寄席『木造モルタル二階建て』
えー、たくさんのお運びで、というほどでもないですかね。ちらほらと空席も目立ちまして、こういう時はまあいっちゃなんですが、お客様方も気が楽なんじゃないですかね。身構える必要がないといいますか、ああなんだガラガラかよ、これじゃ今日はまともな噺なんか期待できそうにねえな、しゃーねえ、スマホでもいじりながら適当に時間潰すか、ってな感じでしょ。もし違うという人がいたらごめんなさいね。まああの、こちらもですね、決して手を抜くという訣ではないんですが、こういう日は気が楽でして、それというのも作りかけの新作なんかを試すのにちょうどいいんですね。それでウケれば大儲けですし、ウケなくても、まあ仕方ないということなんですけども、えー、落語には知ったかぶりする輩なんてのが大勢登場して、その頓珍漢な屁理屈を面白がったり、あるいはやり込めてやろうなんて噺があったりしますが、ご案内の大河落語『茜の生涯』、その深川一門にもそういうのがいまして、
「おう穴ノ助、おめえさっきからずっとゲームばっかやってるが、せっかく二ツ目にあがったってのに稽古もせずになにやってんだ」
「なにって、そりゃ閉蔵あにさん、ゲームに決まってるじゃないですか」
「それはわかるんだが、なにも深川にきてまでゲームするこたあねえだろ」
「それがですね、うちの師匠にゲーム禁止されちゃって、ゲームは一日三時間までなんていうんすよ。たったの百八十分っすよ、ひどいと思いません?」
「三時間もありゃ十分じゃねえか。どんだけ甘いんだよおまえんとこの師匠は」
「やだなあ、ゲームは一日九時間っすよ、休んだ次の日はまとめて十八時間」
「ったく、『お菊の皿』みてえなこといいやがって。しかし重度のゲーマーが落語家になるってのも変な話だが、そんなゲームオタクが東大卒ってのがな、いまだに信じられねえというか、よく合格したな」
「そりゃ勉強も受験もゲームだと思えば楽しいじゃないすか。どう攻略しようかなんて」
「ほお、へえ、そういう考え方もあるのか。わかるようなわからないような、凄いとは思うんだが、でもおめえ、大学でもゲームばっかやってたんじゃねえのか、ちゃんと勉強してたのか、遊んでばっかで行くとこねえってんで仕方なく噺家になったんじゃねえのか。確か理系っつってたが、専門はなんだ、専門とか専攻とかあんだろ」
「あにさん、今いいとこなんで話しかけないで貰えますか。ギルドの仲間がピンチで助けないといけないんすよ。しかもこの桜子ちゃんってのが精神的にちょっと不安定で……」
「なんだそれ。まあ仲間を大切にするのは悪いこっじゃねえが、一門の先輩も大切にした方がいいんじゃねえのか。別に難しいこと訊いた訣じゃなし、なに、素粒子物理学、ほほお、そらまたご大層な名前だが、うん、うん、クォーク、トップクォーク、ああ、それくらい俺だって知ってるに決まってんだろ。あのあれだろ、腕時計の、そういう、な?」
「あにさん面白いっすね、それクォーツっすよ」
「ああ、まあなんだ、俺は文系だからな、そういうのには疎いというか、まあ文系っつってもどの科目もおめえの方が断然上なんだろうが、しかしなんだそのクォークってのは、ちょいと馬鹿にでもわかるように説明してくんねえか。ああ、ゲンシは知ってる。馬鹿にすんな、時代だろ、石の槍なんか持ってマンモスとか狩ったり、火山がやたら噴火してたり、な?」
「あにさんそれ原始時代っすよ。そうじゃなくて、じゃあブンシはわかりますか」
「おめえふざけてんのか、知らない訣がねえだろ、上方の重鎮だぞ」
