闇の行き着く場所
レストラン極美 特別フロア
レストランの入口とは別に存在する隠れフロア
入口も解りづらく壁との区別がつきにくい
その扉を開けると近代和風な木と石で創られた廊下が現れ中庭のある部屋へとつづく
障子の前で正座をして挨拶をする若頭
「入れ」
道山の言葉で障子を開ける
若頭は頭をさげ、上げて部屋へと眼をやると
3人の男が座っている
見るからに癖のありそうな3人
この国の政治家である
「この男は?」
太っているせいかヤケに脂ののった男がタバコを消しながら道山に訪ねた
「うちの№2で若頭の佐藤です」
「信用できるのか?」
歯の出た丸顔の男が言葉を言い終えるのと同時に道山を見る
「もちろんです」
道山も男を見て応える
「どうでもいい、早く話の本題に入ろう」
腕を組み少し声の高い男がせっかちに割って入る
テーブルの上には見たことのない様な魚や
見るからに高そうな赤身肉
キャビア等が並んでいる
政治家達は酒を飲まず食べ物も食べずに話はじめた
「とにかくまずい状況だ!先日、東都レトロ銀行に強盗が入って射殺された事件があったろう」
丸顔の男が少しムキに言う
「ありましたね、でもそれがなにか」
道山は冷静に返すと太った男が
「あの強盗が盗ったのは金だけじゃなく貸金庫の物も入っていたんじゃ!その中にレトロ銀行頭取が持っておったの貸金庫の中も盗られ警察に流れた」
「それが何かやばい物でも?」
話が見えない道山、若頭は道山の後で正座をして3人を見ている
「我々の計画書が入っていたんだ」
腕をくみ人差し指で肘を叩きながら高い声が入ってくる
「‼」
道山の表情が変わった
「あの中には我々の名前も入ってる、勿論お前もな!入ってきた情報だと明日にもガサ入れが入るんじゃ」
脂が汗を吹き出す
「そうすればワシらがこの国の王政を奪取しようとしている事も公になり、全ての計画が消えワシらも終わりじゃ」
そう言うと汗を拭き、テーブルの水を飲み干した
「頭取も事情聴取大丈夫ですか?ゲロしたら偉いことになりますよ」
道山が心配そうに口を開くと
「そこは俺が手を回した、あいつは明日にはこの世にいない」
丸顔が親指を立て首の前で横に線を描く
「そこでだ計画書を全員ここに持ってきて1箇所に隠そうじゃないか、あれが無いと進められんしPCじゃハッキングの可能性も高いからな」
太った男がタバコに火をつけながら道山へ言う
「解りました、今取ってきます」
そう言うと道山が立ち上がる
すぐ若頭も立ち
「俺が取ってきますよ」と言うが
「あれは俺しか知らない場所にあるからお前はここに居ろ」と言葉を返されるも廊下へ引っ張られる
道山は若頭と3人から見えない所に行くと
「あいつらなんか企んでる、ここに居て見張っとけ!何か解ったらトイレか何処かで俺に連絡しろ」と若頭の耳元でささやき店を出ていく
若頭はようやく自分が呼ばれた意味を理解した
とは言え、企みがあったにしろ道山の手下である若頭の前で企みを解らせる程3人も馬鹿では無い
ようやく食事に手をつけ始め黙々と食べる
正座している若頭が3人に口を開く
「あのぉ」
「なんだ!」
丸顔がすぐ怒鳴り口調で返す
「私話が見えないんですけど」
「知らないなら知らんでいい!!」
若頭の問にも怒鳴り口調で返す
高い声が横から
「そう言うな!副総理、道山君が呼んだのにもきっと意味があるんだろう、どうせだから教えなさい」と演説口調でに入ってきた
「総理がそう言うなら」とつまんなさそうに言いながら話をつづける
「お前はウェザーって暗殺集団聞いたことあるか?」
若頭はピクンと顔を上げ
「都市伝説的なあれですか?」
「あぁ、アレは都市伝説では無い実在するんだ
しかしアレらは何故かしらんが王は暗殺対象外にしとる」
はぁ?とした顔で3人を見渡した
「そこでだ君達の組でウェザーの様な暗殺者を創って王政を我々に変えようとしてるのだよ」
「そこまでして王政を捕りたいんですか?」
丸顔に少し低い声で訪ねる
「あぁそうだよ、今の王は戦争をしないからな、
君も知ってるだろ チャレンジ半島のチャレンジ共和国」
「最近よくミサイル飛ばしてるアレですね」
「そうだ、最近ニュースになってるだけで20年位前から計画はあったんだ、その標的が我が国とキャンディサイエンス州国家なんだよ!
