深川版『天狗裁き』
えー、凄いですね。手前ははじめて参加するんですが、大入り満員の第十八回粉山椒祭り、あのー、皆さんご承知でしょうが、圓朝祭りというのがありまして、あれは亡き三遊亭圓朝師匠を偲び、その功績を讃えるためにゆかりのあった団体さんや地域さんがそれぞれ自主的にはじめた、いわば自然発生的な催しなんですが、今日のこの粉山椒祭りというのは、まあ粉山椒師匠、残念なことにご存命でございまして、しかも師匠本人が会の主催者という、自分で自分を祀り上げようなんていうふざけた落語会でして、えー、すでに何人もの犠牲者が噺を終えていて、おそらくその都度こういう毒のある枕で皆さん気楽に笑っておられるんじゃないかと思いますが、今日のこの会はですね、師匠が直々に選抜して指名した十八人のエリートの噺家、さらにトリで黒幕というか本人が登場するんですが、その面々が短い噺を矢継ぎ早に披露し続けるというのが唯一の約束事で、それも打ち合わせなしというんで早い者勝ちなんですね。如何にして師匠の得意とする噺を封印して恥をかかせるかというのが我々の目的なんですが、まあ無理ですわな。いわずもがな、粉山椒師匠は前座噺限定の名人上手でございまして、手前も前座の頃によく強制的に教わったりして、二ツ目にあがってからは用済み、じゃないですね、少し疎遠になっていたんですが、こないだたまたま地方の寄席で一緒になりまして、そこで演じた即興落語をなぜだか気に入ってくれたんですね。そのせいで今日こうして指名を受けるという栄誉というか恥辱を味わっている訣なんですが、えー、その時に作った連作大河落語『茜の生涯』の主人公、鍵家茜というんですが、今日は手前がその茜になりきりまして、その茜が演じているという体での深川版『天狗裁き』で短いおつき合いを――、
「えー、鍵家茜でございまして、あのー、人にはそれぞれ夢ってのがあって、あたしの夢は超合金のロボットになることなんですけども、夢ってのは将来の夢ってのと寝てる時に見る夢ってのとで同じ言葉で紛らわしいですね。不思議なことに英語でもこれは同じだそうで、かなり難しい英単語で、どうですかね、皆さんご存じですかね、ドリームっていうんですけど」
「ちょいとおまいさん、おまいさん、どうしたんだい。大丈夫かい、かなりうなされてたみたいだけど、どんな夢を見てたんだい」
「え、ああ、なんだおまえか、どうしたぃ、人の顔をそんなに見つめて、惚れ直したか」
「そうじゃないよ。あんた、突然うううって苦しみ出したんだよ。悪い夢でも見てたんじゃないのかと心配になってね、首を抑えてたけど、一体どんな夢を見てたんだい」
「いや、夢といわれても、別に夢なんか見てないけどな」
「そんなはずないよ、あんだけ苦しがってたんだよ、さあ、いってごらん、どんな夢だい」
「いやいや、夢なんて見てねえし、苦しくもなんとも。なに、ああ、確かにそうだ、夢なんてもんは起きたらすぐに忘れちまう、そりゃそうだが、思い出せっていわれても夢なんて本当に見てないんだよ。見てたらすぐに思い出すだろ、な、そうだろ、思い出せねえってことは本当に見てないってことで、見てないものをいえる訣がないだろ」
「なにか怪しいわね。あんた、まさかあたしにいえないような夢を見てたんじゃないのかい。そういえば最初はにやにや笑ってたけど、急に真顔になったり苦しんだりして、あんた、まさか夢の中で辻斬りでもして、あっ、それで返り討ちに遭って首を!」
「おいおい、なにを物騒な。たとえ夢でもそんなことするはずがないし、わかるだろ」
「じゃあ夢を見てたことは認めるのね」
「なんだよ、そのへんてこな理論は。夢なんて見てないって、さっきからいってるだろ」
「ははあ、辻斬りじゃないとすれば、そっか、そう、そういうことか、女、女の夢」