「いうと思ったけど、落語家の名跡じゃなくて、H2OとかCO2とか、ほら、中学の理科なんかで習いましたよね。そそ、そういう構成単位っすよ。水とか二酸化炭素ってのが分子なんすけど、分子は原子の組み合わせでできてて、その原子は原子核と電子から成り立ってるんすよ。そこまではいいすか、一応義務教育で習うと思うんですけど、ところがそれをさらに突き詰めると、その原子核は陽子と中性子ってので構成されてて、さらにその先ということになると……」
「ああ、ああ、そういうあれか。それくらい俺でも知ってらあ、知らないでか」
「本当に知ってます、原子核の周りを電子がぐるぐる回ってるんすよ。それももの凄い速さで回ってるんすよ。それこそ『反対俥』どころか、光速に近いくらいの速さっすよ?」
「ああ、そういやそんなこと習ったな。教科書にもそんな図が載ってた気がする」
「いやいや、教科書に書いてあるだけじゃなく、実際にそうなんすよ。たとえば今あにさんの体を構成してる物質も、顕微鏡で見ると何億何兆、さらにそれ以上の膨大な数の分子でできてて、その分子は原子の組み合わせでできてて、そしてそれぞれ原子核の周りを電子がぐるぐる回ってるんすよ。それも二十四時間ノンストップ、寝てる時も起きてる時もっすよ」
「えっ、俺の体内もか。ああ、そういわれるとなんだか、全身がくすぐったいというか、くねくねするというか、あ、なんか今いい感じでコリがほぐれて、ああ、気持ちいい……」
「本当に理解してます? たとえば体の中だけじゃなく、今あにさんの目の前にある空気も分子でできてて、その分子は原子でできてて、そして原子核の周りを電子がぐるぐる回ってるんすよ。な、なんすか、突然そんな真顔になって」
「おいおい、おめえいくらなんでもそれはねえだろ。文系の俺だってそれくらいの嘘はわかんぞ。大体だな、固体はいいとして空気は気体だろ。な、そうだろ、世の中には固体液体気体ってのがあんだよ。常識だぞおまえ。それなのに、そんな目に見えないもんを例に挙げて、空気も原子でできていて、原子核の周りを電子がぐるぐる回ってます、だと? いくら俺がFラン卒の文系だからって、そんな見え透いた嘘に騙される訣がねえだろ!」
「ああ……、あにさん、あれっすね、それ文系とかいう以前の問題ですけど、ま、まああにさんがそういうなら別にそれでもいいですし、どうせ目には見えないですもんね」
「お、おう、どうしたぃ、ゲームはどうした、帰るのか、ああ、帰って自分とこで落語の稽古をする。まあそれが普通なんだが、ああ、本当に帰っちゃったよ、どうしようもない奴だな。しかしあれだな、戸ノ助師匠もよくあんなのを弟子に受け入れたもんだな。まあ東大出身初の落語家志望なんていうんで、どの師匠も扱いに困るってんで断ってたらしいが、戸ノ助師匠はうちの師匠の一番弟子、師匠以上に自由奔放な自由人だからな」
「ガラガラッ、ただいま戻りました」
「おうピック、今帰りか。どうだったぃ、シさしぶりの寄席の高座は。ウケたか、ウケなかったか、まあ訊くまでもなく後者だろうが」
「その通りですけど、あにさん、師匠いますかね、それか穴ノ助君きてませんか」
「穴ノ助ならさっきまでゲームしてたが帰っちまったな。師匠はあれだ、朝いってたろ、今日は茜を連れて和歌山に遠征で、ついでにパンダの赤ちゃん見るってんで遅くなるとよ。まあいきなり主人公が留守ってのはどうなのよって気もするが、そういうのはあまり気にすんな」
「じゃあ今いるのあにさんだけっすか、あーあ、訊きたいことあったんだけどなあ」
「なんだその訊きたいことってのは。古典でよければ教えてやるが、どうせ新作の方か」
「実はですね、こないだ師匠から本を読むようにいわれたんですよ。ケンブンを広めるためとかなんとかいって。まあケンブンってなにかよくわからないんですけど」
「おめえは世間知らずだからな。古今稀な純粋な馬鹿というか脳みそからっぽというか」
