るのを感じた。
「ゼロ」
その声とともに、照明が落ちて、プロジェクターとスポットライトに当たっているその男しか見えなくなった。
すると予想通り男が話し始めた。
「やあやあ、皆さんこんにちは。」
「きっと君たちは今ものすごい不安な気持ちでいるんだろう。」
「だが安心してくれ、私は君たちに危害を加えない。」
俺は、男の『私は』という言葉に引っかかったが、男の話に集中をした。
「君たちは、身をもって体感しているから、ご存じかと思うが。」
「断言しよう。君たちは死んでいる。」
「そしてもう二度と生き返ることはない・・・」
「はずだった。」
「ボクねぇ、そんな君たちがかわいそうだと思ったんだよ。」
「あんなにつまらない現実で、必死に生き抜いたというのに、あっけない、死。」
「そんな君たちを救ってあげようと思って、輪廻の輪にとらわれる前に、ここにいる総勢、一万人もの人をここに、連れてきさせてもらった。」
「しかしその作業もいくら天使に手伝わせたとはいえ時間がかかってしまった。」
「君たちは結構長い間待っていただろう。そこに関しては私の力不足だ謝罪をしよう、すまなかった。」
「そしてもう一つ謝罪を、こちらの自分勝手なたったひとつ、かわいそうという気持ちで、君たちの一生を変えてしまって済まない。」
「しかし変えてしまったものは変えてしまったものだ、新しい命を与えられたことへの喜びを感じようじゃないか。」
『うおおおおおおぉぉぉ』
いろんなところから、救ってくれてありがとうと気持ちのこもった雄たけびが聞こえた。
しかし俺はそうは思わなかった。
大体なんだ胡散臭い、自己紹介すらしないやつのことを信じるなんてばからしい。
それと大体こういうのを話題にした作品は、こういうやつが悪役なんだよ。
そんなことを考えていると、俺の気持ちが伝わったのか、男は慌ててしゃべりだした。
「ああっとすまない。思い出したよ。」
「君たちにはまだ自己紹介すらしてないじゃないか。」
「ボクはね、神様なんだ。名前は特にないんだけれど、名前という文化のある君たちの前だからね、便宜上、神代。という名前にしておこうかな。」
やっぱり、神様だったか。
じゃあやっぱりこいつはいい奴じゃないな碌な奴じゃないはずだ。
きっとこの後神代、こいつは俺たちにデスゲームが同たらとか言い出すぞ。
なんて半分冗談交じりに思っていたら、
神代は先ほどまでの笑顔から、深刻な表情へと変えた。
「君たちには、言っておかないといけないことがある。」
「いくら僕の、神様の力とは言えねぇ、輪廻の輪にはかなわないんだよ。」
つまりどういうことだ?
輪廻の輪なんてもの考えたことがないから全く想像がつかないな。
「つまりね、君たちをもとの世界に戻すことは無理なんだよ。」
「もっと言うとこの状態で、一万人もの人を輪廻の輪から外し続けるのもなかなか厳しいことなんだ。」
「だからね、君たちには、生き残りをかけたデスゲームをしてもらおうと思うんだ。ククククク」
神代は先ほどまでの真剣な表情から一変して悪魔のような笑みを浮かべてそういった。
は?
うそだろ?
え?ほんとに?
