先輩
サラリーマンと若者で賑わう居酒屋
スタッフの声もお客様に負けじと賑わいに勢いをつけてる
僕を助けてくれた人の行きつけらしい
さっき僕を助けてくれた男
見た目はヤンキー顔だ
良く言えば切れ長の眼
僕の率直な意見は細い眼、筋肉質な顔立ちもあり格闘家いそう
髪も短めで、かっこいいか悪いかで言うと
カッコ良い
周りは乾杯や愚痴が飛び交い騒がしい
泥だらけの服と顔にも心にも泣き跡も残る中、この賑やかさは救われる
「あのぉ さっきはありがとうございました」
ちゃんとお礼も言えないままついてきたので改めて僕は頭をさげた
男は届いたばかりのビールを飲みながら
手の平を僕の顔の前に出した
多分いーよ、いーよって言ったと思うが飲みながら答えられたので定かでは無い
男はビールを飲み干すと大きなゲップをして
僕を見た
顔は怖いが眼は優しい
男は何故殴られてたか聞いてきたので事情を話した
相槌を打ちながらおかわりのビールを口にした
男は沢山の言葉をくれるわけではないが
要所、要所に短い言葉で僕と話してくれる
気がつけば僕は身の上話までしていた
正直、余り人には言いたくない話なのに
会ったばかりの人に語っていたのは自分でも驚いた
僕はウーロン茶を飲み干してもまだ喉が乾く位話した
僕の身の上話が始まってから、男はジョッキに手は掛けているものの
一口も飲まず僕を見て話を聞いて
少し細い眼に涙を浮かべて頷いていた
ギャップもあるがこの姿勢は凄く好感がもてた
僕が話し終えると男は焼き鳥を横から一気に喰らいつき
お絞りで目を拭いた
口の周りに焼き鳥のタレがついていた
女の子が初めて口紅でイタズラしたみたいになってる
その後ビールを飲み干すと口の周りはキレイになっている
ムダが無い!!
僕は本気で感心した
男はタバコに火を付け僕に
「お前この先どおすんの?」
と、イキナリ核をついてきた
僕はハッと我にかえり背筋を伸ばす
真顔が怖い男と体が小さい僕
この光景は周りからみたら軽く事件な感じ
先の決まってない僕は答えようがなくただ口を開け宙を見た
「お前いま何歳?」
「16になったばかりです」
「俺の仕事場に来るか?人手不足なんだよ、日雇いだけど楽しいぞ」
男は優しく微笑、タバコを消してビールを飲む
僕は2つ返事でお願いした
「よしっ お前は今日から俺の後輩!俺の事を先輩って呼べ」
嬉しそうに親指を起てていた
この日先輩と夜まで語った
生まれて初めて人と長く話した
生まれて初めて楽しかった
先輩は泊まりに来いと言ってくれたが
初対面なので僕は漫喫に泊まることにする
夜が明け
泥だらけの服は捨てて
待ち合わせしている駅前広場へ行く
先輩は先に来ていて、5分もしないうちに
白い?汚れたワゴン車が来た
「おはよーごさーす」
適当な挨拶でドアをスライドさせると
運転席にワゴン車が小さく見えるほど大きな男がいた
「おはよー、そいつは?」
男は挨拶も程々に先輩にきく
「俺の後輩です、こいつと一緒に働きたいんですけどお願いできませんか?」
先輩は手を合わせ軽く頭をさげた
「いーよー採用」
笑いながら、男は軽く僕を採用した
僕は先輩と働く事になった
車を走らせながら挨拶をすます
運転席の男は親方
先輩とは5、6年の仲だそうだ
30分しない位で現場に着き
作業服を渡される
Mサイズしかないらしい
身長160センチ 体重50キロの僕にはブカブカだ
更衣室が無いため車で着替えるが、肉のない体が恥ずかしく思えた
工事現場ではブカブカが危険なので親方が腕と足の関節を紐で結んでくれた
藁納豆みたいだと先輩は大笑いしていた
アルミの棒みたいのを運ぶ
力の無い僕はフラフラしながらも親方の元へ行く
親方は優しく笑いながら僕を励ましてくれる
掛け声が「筋トレ筋トレェ〜」は笑った
肉体労働も悪くない
昼食時現場近くの大通り沿いへ行った
証券会社や銀行が多いらしくしっかりしたビルが建ち並んでいる
定食屋を探すもガッツリ食べれそうなお店は無く
どちらかと言うとカフェみたいな落ち着かないごはん屋さんが多い
場違いな感覚でご飯を食べる
先輩は至って堂々としていたのがカッコよかった
食事をすますとお店の中から先輩は楊枝を咥えながら喫煙所をさがしている
キレイに掃除されている窓は外をみるのにうってつけ
クーラーの効いた所から探せるので先輩は喜んでいる
「あれは何の建物だ?」
先輩は大通り向こうにある、モダンな石造りの建物を指差した
僕はその指した方を見る
「東都レトロバンクって書いてありますよ、銀行ですね」
喫煙所ない建物じゃんと言わんばかりに両手の平を上にあげた
しかし、銀行の脇にタバコ屋と灰皿を発見
銀行が派手すぎてわかりづらい
先輩は嬉しそうに横断歩道を渡り
僕はタバコを吸わないけど先輩の後を追った
午後の仕事が5時に終わる頃
僕の手足はパンパンだった
「うちで働く限り毎日が給料日!」
親方が楽しそうに御給料をくれる
僕は初給料で湿布を買いに行った
先輩が歓迎会をしてくれるとの事で、僕は昨日の居酒屋へ行く
道中、絡んできた連中がいるんじゃないかとびびっていた
「へいらっしゃい!」
威勢のいい声が板場から聞こえる
板場の前のカウンター席に先輩がいた
席に座ると同時位でお絞りが前から置かれ
「マスター、こいつ俺の後輩!よろしく頼むね」
既に何杯かのんでる先輩はご機嫌に僕を紹介してくれる
マスターは僕と同じ位の身長なのにガッシリとした体が羨ましく見えた
僕の毎日が変わり始めてきてる
いい方に
たった2日間なのにそう感じていた
この時、明日おきる事件に
僕と先輩が巻き込まれるなんて
この時は知る由もない
あと2回で僕と先輩編終わります