吉野の家の面々その②
「お父さん。学が可愛い彼女、連れてきてるわよ。」
佳奈が父の巌の書斎に顔をのぞかせる。
「お。そうか。もう着いたのか。」
「知らなかったの?」
佳奈は目を丸くする。
「お母さんが呼びに来るとばかり思ってたから。」
佳奈がため息をつく。父はいつもこうなのだ。
「早く会ってあげないと、帰っちゃうわよ。」
どれ、とソファから体を起こして書斎を出て、佳奈に連れられるようにして庭に出る。
「お待たせ。」
庭で所在なさそうにしている2人は、佳奈の声でホッとした表情をした。
「親父、久しぶり。」
「初めまして。」
瑠奈が頭を下げる。
「これはこれは。外で立ち話もなんだから、中で…。」
「ここでいいよ。すぐ帰るから。…朝倉瑠奈さん。同じ大学に通っているんだ。俺、見合いする気ないから。瑠奈とは結婚も考えてる。」
「そうか。まあ、無理しなくてもいいぞ。まだ結婚のことなんて考えなくていい。見合い話を断るために連れてきたんだろう?お母さんが何か焦っていてな。…君も、わざわざ来てもらって済まなかったね。」
「…いえ。そんな。」
「お母さんはどう言ってるんだ?…まあ、想像がつく。見合い話は気にするな。私からも言っておくから。」
「ありがとう。助かるよ。」
「ありがとうございます。」
佳奈がいなかったら、巌に会うこともなく帰って行くことになったのかと思うと、佳奈にも感謝である。
佳奈の運転で駅まで送ってもらう車中、瑠奈はホッとして、ぼーっとしていた。人見知りの瑠奈にとって、なかなかのミッションだったのだ。…と、唐突に佳奈が言った。
「あなた達、このまま付き合っちゃえばいいのに。」
「何言ってんだよ。」
「あら、いいじゃない。私、瑠奈ちゃんいいと思うわよ。それこそ、義妹には瑠奈ちゃんみたいな可愛い娘がいいわ。」
「姉貴、よせよ。今日は、このために猫かぶってるだけなんだから。」
「まあ、確かにスカートに慣れてないようだったわね。でも、こんな美人さん、学がそうそうつかまえられるとは思えないわよ。」
…そうか。同性から見ても瑠奈は美人の部類に入るのか。
「瑠奈ちゃん。こんな弟だけど、よろしくね。今度はゴハン行こう。」
「はい。ありがとうございます。」
駅のロータリーで言葉を交わす。
「学、また連絡してね。気をつけて帰ってね。」
「ああ。今日は、ありがとな。」
母の櫻には驚いたが姉の佳奈の優しさに癒やされた瑠奈だった。