王には何度も言ってるのに奴は何もしない!
だから我が国は馬鹿にされ標的にされんだ」
若頭は頷いた
青年の存在意味も理解し
全てが繋がった
部屋の空気は少し重くなる
「君もこの話を知ったからもう共犯だ、我々と共に闘ってもらうぞ」
高い声で冷静に釘をさされる
丸顔がニヤっと笑った
一方道山は計画書をもってレストラン極美へ向かっている
窓に映る顔は険しい
運転手は怖いので喋らない
運転手は怖い顔の癖に道山に怯えて眼が可愛く丸くなっていた
道山は思う
政治家の狸3人がバラバラに1箇所に集まるのはよくある事だが3人が一緒に集まり自分を呼ぶ
若頭を呼んでもせっかちに話を進める
いつもなら自分の力を誇示するのに今日はしない
そしてあの3人が考えそうな事····
道山は後部席の下からなにか出し自分の背中にセットした
運転手はミラー越しに道山の行動を見て生唾を飲んだ
道山が出したのは小型機関銃だったのだ
車はレストラン極美に着く
運転手は挨拶も早々に走った
なるべく遠くに行こうとアクセルを踏む
ヴォオォオっ重低音のきいた音が遠くなる
車が見えなくなり黒服が居なくなったのを見計らい
向かいのビルの隙間から青年が顔を出し道山の後を追う
入口の前で黒服達は挨拶をして道山を見送る
庭園をイライラしながら歩き障子を音を立て開け閉めする
パシャッ!パシッ!
道山は貞腐れた子供の様に計画書をテーブルに投げる
若頭が上着を取ろうとするも拒否してあぐらをかく
若頭がなげられた計画書を、揃えながら覗く
20年前からこの計画は進んでいた
選別する男
出産から育成まで
そして王の暗殺の段取りと暗殺日
来年の2月26日
革命日となっていた
覗き込んでる若頭の耳元で何か解ったのか?とボソッと早口で訪ねるも若頭は首を横に小さく振った
「さて道山君、君は同じ暴力団の任侠会を知っているか?」
汗をかきなから胸元をゴソゴソする
ほれ、来たと言わんばかりに睨みを聞かせ3人を見る
「実は任侠会がヒットマンを結構抱えていて、こっちのほうが手慣れたのが多いからそっちに王政奪取の話を持っていこうと思うんだよな」
そう言って拳銃を道山に向けた
同時に道山も背中から小型機関銃を抜く
「オヤジ!」
一瞬の二人の行動に若頭がうろたえる
総理大臣、副総理も拳銃を抜く
カチャカチャ!
銃口は道山の顔、躰に向いていて
艶のない黒さがより殺気をかもし出している
その殺気から本気度を読み取った
「オメーらヤクザより汚ぇな」
道山が低い声を絞り出す
総理は片目をつぶり的を絞りながら
「君はお金がかかる上に信用できない」
と高めの声で拳銃をつき出した
ガバッ!
「ちょっと待って下さいよ!なんすかコレ!」
若頭が両者の間に大の字にして身体を入れると3人の銃は若頭を的にした
その頃青年は通路で黒服が一旦離れたのを見計らい入口を探す
サバイバルで、教えてもらった隠し扉の探し方がこんな所で役に立つ
壁に手を押し当てながら壁の厚みと温度を手のひらで読む
叩く方法もあるがそれでは相手に気付かれる
1箇所に風が当たる感じの場所を見つける
壁の温度が少し違う
よしっと頷く青年は中へ入る
その瞬間心臓が高鳴る
ドクッ!ドクッ!
突然冷たい気配が背中に抜ける
後に誰か居る!
動かしたくても身体が震え動けない
本能が青年を止めている
見てはいけない、振り返っちゃいけない!
何かにそう言われている感じたのだ!
