存在証明
青く澄み渡る空
白のグラデーションで浮かぶ雲は夏ならではの物
日に照らされた木々の深い緑がのどかさを演出するも
とてものどかさとはかけ離れた雰囲気になっている
「小僧はどこだ?」
道山が男に口を開いた
男は道山の車が見えた時に青年を逃していた
「なんの事かな?誰もいないから勝手にいすわっちゃったけど、持ち主さんなら謝るよゴメンね」
男はとぼけて頭をさげる
輝きのない眼で男を見る道山
男と道山は16年会っていない、顔も老けてかわってるのでバレないと踏んだ
「なら、質問を変えよう、なぜお前がいる」
「!!」
憶えてる訳がない
カマかけられてるだけだ
男は汗をかきなから自分に言い聞かせた
「ハイキングしてたら山小屋みつけて、そしたらここに来ちゃったんだよね」
とぼけ通す男を見透かしたように道山は一瞬で銃を抜き男の眉間に生暖かい銃口を押し当てた
少し遅れて運転手も銃を抜く
「小僧の父親がなにしてんだ?って聞いてんだよ」
大きく低い声で怒鳴り、銃を撃てるようにセットする
木の陰でそれを聴く青年
"父親?あの人が俺の親父!!"
青年はとまどうもうれしかった
自分に親がいた、しかもそばにいて色々教えてくれた
思い出が頭を駆け巡る!
名前も戸籍も無い自分の存在証明が見つかった気がした
「人違いですよ」
銃口を頭にグリッとされ
男は両手を上げながら怯え口調で言った
「下手な芝居だ、ギャンブルで借金作って、種売ったんだろうが!!」
静かな口調から怒鳴り始めた
瞬間
男は道山の銃を上から叩き、下がった手を掴み銃を廻し奪い取る
「流石兵士だな」
それでも顔色一つ変わらない道山
男は銃口を道山に向けながら後へさがる
「聞いたんだよ、道山おまえ暗殺者<アサシン>創る為に俺を嵌めたんだってな!」
太陽光を銃口に光らせ男が道山へ叫ぶ
「女と嵌めたのはお前だろ」
ちょっと上手いこと言ったみたいに道山が口元を緩ませた
ハハハ!と運転手が嘘の笑いを道山に聞こえるようにする
「自分の子供に人殺しなんかさせるかっ!」
男がそう叫ぶと青年は涙を流しはじめた
今迄押し殺していた感情が溢れ出た
ガチガチと歯が鳴るくらい口元には変な力な入り
“うヲイ!うヲイ!”っと呼吸が出来ないくらい嗚咽する
腰から力が抜け膝を着く青年は少しずつ呼吸をならす
「あいつは俺が連れて帰る!」
男がその言葉を放つと道山は青年が近くにいると悟る
「なぁ世の中を服従させる方法しってるか?」
「何いってんだ?」
道山の突然の質問に男は驚く
「小僧!よく見ておけ、俺に逆らう奴の末路を!」
怒鳴る道山に青年は殺気を読み取った
「親父〜っ!!」
木の影から飛びだす青年に男は慌てて振り返る
背中越しベルトから小型拳銃を抜き男の頭を撃ち抜く
パンッ!
乾いた火薬音がのどかな山に短く鳴る
「恐怖だよ、服従させる条件だ」
小型拳銃のため頭が吹き飛ぶ事は無いが
玉は頭を貫通して青年の前で男は血を吹き出し倒れた
青年は眼を大きくして大きな絶望を感じた
自分を人として見てくれた父親が
目の前で死んだ
悔しさや悲しみもわからない何も無い物が青年の心を占領する
道山は黙って青年の手を後へまわし手錠をかけて車の後部席へ投げ込んだ
さらに手錠とポールを繋ぎ身動きできないように固定する
運転手が助手席を開けると
静かに乗り込んだ
男の亡骸を置いたまま車は走り出す
「小僧をカシラのとこへ連れてくぞ」
道山は運転手へ伝え、眠りついた
青年は自分の存在意義を見失い
目と口を開けたまま長い道のりを過ごして行った