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俺の彼女はネット小説家

作者: 白花 舞雪

閲覧いただき、ありがとうございます。

もうすぐバレンタインデーなので、バレンタインデーにちなんだお話を書いてみました。

短めのお話です。

小さい頃からずっと好きだった彼女。


幼なじみとして長い付き合いを経て、一年前、ようやく念願の恋人同士になった。


2月14日、バレンタインデーに俺から告白した。だから、バレンタインデーは俺達の大切な交際記念日。


勿論、彼女と大切な記念日を祝う、はずなのだが。


「ねえ、純也!あそこのカップル、告白してる!」


少し声を抑えながらも、興奮した様子の彼女、千代が俺に話しかける。


目を向けると、高校生くらいの少女が同年代であろう男子に真っ赤になりながら、チョコレートを渡していた。


俺は生返事を返す。

そんな俺に彼女は気にもせず、真剣に携帯で文字を打ち始める。

おそらく、メモにネタを書いているのだろう。


そう、俺の彼女はネット小説家なのだ。

彼女は中学生の頃から、アニメや漫画、乙女ゲームというものにハマりだした。


そして、SNSでネットの友人と漫画やアニメなどを元に、理想のエピソードを二次創作していた。


それが、時の流れと共に、ネット小説に移行し、気がつけば、彼女はネット小説家になっていた。


時代の流れは凄い。こんなに簡単に誰でもが小説家として物語を紡ぐことが出来るのだ。


俺は彼女の趣味をとやかく言う気はなかった。


彼女はいつか自分の単行本を出すことが夢らしい。

彼女の夢は俺の夢だ。俺は彼女の夢を応援した。


しかし、彼女は良い雰囲気になっても、小説のネタを優先するのだ。一年経って、慣れてきた部分もあるが、少し寂しい。


「ねえ、今度はあっちでチョコレート渡してる!良い雰囲気だけど、年の差凄くない?禁断の恋愛かな?」


キラキラした目で、野次馬根性丸出しの彼女は昔と変わらない無邪気な笑顔を見せている。


俺は彼女の笑顔にめっぽう弱い。

だから、寂しさもあるが、彼女を笑顔にするなら、小説家としての活動も悪くないのかもしれないと思うくらいだ。


そう思って、俺は我に返り、首を小さく振る。


いや、一年経った今日こそは、彼女に俺を異性として意識させると決めた。


去年のクリスマス、ロマンチックな場所に連れて行き、愛を語ったが、俺の愛の囁きよりもイルミネーションのコンセプトと周りのカップルの観察の方が彼女の興味を引いてしまった。