「それ、どういう理論だよ。辻斬りじゃなきゃ女とか、意味がわからんぞ」
「それで、誰の夢を見てたんだい。怒らないからいっとくれよ、たかが夢じゃないか。あたしではないだろうけど、吉原の馴染みかい、昔通ってた義太夫節のお師匠さんかい」
「おいおい、よしとくれよ。んな訣ねえだろ、吉原なんておまえと所帯持ってから一度も行ってないし、義太夫のお師匠は大昔に引っ越したっきりでどこでなにしてるかも」
「なにいってんだい、夢ってのはそういう昔好きだった相手が出てきたりするもんでしょ」
「おまえ……、もしかして普段からそういう夢ばっか見てんじゃないだろうな。そうじゃなきゃそういう発想は出てこねえぞ」
「な、なによあんた、自分が女の夢を見てたくせに、よりにもよってあたしに疑いを!」
「あ、おい、あ、やめろ、馬鹿、こら、首を絞めるな、馬鹿、馬鹿、苦しい、やめろ、手を離せ、死ぬ、死ぬ、誰か、誰か助けてくれ、殺される、助けて、頼む、頼むーーー!」
「なんとも物騒な所帯だが、こらお光さん、なにをやっとるんだ。夫婦喧嘩は犬も食わないというが、熊さん、大丈夫か、ああ、大丈夫じゃない、女房に首を絞められて死にかけた、ああ、まさにその瞬間を目撃したんで一目瞭然だが、一体全体なにがあったんだ」
「それが辰さん、聞いとくれよ、うちの人が昼寝しててにやにや笑ってたかと思ったら突然首を抑えて苦しみ出したんだよ。それで揺り起こしてどんな夢を見てたか訊いたんだけど、夢なんか見てないといい張って、それであたし、他人様にいえないような悪い夢を見てたんじゃないかと心配になってね、たとえば辻斬りする夢でも見て返り討ちに遭ったんじゃないかってそう訊いたんだけど、そんな訣ない、夢なんて見てないなんてとぼけるもんだから、ははあ、これは女の夢、それも昔好きだった女の夢を見てたに違いないと思って問い詰めたら、それはおまえがそういう昔好きだった男の夢ばかり見てるからだろなんて、よりにもよって、あたしのことを、あたしのことを、うう、ううううう……」
「ああ、ああ、お光さん、なにも泣くことはないだろ。いやいや、俺はこの熊とは子供ん時分からの仲で兄弟同然、こいつのことはなんでもかんでも知ってるが、こいつはそんな隠し事ができる性分じゃねえし、正直すぎるほど正直で嘘なんかこれっぽっちもいわねえ。それに今だって、あんたと所帯を持ってよかった、幸せだなあなんてよくいってたりするんだぜ」
「あら、あなた、そんなことを……、まあ、照れるじゃないの」
「そうそう、それよりうちのが今おかき焼いてて、よかったら行って茶でも飲んできなよ」
「あら辰さん、悪いわねえ。それじゃあまあ行ってきますけど、どんなおかきかしら」
「おお、行っちゃったよ、ああいやいや、辰っつぁん、すまねえなあ。助けて貰って」
「なあにあたぼうよ。おめえとは兄弟同然で困ってる時はお互い様、うん、それに女房に首を絞められても口を割らないなんてえのは亭主として見上げた根性ってやつだ、な」
「おいおい、おまえまでなにを」
「いやいや、おめえが辻斬りなんて物騒な夢を見る訣がねえってのは俺が一番よくわかってる、ああ、てことはどういうことか、うん、男同士二人きりなら話せるんじゃないか」
「えっ、えーーー、そ、それで隣に追いやったの?」
「女房にいえない夢の話なんてのは、ああ、そりゃ当然女の夢に決まってるだろ。昔好きだった女とか、あの艶っぽい義太夫節の師匠とか、あとはそうだな、先月おめえがやたら気に入ってた吉原のあの新造か。いやいや、俺は口が堅いからな、おめえもよく知ってるだろ、お光さんには絶対に内緒だ、ここだけの話ってことで一つ」
「よしとくれよ、夢なんて本当に見てないんだよ、おまえまでなにいい出すんだよ」