あれは冗談で言っていたんだけど。
「おいおいふざけんな。」
「勝手に連れ出しといてなんてことを言うんだ。」
「もういやだ!二度目なんて死にたくない!」
再び会場は、阿鼻叫喚に包まれた。
キイイイイイィィィィィン
唐突にハウリングのようなことが起こりみんなは驚き、声を止める。
そのすきを逃さずに再び神代が話し出した。
「だから、生きるか死ぬかをかけた、殺し合いをしてもらうっつってんだろが。」
「下等生物が、わちゃわちゃ叫ぶな。」
「もういい、気分が悪くなったから、予定していた質問タイムをなくすことにする。」
「それと『われ、神の名において命ずる、この場にいる人間の発言権を奪え!』・・・君たちはこれでもうしゃべれまい。」
神代が唐突に呪文のようなものを叫ぶと、一気に誰もしゃべることができなくなった。
俺も、声を出そうとしたが。
「ーーーーー」
うまく出なかった。
殺し合いだって?ふざけんな。
俺にそれをするメリットがない。
そんなことなら輪廻の輪とかいうやつに戻ってやる。
そう考えていると。
「あぁ、そうそう、こんなに楽しいおもちゃを手に入れったっていうのに、今更逃がすわけないじゃんww」
「お前ら全員強制参加だから覚悟しとけ。」
こちらの考えはすべてお見通しってことかよ。
クソッ。
「じゃあそうと決まればさっそくルール説明と行こうじゃないか、説明するのがめんどくさいから、一度しか言わん。耳の穴かっぽじってよく聞きな。ククク」
「まずは一人一台デバイスを配布する。」
神代がそういうとともに、一万人すべての人の手の上に、スマートフォンのようなものが出てきた。
「君たちの世界にあるものとできるだけ近いものにした。これは使い方がわからないなんてことにならないようにするための、私なりの配慮だよ。」
「一つだけ面白い特性とすれば、そのデバイスは充電不要、決して壊れない優れものだ。なくさないようせいぜい大切にしたまえ。」
「それじゃあ本題のルール説明に移る。」
「まず第一ステージは、一対一の個人戦だ。」
第一ステージ?っていうことは一回で終わりじゃないのか。
それと個人戦ってことはこの先のステージで、団体戦も出てくるだろうな。
っていうか戦えんのか?俺?
そもそもこんなかだったらスポーツやってる男が有利すぎるだろ、老人や女に戦えるとは思わないしな。
「君たちは、戦うことができないというのは、このボクもよく知っているよ。」
「でもね今君たちのいるこの世界は、新しい命には福音と呼ばれる、力が手に入るようになっている。」
「また、さっきの僕の呪文からわかると思うけど、福音とは別に、スキルや魔法なんてものもある。」
「でも君たちには馴染みのないものだろうから、デバイスから君たちのよく知っている武器なんかも買えるようにした。」
「君たちには最初、Kポイントを1000ずつ配る。」
「Kポイントは君たちのデバイスから使えるポイントで、ステージミッションをこなしたり、ステージクリアーをすると手に入るようになっている。」
「デバイスから購入できるものはざっというと、新しい魔法、武器、スキル、そして君たちの世界にあったものすべてだ。もちろんその価値によって、購入に必要なポイント数は変わってくるけどね。」
「そして一つのものすごく重要な情報を伝えよう。」
「この世界では、福音よりも強い力はない。極端な話をすれば、最強の幅員を持つ赤子がいたならば、きっとドラゴンだって倒すことができるだろう。そして、福音どうしの力の差は、ほとんどないようになっている。」
「今言ったことが、この世界においての普遍的なルールだ。」
「今から君たちは、一人一部屋の個室へ行く、そして自分の福音の確認と、デバイスの使用を許可する。ので第一ステージの個人戦に一時間で備えるんだ。」
「私は等しく平等に君たちのことを見ている。絶対に最後まで生き残るんだ。そして私を楽しませてくれ。」
「私からはこれで以上だ。この先は私の代理を務める、天使ルーシーに詳しい説明を聞くように。」
「それじゃあ、生き残った諸君また会おう。」
そういって、神代は視界から消えていき、入れ替わるように輪っかと羽のついたとてもきれいな女性が立っていた。
きっとこの人が、いやこの天使がルーシーだろう。
そのあとは、本当に違う世界なのかと疑うくらい、現実と変わらない方式で会場から連れ出され、一人一人、個室へと帰っていった。
おれは、正直何が起こっているのかわからない。
あと一時間で殺し合いが始まるというのも実感がわかない。
しかし死んだあの時に思った死にたくないというあの気持ちそれだけは、ちゃんと頭の中に残っている。
この後どうなるのかは全く想像がつかないが、俺は二度と死なない。
どんな世界だとしても、生き延びてやる。