初めての感覚に怯える
そして気配が消えたと思うと
す~っと黄色いレインコートを来た小さい人が青年を追い越す
レインコートは障子の前で立ち止まり
腰のあたりで手を開く
青年はただ見るのが精一杯だったが次の瞬間この世の光景とは思えぬ状況を確認する
一方部屋の中では若頭を挟んで揉めている
「どけっ若頭!」
前から後ろから同じ事を言われる
正直、若頭もこの後の納め方がわからなくなっていた
ぷっぷぷっぷ
障子に無数の小さい穴が開く
「ちょっと皆さん、落ち着い...」
言い終わる前に道山の横の障子から光る細いものが微かに見えた
その瞬間!
道山の動きが止まる
「なっ!かっ!はっ!」
眼を見開き口を開けたまま声にならない声をだした
「雨糸!?」
若頭がつぶやく
「来てくれましたか、よろしくお願いします」
丸顔が嬉しそうに笑いながら障子に軽く会釈をすると
道山の首から下が障子の方へ心太の様に刻まれ引っ張られた
ブィシャッ!!
一瞬で血の雨が引っ張られた方に吹き出す
血の勢いで首は障子を突き破り中庭へ飛びレインコートの上を抜ける
黄色いレインコートは血をかぶり赤色にそまる
ドサッ!ゴロン!
青年の前へ道山の首が落ちる
見開いた眼と青年の眼が合う
青年は腰を抜かす
言葉もでずに中庭のジャリを手でかき回す
ジャリジャリジャリ
逃げたくても逃げれない!
「なんだアイツは?」丸顔が青年をみつける
「見られたならヤりましょう」太った男は汗が止まらぬまま青年に拳銃をむける
すると総理がせっかくだからと手を上げ
「すみません、この二人も追加してください」
高い声でレインコートに叫ぶ
この三人の政治家
人が眼の前で粉々になっても全く動じない
それどころか、そばを注文するかの様に殺しを追加した
レインコートは背中を向けたまま
「ツイカハミトメナイ!ジャマスルワケデハナイノデコロサナイ!」
男とも女ともとれる舌っ足らずな話し方で拒否される
なら私が!と脂ののった手が若頭へ向けられ銃が準備される
その光景を見て青年は父親が眼の前で撃たれたのを思い出す
イヤダ!イヤダ!イヤダ!イヤダ!イヤダ!イヤダ!イヤダ!
頭にイヤダがならぶ
実は青年は若頭にここに来るように言われていた
若頭を襲って返り討ちにあった時
「いいか、よく聞け!
道山のやり方は俺には合わない、
だから道山の行動を監視していたんだ
そしたら今日が尻尾を出す日なんだ
俺は監視していたのに、お前の親父さんを救えなかった事を後悔している
根回しはしてあるから、今夜逮捕劇が始まる!
そして、それを見届ける権利がお前にはある!
少ししたら繁華街に有るレストラン極美へ来い」
優しさには色々な形がある
青年は若頭に父親と同じ匂いの優しさを感じていた
震える足を殴る!
「わぁアァあ!」
ロケットの様に若頭の方へ飛ぶ!
パン!
拳銃が火を吹くと青年が横に飛んだ
「オイッ!」
若頭が転がる青年の方へ駆け寄る
「大丈夫っ!腕かすっただけです」
腕から血を流して作り笑いをしながら震える青年
若頭の顔色が赤黒くなり眉からおでこにかけて縦のシワが入る
「てめぇらぁ」
若頭が地の底から湧き出すように怒りをあらわにする
怯む二人を横目に総理が
「二人共死になさい」
少し高め声で言うと銃が火を吹き
我に返る様に二人も銃をうつ
パンッ!パン!パンッ!と銃声が部屋に鳴り続ける
カチカチっ3人が弾切れになると硝煙の匂いが3人を包んだ
ダダダダッ!
廊下や中庭へ機動隊と警官隊が一斉に入ってきて3人の政治家へ銃や盾が向けられた
なんとも情けない顔で銃を捨て両手を上げる3人
人生の終わりを感じたのだ
レインコートの男はいつからか居なかった
その日の夜
レストラン極美の前には凄い数のパトカーと野次馬
スマホやカメラの音が鳴り響く
そんな中1人の少女が極美を背に人混みをかき分けて行った
テレビやラジオ、インターネットは大賑わい
新聞も号外が出た
政界のトップと№2、金融政策庁の代表が内乱罪及び殺人罪で捕まったからである
そして被害者も載っていた
極興業 極 道山
極み興業 №2 若頭 佐藤
身元不明の若者1名
死亡