「それは自覚してますけど、それで本を読めっていわれて、ただ、なんとなしに読むんじゃなく、少しでも疑問に思ったりわからない言葉があったりしたら訊けっていうんですよ。知らないままでいるのが一番幸せだけど、それだと知ってて知らないフリができないだろって」
「師匠は色んなテクを持ってるからな。落語界の異端児と呼ばれるだけあってあの引き出しの広さは相当なもんで、それはいいとしてその訊きたいことってのはなんだ」
「えー、でもあにさんにわかりますかね。やっぱり穴ノ助君がきた時にでも」
「馬鹿にすんなおめえ。俺だってFランとはいえ一応は大卒の学士様だぞ。ひれ伏せ」
「それじゃ訊きますけど、あのー、本読んでてふと思ったんですけど、ベニヤ板ってどういう板なんですかね」
「なんだおめえ、そんなの本読む以前の日常の言葉じゃねえか。ベニヤも知らねえのかよ」
「いや、聞いたことはあるんですけど、でも具体的にどういう板かって考えたことなくて」
「そらおまえ、ベニヤ板っていうくらいだからな……、多分、べにゃってなってんだよ」
「えっ、べにゃってなってるんですか」
「ああ、べにゃってなってんだよ」
「へえ、でも板ですよね。板なのにべにゃってなってるんですか、硬くないんですか」
「そりゃまあ板だから丈夫には決まってんだが、ただ、あまり硬すぎるってのも問題でな、たとえば重い物なんか載せたら一気にバキッと折れちまうだろ。ベニヤ板ってのはそうじゃねえんだ、柔軟性があって撓るんだな。普段は硬いんだが、重い、重い、ああ、ちょっとそれ重いんですけど、あ、やばいやばい、ああもう駄目、折れる、折れる、折れます、折れます、ごめんなさいってな時にな、べにゃっと撓って折れずに済むんだ」
「ああ、そうだったんすね。へえ、あにさん物識りっすねえ」
「まあな」
「じゃあほかにも訊きますけど、あのー、ホーロー鍋ってありますけど、あれは。ああ、はいはい、放浪の旅なんていうホーロー、久しぶりに使おうとしたらどこにしまったかわかんない、でもほったらかしにしても大丈夫、へえ、勉強になるなあ。じゃああにさん、ブリキって、あれは材質はなんなんですかね」
「そりゃブリキってくらいだからな……、木だろ。ああ、ああ、金属じゃねえんだ、実はな。でも勘違いすんな、ただの木じゃねえ、ほれ、ブリキのおもちゃを思い出してみろ。なんか表面がテカテカヌルヌルしてるだろ、あれ、ブリの表面みたいに見えないか。ああ、その魚のブリだ。あのブリみたいに光沢があって水を撥くってんでブリキって名付けたんだな」
「でもなんでブリなんですか、それならイワシでもサンマでも、カツオでもマグロでも」
「そらおめえ、ブリキなんてのは子供のおもちゃに使うだろ。ブリといえば出世魚、子供が立派に育ちますようにって、縁起を担いだんだな」
「あー、はいはい、それはなんか凄く納得できたというか、あにさん博学っすね」
「まあな」
「それじゃ次ですけど、トタン屋根のトタンって、なんなんですかね」
「そらおめえ、雨が降ったらトターン、トターンって音がする屋根だろ」
「ですよねえ。いやあ、それは自分もそうかなって思ってたんですけど自信がなくて」
「なんだおめえも知ってたんじゃねえか、もっと自信持てよピック」
「そうなんですけど、生まれつき自信が持てない体質というか、それじゃあにさん、次はステンレスなんですけど、いや、もちろん金属ってのは知ってるんですけどね、でも鉄なら鉄っていうし、銀なら銀っていうし、アルミならアルミだし、よくわかんなくて、これもしかして、ステーンって感じですかね?」
「おお、いいとこに気づいたな。あのあれだ、スッテンコロリンって言葉があんだろ、あのスッテンを滑らかにした感じだな。ほれ、鉄のスプーンなんかは錆びたりするしちょいとごつごつしてるが、ステンレスのスプーンは滑らかな感じがするだろ」
「じゃあレスってのはなんですかね」