「ほほお、ここまで攻められてなお守ろうとするというこ、と、は……、熊さん、こらまた大変な夢を見たようだねえ。うーむ、さては天下の大奥に忍び込んで奥女中に手を出して首を刎ねられたか、いやいや、それどころか自分が将軍様になって大奥で酒池肉林の愛憎劇を……」
「そんな大それた夢、見る訣がないだろ、馬鹿かおまえは。大体そんなおかしな夢、仮に見てたら辰っつぁんにもお光にも自慢してるよ。現実味がないにもほどがあるぞ」
「というこ、と、は……、まさか熊さん、身近なところでうちのかかあに手を、あっ、それで女房にもいえねえ、俺にもいえねえって、貴様、そういうことか!」
「な、なにいい出すんだよ、んな訣が、あ、おい、あ、やめろ、馬鹿、こら、首を絞めるな、馬鹿、馬鹿、苦しい、やめろ、手を離せ、死ぬ、死ぬ、誰か、誰か助けてくれーーー!」
「なんとも物騒な長屋じゃなあ。こら辰、なにをやっとるんだ、おまえたちは兄弟同然の仲なんてよくいっておるが、熊さん、大丈夫か、ああ、大丈夫じゃない、首を絞められて死にかけた、ああ、まさにその瞬間を目撃したんで一目瞭然だが、一体全体なにがあったんだ」
「それが大家さん、聞いてくださいよ、こいつがね、昼寝してて夢を見てたらしいんですけどね、どんな夢を見たのかいわねえってんで夫婦で揉めてたんすよ」
「ほお、それで、うん、うん、ははあ、男同士二人きりなら話せるかと、そう思ったのか。愚かにも変なところだけ頭が回る奴だな、まあいいが、それで、熊さんは話したのか」
「いやいや、あっしは夢なんて見てないっていってんですが、全然信じちゃくれなくて」
「なーにを、女房に殺されかけてもいわねえくれえだ、これは他人様にはいえねえ凄い夢に違いねえってんで、たとえば天下の大奥に忍び込んで奥女中に手を出して斬り殺されたか、いやいや、女房にも俺にもいえねえってことは、身近なところでうちのかかあに手をってんで」
「それで喧嘩になったのか、馬鹿かおまえらは。大体、辰、おまえんとこの嫁を夢に見るなんてのは完全に悪夢だぞ。ん、まあ苦しんでたという点ではそういうこともありうるのか」
「さりげなくひどいこといいますね、大家さん」
「ひどいのはおまえの方だろ。そんな夢の話で喧嘩までして、一々仲裁に入る身にもなれ。それより辰、おまえんとこは先月の店賃もまだだったんじゃないか、こんな昼日中に遊んでおらず、さっさと仕事に出かけたらどうだ。長屋を追い出されたくないだろ」
「そうでしたっけ、まあ仕方ねえなあ、それじゃちょいと行ってきますけどね」
「おお、行っちゃったよ。ああ、大家さん、有難うございました、助けて貰って」
「なに大家として当然のことをしたまで。なんせお上から町役を仰せつかっている身、長屋で揉め事があれば解決するのがわしの役目。殺しでも起きようものならわしにまで累が及ぶでな。うん、それに女房に首を絞められ、さらに隣人に首を絞められ、それでも口を割らないというのは長屋の住人として見上げた根性というもの、そうだな」
「まさか、大家さんまで?」
「いやいや、熊さん、おまえさんが辻斬りなんて物騒な夢を見るはずがないし、大奥に忍び込んで奥女中に手を出すなんて大それた夢を見るはずもない、長年大家を務め、人を見る目は養っておるつもりだ。おまえさんがそんな夢を見るはずがないし、荒唐無稽にもほどがある」
「あ、そうですよね、すいませんね、疑ったりして」
「それで、どんな夢を見てたんだ。辰は口が軽いからな、いたら絶対にいえないだろ」
「えっ、えーーー、そ、それで追い払ったの?」
「当然だろ、その点わしなら安心だぞ。なんせお上から町役を仰せつかっている身、それに大家と店子は親子も同然、女房にいえず、隣人にいえずとも、このわしになら話せるだろ」
「よしてくださいよぉ。夢なんて本当に見てないんですって。大家さんまでなにを」