俺のあの虚しさと恥ずかしさといったら、もう。


街をきょろきょろしながら、歩く彼女。

後ろから猛スピードで走ってくる男性に気がついていないようだ。


俺は腕をぐっと掴み、自分の方へ向ける。

俺の胸に彼女の頭がこつんと当てられた。


「あんまり余所見していると危ないぞ」


すると、彼女は固まったように動かなくなる。急に引っ張ったから驚いたのだろうか、俺は不安になって、彼女の顔を覗き込もうとする。


すると、彼女が急に動きだし、俺の顎と彼女の額がぶつかった。


「いって…わ、悪い」


「ううん、私もごめん…」


しばらく、彼女は俯いた。

長い髪から覗く耳は少し赤い。


余程、痛かったのだろうか。それとも、大学生にもなって、思い切りぶつかったのが恥ずかしかったのだろうか。


俺は急に覗き込もうとしたことを申し訳なく思った。


「本当こういうことさらっと出来るの無自覚天然人たらしなんだから…」


ぶつぶつと何かを呟いている。ネタが思いついたのだろうか。


何かを呟いた後、携帯を開き、文字を打ちはじめた。おそらく、ネタが思いついたという俺の勘は当たっていたようだ。


小説に没頭すると、彼女は今まで話していたことや怒っていたことをすぐに忘れる。


すぐに普段通りに戻った彼女を見て、俺はほっとした。


俺達は暫くして、予約していたレストランに辿り着いた。

今日、俺はここで改めて彼女に想いを告げるのだ。


意識させるために、1ヶ月練りに練ったプラン。勿論、席は個室にした。


彼女は他の客の様子が見れなくて、残念そうだが、これで、この俺に数時間は集中してもらえるだろう。涙ぐましい努力だ、心の狭い男だと思わないでくれ。


料理が来始めると、彼女は写真を撮りながら、「次の話で料理についても書こう」などと話している。


メインを食べ終え、デザートが来る。

店員さんが、ロウソクのついたケーキを笑顔で運んできた。


「おめでとうございます」


彼女は目を白黒させる。

ケーキのプレートには「Happy 1st Anniversary 」とチョコレートのペンで書かれていた。


「今日はバレンタインデーだけど、俺達の記念日でもあるだろう」


俺は店員さんに頼んで、写真を撮ってもらうことにした。


「えっ、写真…そんな可愛い格好してないよ、私」


俺は狼狽える彼女の肩を抱く。


「千代はいつも可愛いだろ」


すると、彼女はいっそう大きく肩を揺らした。急に肩を抱いたから驚いたのだろうか。


普段あまりこんなに密着しないし、写真も撮らないからな…


記念にも収めたいし、たまにはいいだろう、と自分に都合の良い解釈をする。


「行きますよ、はいチーズ」


店員さんが元気よく声をかける。

パシャリ、とカメラのシャッターの音が聞こえた。そして、彼女はすぐに俺から距離を置く。


そっと、先程まで俺が触れていた肩を手で押さえている。その仕草は流石に傷つくぞ。


若干傷心した気持ちになりながら、店員さんからポラロイドカメラで撮られた写真を受け取ろうとすると、彼女がすかさず、その写真を奪い取る。


「絶対恥ずかしい顔してるから純也には見せない!」


そう言って、まだはっきり写っていない写真を胸に押し付ける。


彼女に元々プレゼントするつもりだったが、見れないのは残念だ。


粘ったが、元々一回決めたら譲らない彼女は断固として写真を見せてくれなかった。


付き合えて、一年一緒に居てくれたのが奇跡なほどの温度差が俺達にあるようにしか思えない。


しかし、俺はめげない。

今日の俺は一味違うのだ。


写真を見せるのを譲らなかった彼女は、少し罪悪感があったのか、おずおずと不安そうな表情で、俺にチョコレートを差し出してきた。


「その、1年間ありがとう。これからも、よろしくね」


辿々しく紡がれた言葉に俺は天にも登る気持ちだった。


口に合うといいのだけれど、と付け加えた彼女に促されて、箱を開けると、そこにはハートで象られたフォンダンショコラが入っていた。


今すぐ口に入れたかったが持ち込み飲食になってしまう。家に帰って、写真を撮って、一口ずつ味わって大切に食べよう。


不器用で口下手な彼女の言葉とチョコレートは俺にとっては何よりのプレゼントだった。


このプレゼントに勇気付けられた俺は席を立ち、隠していた袋から薔薇の花束を取り出し、片膝をついて、彼女の前に差し出す。


「こちらこそ俺と一緒に居てくれてありがとう。ずっと大好きだったけれど、千代と恋人同士になって、幼なじみの時には知らなかった一面も見れて、前よりももっと好きになってるよ。これからもよろしくな」


昔は乙女ゲームも好きだった彼女だ。

恋愛小説も書いていることから、こういうことに憧れを抱いているのでは、と踏んだのだが…彼女からは全く反応がない。


呆然とした彼女は暫くすると、ハッと我に帰ったように目を見開き、顔を紅潮させて、薔薇の花束を受け取った。


「ありがとう。良いネタになりそうだわ」


てっきり意識してくれたから顔が赤くなったのかと思ったが、どうやら良いネタを掴んだ時の興奮から来るものだったようだ。


俺は肩透かしを食らったような気分になりながらも、彼女の夢のサポートが出来たのだと前向きに喜ぶことにしたのだった。





「この前の話、花のネタにしなかったんだな」


数日後、彼女の書いた小説を見た俺は、何気なく彼女にそう言った。


すると、何故か彼女は俺を睨んできた。


「当たり前でしょ!書けるわけないじゃない、あんなの…」


俺は地味にショックを受ける。

渾身のアプローチだったのに…

ロマンス小説では花束を持って告白するのが王道じゃないか。俺の参考にした小説ジャンルが悪かったのだろうか。


俺はショックで彼女が何やらぶつぶつと呟いている言葉を聞く気になれなかった。


どうせ、文句や愚痴に決まっている。

俺はそっと心の耳を閉ざした。


「あんなの書けるわけないじゃない…思い出すだけで、恥ずかしくなって、ドキドキして…大体、クリスマスの時だって、突拍子もなく、あんなこと言い始めるから、しばらく耳から離れなくて、寝れなかったんだから。小説も全然捗らなくなるし…」


涙で霞む俺の目に、彼女の顔がぼんやり映る。顔を真っ赤にしていることから、おそらく怒っているのだろう。


「何で、素直になれないんだろう…」


ぶつぶつ呟くのを止めた彼女は大きく溜息をつく。彼女を意識させるのは、まだまだ遠そうだ。空振りし続けている。


俺と彼女が恋人らしい関係になるのは、まだ先の様だった。

天宮 純也(20)

千代が大好きな天然無自覚人たらし。


如月 千代(20)

ツンデレ気味のネット小説家。


良ければ、評価、ブックマーク、コメント等よろしくお願いします。励みになります。

このシリーズとは別に長編をいくつか書いているので、良かったらそちらもご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘く初々しい、平凡で穏やかな恋模様が描かれていてほっこりしました。 [一言] 意図的にかもしれませんが、書かれているのは純也視点なのに、千代の方が主人公のように思えますね。
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