夏の憂鬱
木々に止まる蝉の鳴き声。
風に揺れる風鈴の音。
真っ青な空、そして瑞々しい緑。
照りつける太陽。
そう…夏がっ!やって来ました!
「んん~っ」
心の中でそう叫びながら、私は目を開きベッドの上で大きく伸びをする。
同時に出そうになったあくびを少しだけ噛み殺しつつも、外に這い出る。
「烏有、早く食べないと遅効するわよ!」
「ふぁ~い…」
母の言葉に気の抜けた返事を返しつつも、制服に着替える。
今日から夏服。つまり半袖のシャツだ。
また、私の通う中学は、夏と冬で制服のデザインが変わるので、かなり気に入っている。
他の学校はダサいらしいが、自分の学校には関係ないということであまり気にしてない。
パジャマを脱いでシャツ、スカート、リボンをつける。
この動作を繰り返すのも後、15日。
それだけすれば、もう夏休みだ。
勉強は好きじゃないので、休み自体は楽しみなのだが、夏休みになれば学校に行かなくなり友人との関係が希薄になることが怖かった。
もし、夏休みが終わって学校に行ったとき、皆が冷たかったら───
そこまで考えて勢いよく首を振る。
そんなことを考えても仕方がないということはわかっている。だから、気にしないようにしよう。
心とは裏腹に体は刷り込まれた動作を繰り返す。
いつの間にか着替えは終わっていた。
髪を整えるために鏡に向かう。
鏡に写るのは、少しうねりのある真っ黒な髪に、目に深い蒼色の少女。私、語打烏有の姿だ。
自分で言うのもあれだが、ぶっちゃけかわいいと思う。
特段裕福でもなく、貧乏でもなく。
ごく普通の家庭で生まれ育った私だが、もちろん裕福な暮らしには憧れる。
特に、魔法───
100年ほど前に開発されたというソレ。
アニメやマンガが大好きな私にとっては少し、いや、かなり羨ましい。だが、適性を調べるだけでも多額の寄付をしろ、と言われるらしい。
ふざけんな!と思う。
それを知ったときには、思わずベッドに潜り込んで叫んでしまったほどショックだったのを覚えている。
恥ずかしすぎる……
まあ、それはさておき私と同じことを思った人はたくさんいるらしく、抗議がたくさんあったらしい。
まあ、昔の話だから詳しくは知らないんたけれど。
「いただきます。」
温めた白米と味噌汁を食べつつも、そんなことを考えていた。
傍らでテレビで流れ続けるニュースを聞きながら、なんとなく時計に目を向ける。
すると、なんということでしょう!
いつもならもう外に出ている時間だ。
「んグッ!?」
思わずむせてしまった。
二度見する。
しかし、結果は同じ。
「──なんでいってくれないのさ!」
「さっき言ったでしょ。早く食べないと遅刻するって」
……言ってたような、言ってなかったような?
とにかく、残りのご飯を無理やり口につめ込み、お弁当と鞄を持って外へと飛び出す。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
母のいつも通りの言い方に少し余裕が生まれる。
その飛び出した勢いのままに学校に向け、走り出す。
少しの憂鬱を心に含ませながら。