「ほほお、大家にまでしらを切り通そうとするとは、これは並大抵の夢ではないな、ますます気になる、どんな夢だ、辻斬りか、大奥か、やっぱり女か、違うか、女でないとすると……」
「な、なんで今一瞬身構えたんですか、あっしにはそんな趣味はありませんよ」
「いやわからんぞ、女房にもいえず隣人にもいえず、大家のわしにもいえんとなると、これはそういうことになるだろ。どうだ、本当のことをいわぬと誤解されたまま今後の人生を」
「なんですかその変な脅迫は。本当もなにも、本当に夢なんて見てないんですってば」
「まだ駄目か、ええいなんとも強情な奴め。店子の分際で大家のわしを翻弄しおって」
「いや、翻弄されてるのはあっしなんですけどね。最初から夢なんか見てないっていってるのに、なんで誰も信じちゃくれないんですか。本当に夢なんて見てないんですよ」
「ああ、そうか、わかったわかった。夢は見てないんだな、本当に見てない、ああ、そうか、そういうことなら、この長屋から今すぐ出て行って貰おうか。大家に隠し事するような奴を住まわせておく訣にいかんし、今日みたいな揉め事をまた起こされたら堪らんでな。ささ、今日中に荷物をまとめて、女房と二人でどこへでも行くがよい」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。急にそんなこといわれても、あー、きったねえ、たかが夢の話でそこまでしますか、あっしは出て行きませんよ、居座りますからね」
「なんだと貴様、出て行かぬというのならお奉行所に願い出て、お縄にして無理にでも!」
「そっちがそうするんなら、ああこっちだって訴えますよ、こんな理不尽な大家!」
「さあそういう次第で双方ともに奉行所に願い出まして、場面はお白洲でございます」
「北町奉行、遠山左衛門尉様、ご出座ー」
「麻布古川、家主・幸兵衛、並びに店子・熊五郎、揃いおるか。両名、面をあげよ」
「あっ、金さん!」
「なに、その方、今なんと申した」
「あ、ごめんなさい、ちょっといってみたかっただけで。いきなりいったらどうなるかなあ、なんて」
「なんのことだか意味がわからぬが、しかしその方たちの訴えはそれ以上に意味がわからぬ。夢の話で訴えを起こすなど前代未聞、この訴状によれば、はじめ女房が訊きたがり、次に隣家の男が訊きたがり、さらに長屋の大家が訊きたがった夢の話とある。しかし一向に口を割る気配なく、それどころか夢など一切見ていないと主張し続け、家主から立ち退きを求められてもなおも認めず、訴えを起こすと脅されるに至っては逆に訴え出ると返し、そうして双方の訴えにより本日の吟味と相なった訣だが、両名とも相違ないか」
「はい、相違ございません」
「へえ、その通りでございます」
「なんとも愚かな、このような馬鹿げた訴え、吟味するに能わず。家主幸兵衛、その方、お上から町役を仰せつかる身でありながら、夢の話などというつまらぬことに固執し、大家の立場を利用して脅迫、あろうことか住人を追い出そうとするとは言語道断である。そもそも、夢を見ていないとすれば、熊五郎の言動は首尾一貫しており、筋が通っておる。見ていないものをいえる訣がなかろう。それに対し周りの者どもはどうだ、夢を見ていたはずだとはなから決めつけ、やれ辻斬りだ大奥だ、女だ男だと勝手に盛り上がるばかりであまりにも愚か。どちらが正しいかは考えるまでもない。本来ならば家主幸兵衛、その方になんらかの責めを申しつけるところであるが、熊五郎のいい分を認め、夢は見ていなかったと納得するのであれば、今回のことは不問と致す。よいか、よいな。今後このような揉め事がなきように務めよ。本日の裁き、これにてお開きと致す。両名とも、下がってよいぞ……。あ、ああ、熊五郎とやら、そちは少し残れ、まだ手続きというか、そういうあれやこれが色々と残っておるでな」
