Z伊崎守 11日目
「おはようござ」
いますが止まるほどの衝撃だった。しがない大学生の自分は今日もかったるいなと思い玄関を開けた所、ほぼ同時に水無月さんの部屋の扉が開いた。猫背になっていた背をぴしっと伸ばし顔をきりっとさせ、全てを水無月モードに切り替えて爽やかな挨拶一発と思った所だった。
「ああああああああああ」
――えーゾンビなっとあー。
灰色の上下スエットという家ではわりとヤンキースタイルなのですね水無月さんなんて感想は一瞬で霧散するほど見事なゾンビだった。
「あああああああああ」
「み、水無月あーん」
くるっと水無月さんがこちらを向く。ドキッ。いやゾンビでもお前ちゃんとドキッとするんかいって思われそうだが、ゾンビになっても水無月さんの魅力は全く損なわれていないのだ。
もちろんゾンビらしいゾンビの顔をしてはいらっしゃいますよ。目ん玉なんて黒目なくて真っ白だし、肌色も紫がかって不健康そうだし。あーあー言いながら口をだらしなく開けて涎垂らしてる感じなんてまんまバイオハザードだけど、それでもさすが水無月さん。ゾンビ界に堕ちても見事な美。クイーンオブゾンビとして君臨されていらっしゃる。
「あ、おはようございます」
挨拶は基本。挨拶出来る出来ないだけで人間の価値は決まってしまう程挨拶はとは大事なものなのだ。それは例えゾンビに対してでも怠ってはいけない。
いや、嘘だ。相手が水無月さんじゃなければ挨拶どころか全力ダッシュかヘッドショットで即終了だ。
「ああ」
ぺこりと水無月ゾンビがお辞儀をした。
――エクセレント……!
やはり、あなたは私の見込んだお方だ。ゾンビとなった今でも、身体に沁みついた礼儀は忘れない。素養の高さがあるからこそ成し得る技。僕は今、感動で胸がいっぱいです。
「いってきます!」
僕はいつもより爽やかな気持ちで学校へと向かった。