僕
僕は人生の面白さを知らない
僕は親の顔も知らない
僕は人の優しさもわからない
施設の前に捨てられていた僕は拾われた時にニュースになった
人生で最初で最後の光を浴びた時
話題になったせいか、施設のお兄ちゃん、お姉ちゃん達によくイジメられた
そのうち顔色をうかがう生活が続く
何がいけないのか悩むうちに自分という存在が解らなくなった
子供のイジメは残酷だ
相手が反抗しないとわかったら
トンボの羽をムシったり、カエルを踏み潰すような感覚で僕に攻撃してくる
なにかした訳でもなく、そこに存在するだけで
攻撃が始まる
味方はいない
事務的な施設の大人は見てみぬふり
無表情のまま
子供にはわからない言い訳でウヤムヤにする
そこで感じたのは
僕は工場の流れてくる部品と同じ
傷があったら捨てられる
問題は無い方がいいみたいだ
外部から人が来るときだけ笑い
僕達を見る時はつまらないテレビを見てる時と同じ顔
唯一笑顔で接してきた大人は施設に来てすぐ幼児わいせつで連れてかれたっきり会わなくなった
施設を出れば何かが変わる
そう信じていたので僕は耐えた
イジメにも感情のない大人にも
何度か死のうと思ったが
死ぬ事での解決が何だか余計惨めになり
死ぬために用意したロープは施設を出る時の引っ越し用に使った
15の春
施設を出て住込みで働いた
ベタな話だが飲食店
それなりに名のある料理屋だが
料理を教えてもらった事は無い
兄さんと呼ばれる人達はよく金を借りに来る
料理屋は賃金が安いからだと僕に愚痴る
返された事のないお金を貸し続けた
それでも僕は話しが出来る人が出来ただけ幸せになった
と思っていた
ある日、板長さんの包丁が歪んでいた
誰かが落としたらしい
口数が少ないからか、新人だからか
僕が疑われた
僕は断固否定をしたが、空気的に僕じゃなきゃいけない感じになっていた
良くも悪くも僕は空気を読むのが上手いと思う
3ヶ月で住むとこと職を失った
店を出る時兄さん達がお金を返してくれた
貸した金額の5分の1位だけど2週間は何とかなりそうだ
次の仕事を探そう
僕は繁華街を歩いた
人が沢山いるのが怖いけど、お店も沢山あるので仕方ない
夜の繁華街、人材募集の張り紙をみながら歩いていると
何だかヤケに凄んでいる人達に絡まれた
歳はそんなに変わらなさそうだが
3人に怒鳴られると怖い
僕がその人達を睨んだと言っていたが覚えは無い
反論した時殴られた
僕は人生の面白さを知らなかった
僕は人の優しさを知らなかった
この時までは
3人に殴られ、蹴られ
痛いというよりは攻撃される度に暗いとこがチカチカするのが怖くかんじた
大きな声と攻撃が僕の身体を動かなくする
狙いは僕の財布
1人が大きな声で僕に財布を出せと顔を近づけてきた
このお金を出したら明日から生活出来ない
でも出さなかったら怖い思いが続く
そう···思った瞬間
顔を近づけてきた男の顔が僕から離れていく
その時の男の顔はバンジージャンプをしてる芸人のようで
たまに思い出すと笑える
繁華街の光のせいか誰が来たのかは分からないが
その人は3人をあっと言う間に倒した
「大丈夫か?」
光の中から差し出された手はとても優しくて
頼りになるロープみたいに僕はしがみついた
お礼が言いたいのに
言葉より涙の方が先に出て
僕は手を掴んだまま嗚咽交えで暫く泣いていた
その人は僕の手の上に手を重ね
ギュッと力を注入するかの様に握ってくれた