冷めた牢は声の中
瞼の裏に薄く灯が浮かぶ。
とても懐かしい現実を見ていた。登りきった太陽の日差しを浴びながらしばらくぼうっとする。それは疑問と記憶の再生の試みのための時間だった。とても懐かしい夢を見たのに何一つ思い出せない。夢なんてそんな薄弱なモノだと自分を諦めさせた。情景も、声も思い出せないのにはっきりと覚えている言葉はあった。聞いた感触と抱いた感想、それしか覚えていないのだ。
「枝垂は、外に出たい?」
どうして外に出てほしくないという声音をしているのにそんなことを聞くのか。なぜそんな優しくて、甘くて、私の神経を溶かすようなくらい蜜に溢れたおぞましい声で。抱いた感想はそんなもの。声も覚えていないのだから本当にそんなことを言っていたのかすらも私の思い違いかもしれない。
それでも耳にこびりついたこの言葉は思い出すと船に酔ったような感覚がする。何に酔うのかもわからないままに。
ドアの奥から軽い音が鳴る。
「枝垂、起きてる?いえ、もう起きてなきゃいけない時間なのだけど。」
こうやって彼女が確認する場合は危険信号。ああ、怒ってる、怒ってるぞ。
「残念ながら私は寝てる。起きる気配もないよう。」
そして起きていることを確信しているから部屋に来るのだ。
「そう?」
カチャ、とドアが小さな警報を鳴らす。覗くのは蒼いドレスと長い髪。
「いい加減にして。今日はスクルドと約束をしていたでしょう?」
「え、そうだっけ。」
惚けたのではない、本当にそんなのは初耳だ。
「覚えてないの?まったく。」
仕方ないなぁ、と彼女は呆れたように言う。
「まぁ、速く準備するから。スクルドをなだめてて。」
「はいはい、怒られることは覚悟してね。」
そうして私は暖かな布団から出ることになった。いや、なってしまった。