「そりゃまあ、スプーンのカーブの部分だな。柄の部分はステーンって感じで一直線に滑るんだが、カーブにさしかかったあたりで、ステーン・レー・スーって感じで曲がるだろ」
「いや、でもそれはなんかいい方次第じゃないですか。それならステーン・ツー・ルーでもいいですし」
「馬鹿かおめえは、落語と現実をごっちゃにすんな。まあちょいとわかりにくいが、F1レースなんかでスプーンカーブってのがあるだろ。あのレースってのは実はそういう曲がる感じを表現した言葉なんだな、ステーンって一直線のあとでレー・スーって曲がるんだ」
「でもあにさん、ステンレスってスプーンだけじゃなくてフォークとかナイフとか色々ありますよ」
「それはあれだ、ステンレスで最初に作ったのがスプーンだったんだな。それでステンレスって名前がついて、フォークとかナイフとかはあとにできたんだ」
「ああ、はいはい、最初にスプーン、それはなんか、あるような気がします」
「気がするじゃなくてあるんだが、まあいいか、で、次はなんだ」
「えっと、次は諺なんですけど、七転び八起きってあるじゃないですか。小説の主人公が何度もそれいうんですけどね、何度も読んでるうちになんか変だなあって気がしてきて」
「ああ、それか、どうせあれだろ、七回転んだら起き上がるのも七回っていうんだろ、な、本当おめえは馬鹿だな、ちったあ頭使ったらどうだ。これは知ってる知らないじゃなくて、どう考えるかっていう頭脳の問題だぞ」
「いやあそういわれても、七回転んだらやっぱり起き上がるのも七回だし、転んで頭でも打って、それで数え間違えたんですかね、それとも数えてる途中で刻を訊かれたとか」
「馬鹿だなおまえは。人生七転び八起きっていうだろ、人生ってのは最初どういう状態だ、それを考えたら一発だろ」
「えーと、人生の最初は、ああ、はいはい、赤ちゃんですね、なるほどなるほど、最初っから寝転がった状態ってことなんですね、へえ、あにさん賢いっすねえ」
「これは賢い賢くないの問題じゃねえぞ、大体このネタは落語にもあるし、ちったあ落語の勉強したらどうだ。まあいいけどな、それで次は、またカタカナ語か、それで、なに、リノリウム、ああ、それも同じ小説に出てきて、ああ、はじめて見る言葉でさっぱりわからない、なにを寝ぼけたことを、おまえリノリウムも知らねえのかよ」
「ええ、それで、リノリウムってなんなんですかね」
「そりゃおめえ、リノリウムはリノリウムだろ。そんなの常識だぞ、就活に出るぞ」
「いや、そのリノリウムがどういうものかを知りたいんですけど、本当に知ってます?」
「なんだおめえ、俺が知らないとでも思ってんのか。そんで、そのリノリウム、その本ではどんなふうに書いてあったんだ。ほれ、たとえば目覚まし時計が止まってて電池を交換したとか、アイドルのコンサートでなにかを振り回したとか。あるいは原始時代の化石を見つけたとか、もしくはローマの皇帝とか、ギリシアの数学者とか、物理の法則とか……」
「あにさん、まさか乾電池とかペンライトとか、あとヨーロッパ風のそういう名前だと思ってません?」
「ば、馬鹿いえ、今のはおめえを試したんだろ。あんな、俺がいいたいのは、たとえ言葉がわかんなくても周りの文章からなんとなく類推できるだろってこと、それが読書の醍醐味だろ」
「あー、あにさん深いっすねえ。えーとですね、確か病院の場面だったと思うんですけど、リノリウムの床って書いてあったんですよ。そこで子供が寝転がって怒ったりなんかして」
「ああ、やっぱそうか、そりゃそうだな、病院の床っつったらいうまでもなくリノリウムだからな。リノリウムじゃない床を探す方が難しいってなもんで、まあ簡単にいうとだな、抗菌だ、抗菌の床だな。その抗菌の薬剤がリノリウムって名前なんだが、実はこれが商品名なもんだから、N丸Kなんかだとリノリウムといえなくて、抗菌加工の床なんてぼかしていうんだな。だからまあ、おめえが聞いたことねえのも仕方ないっつーか、知らない人も結構いるわな」