「あ、へえ、なんでございましょうか」
「残ったな、ああ皆の者、おまえたちも下がってよい、人払いじゃ。ああ、行ったな、よし熊五郎、近う寄れ。もっと近う、もっと近う、もそっと、もそっと、ああそこでよい。いやいや、それにしても此度のこと、なんとも難儀であったな」
「へえ、でもこうしてお奉行様に信じて貰えて助かりました。誰も信じちゃくれなくて」
「いやいや、わしもな、はじめに訴状を見た時からあまりにも不憫で、これはなんとかしてやらなくてはと思っておったのだ。それにしても、女房に首を絞められ、隣人に首を絞められ、さらに長屋を追い出されようとしても己を貫くというのは町人として見上げた根性」
「あ、恐れ入ります」
「それで、どんな夢を見てたんだ」
「えっ、えーーー、ま、まさかお奉行様まで?」
「ずっと気になっておったんだ。はじめ女房が訊きたがり、次に隣家の男が訊きたがり、さらに長屋の大家が訊きたがった夢の話、そこまでいわれたら誰だって興味が沸くだろ」
「いやいや、だから本当に夢なんて見てないんですよ。さっき認めてくれたじゃないですか」
「まああれだけの人前ではいいにくかろうと思ってな。女房にもいえず、隣人にもいえず、大家にもいえないような夢だ。その点、わしは安心だぞ。なにせ天下のご公儀より町奉行という要職を仰せつかっておる由緒ある大身である。決して誰にも口外せぬと約束するで、どうじゃ、辻斬りか、大奥か、女か、男か。ほれほれ、もったいぶらずにいうてみい、苦しゅうない」
「そういわれましても、本当に本当に夢なんて見てないんですよ」
「そんなに恥ずかしがらずともよい。これから先、わしと顔を合わせることなど一度もないはずじゃ。それに、そこまで隠し続けるような夢、そちも本当は他人に話したくて仕方がなかったんじゃないのか。ああいやいや、周りが期待しすぎて逆にいえなくなったということもあるのか。まあしかしわしはそれでも構わんでな、どんなつまらぬ夢でも怒らぬゆえ、ささっ」
「いや、お奉行様にそういわれましても、見てないものは見てないというしか」
「まだいわぬか。そろそろ次が迫っておって切り上げねばならぬというに、まだか、まだか……。ええい貴様っ、一介の町人の分際で、この町奉行にまで隠し通すつもりか!」
「隠すなんて滅相もない、本当に本当に夢なんて見てないんですよ、見てたらいってますよ」
「おうおうおう、人が下手に出てりゃあいい気なもんで、あの日あの晩、見事に咲いたお目付け桜、夜桜を、まさか見忘れたとは、いわせねえぞ!」
「えっ、えーーー、そんなの見せられても、見たことないし、意味がわからないし」
「これでも駄目か、ええい、皆の者、出遭えぃ、出遭えぃ! この町人は奉行に隠し立てする不届き者じゃ、今すぐ捕縛し、白状するまでそこの松の木にぶら下げておけぃ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ、あ、ああ、本当にぶら下げられちゃったよ。こんな後ろ手に縛られて、蓑虫じゃないんだからさあ、まいったなあ、ちょっとそこのお役人様、これ緩めて貰う訣には、駄目、ですよね。あ、でもこうして手首を捻って、捻って、捻って、あ、少しずつ緩んできた。ん、あれ、あれれ、手首は緩んだけど、そのかわりに首が、逆に首に回した縄がきつくなって、あ、あ、これちょっと、やばい、やばい、首が締まる、締まる、おいおい、これじゃ首吊りだよ、あ、あ、苦しい、ちょっと誰か、助けて、首が、首が、誰か、助けて、ううっ、苦しい、死ぬ、死ぬ、誰か、誰か助けて、頼む、頼むーーー!」
「ちょいとおまいさん、大丈夫かい、どんな夢を見てたんだい」