何やってんだよ。
「おい。瑠奈から聞いたけど。手、大丈夫か?」
早速、拓也に電話をかけてみる。
「ああ。大丈夫。痛かったけどな。ビックリしたよ。まさか護身術かけられるとはな。俺、何か嫌われることしたかなあ?」
「ったく!何やってんだよ!手を掴むことは紳士的とは言えないだろうが。怒りながらも心配してたぞ。」
「だって、逃げようとしたんだもん。」
拓也が電話の向こうで泣きそうな声を出す。
…拓也の方が女みたいだ。
「言っただろ?瑠奈は、めんどくさいことが苦手なんだよ。」
「でも、会いたかったんだもん…。」
鼻をすする音が聞こえる。女の子に、しかも気になる相手に、そんなことをされて、相当ショックだったらしい。
「瑠奈は中身は男だって、わかっただろう?普通の女の子の方が、拓也には合ってると思うよ。」
「そうかなあ…。手を掴まないって約束したら、会ってくれないかなあ。」
まだそんなことを言う拓也に呆れながらも、学は心配になってきた。一人にしておくのが気がかりだ。
「家飲みでもするか?」
「いいの?」
拓也は途端に明るい声を出す。
…これだから、憎めないんだよな。
「暇なら今からでもいいぞ。」
「材料持ち込みで行く!実家から色々と届いたところなんだ。」
「お。旨いな。」
学が思わず声を上げる。学が褒めたのは、一夜干しのスルメのマリネ。カフェのアンティパストにあっても劣らない味だ。他にも納豆スパゲッティ、根菜の和え物。ジャンルはバラバラだが、それぞれ美味しい。拓也は料理上手なのだ。拓也の母親は料理研究家で、地元ではちょっと名の知れた人物なのだ。
「瑠奈ちゃん…。」
美味しい料理とは裏腹に、しょげ返ってグラスを持つ拓也。学にしてみたら、まだ懲りてないことの方が驚きだ。
「僕はぁ~。パクパクたくさん食べる瑠奈ちゃんを見てぇ…グスッ…僕のお料理を食べて欲しいと思いました…でぇ~す。…グスッ…。」
…ダメだ、こりゃ。…あ。瑠奈に連絡するの忘れてた!
慌ててLINEを開く。まだバイト先なのか、何も通知は来てない。
『手は無事。』
急いで送信する。目の前の拓也を見ていると、それ以上、打てなくなった。