「ああそうなんですね。それじゃあにさん、次の質問ですけど、木造モルタル二階建て」
「ほほお、なるほど、おまえもついにそれに気づいたか。ああいやいや、別に謎や陰謀なんかじゃなくて、基本的にはセメントやコンクリの仲間なんだが、ただのセメントじゃないんだな。あのな、セメントってのはほっとくとすぐに固まるってんでいつもかき混ぜてるだろ。そんでミキサー車なんかで工事現場にきて急いで流し込むんだが、急ぐからどうしても外に漏れちまうんだな。その漏れたのをもったいないってんで樽に詰め込んで固めるんだ。それがモル・タルだ」
「はいはい、セメントの再利用なんですね。へえ、それはエコですねえ」
「そうそう、エコなんだなこれが。だから木造モルタル二階建てなんていうと、大体エコな人たちが住んでるだろ、な。それで次は、ああ、アルマイトか、あれはかなり危険だぞ」
「いや、あにさん、それダイナマイトですよね、そうじゃなくてアルマイトなんですけど」
「馬鹿かおめえ、ダイナマイトは大爆発を起こすだろ、だからダイ・ナマイトっていうんだ。そうじゃなくてアルマイトってのは、まあ大爆発ってほどじゃねえが、ある程度の爆発を起こすってんでアル・マイトだ。それくらい言葉の語感から想像できるだろ」
「うーん、でもあにさん、アルマイトの弁当箱って出てきたんですけど、それだと意味が」
「おっとそれはかなり危険だな。それどういう小説に出てきたんだ、爆発物処理班とかは、登場しない、しない、ああ、それならそうだな、たとえば、凶悪なテロ事件が起きて幼稚園バスが襲撃されたり、女王様が動物を連れて冒険したり、巨大生物ロボットが悪の組織に改造された大仏兵器と戦ったり、その十八体の大仏ロボが最終的に世界を救ったり、国連総会に呼ばれて芸能を披露したり、最後の最後で主人公が婚活したり……。違うのか、なに、中年のおっさんが自分の人生を懐古する物語。随分と無駄なもん読んでんだな、おまえ。まあいいんだが、なるほどそういうパターンか。ああいやいや、普通はアルマイトっつえば爆発するんだが、そうやって爆発すると見せかけてしないっていう、そういうパターンもあるんだな。たとえばおめえ、弁当箱ってのはふた開けるまで中身がわかんねえだろ。ドキドキワクワクするだろ、な、それを比喩的にアルマイトって表現したんだな。ダイナマイトほどではねえが、ある程度びっくりするってな具合にな」
「えー、でもなんかそれは違うような気がするんですけど。納得できないというか、あにさん、なんか適当に答えてませんか、本当に知ってます?」
「なんだてめえ、人がせっかく教えてやってんのに疑うのかよ。本当の本当だ馬鹿。しかもあれだぞ、弁当箱なんてのはごはんの上にふりかけかけたりすんだろ、な。そんでそのふりかけ、海苔のほかに大葉とかしその葉とかも混じってんだな。つまりどういうことかといえば、アルマイトだけにハッパをかける、えー、おあとが宜しいようで」
「あにさんそれ絶対嘘でしょ。もしかしてさっきのブリキとかベニヤとかも全部でまかせで、知ってるのトタンだけだったりしませんか。本当に知ってて答えてます?」
「なんだとこの野郎、まるで人を知ったかぶりみたいにいいやがって!」
「あっ、あにさんやめてください、やめてくださいよ。そんな、暴力は駄目ですってば」
「あいてててっ、貴様、たかが掴んだくらいで押し倒すこたあねえだろ。柱で頭打っちまったじゃねえか、あいててて」
「大丈夫ですかあにさん」
「ったく、大丈夫じゃねえよ。あーあー、目がちかちかする、くそっ、頭打ってくらくらするし、目はちかちかするし……。ああ、そっか。原子核の周りを電子がぐるぐる回ってらあ」