男前。
気持ちがほぐれ、ホッとした二人は、一晩話さなかっただけとは思えないほど、たくさん話した。もう学校のことは二人とも忘れ去っている。
「ところで…。」
「何?」
また瑠奈を怒らせてしまったのかと、学はドキッとする。
「見合い、結局どーすんの?」
「どうしよう…。」
「どうしたい?」
「破談がいいな。二度と親が言い出さないような。」
「シナリオは?恋人役が必要なら、やるよ?」
「いいの?」
学が驚いた顔をする。
「学と私の仲だろが!ストレートに相談してくれれば、最初からノッたに決まってんじゃん。」
「瑠奈〜!お前って男前だなぁ。」
瑠奈は“男前”という言葉に爆笑する。
「それで、親御さんの好みは?“女装”は必須だよな。」
「そうだな。好みは姉貴に探りをいれてみる。」
こんな男前な瑠奈が女の子らしい服装をするのは、女装という表現が相当だろう。
「女の子らしい服、持ってないんだ…。」
困ったように言う瑠奈。メンズものばかりなのだ。
「“女装”の費用は俺が出すから。」
言いながらも、学は瑠奈の女装が想像がつかない。見てみたいような、怖いような…。
「オイ。何ジロジロ顔を見てんだよ!想像してんじゃねーだろな?」
「イヤ、その…。」
「学!女装をすることは、私にとってハードルの高いことなんだぞ!もし女装した姿を見て笑ったら、殺すぞ!」
「物騒だなぁ。ところで、声のトーンを下げよう。女装という言葉にまわりが反応している気が…。」
確かに。店内を見渡すと、目が合うかどうかで、サッと背を向ける人ばかり。みんな様子をうかがっているようだ。さすがの瑠奈もこれには赤面する。
「さ、さてと…。シナリオは?」
「とりあえず、“会わせたい女性がいる”と電話しようかと。」
「ふむ。素性はどうする?ウチ、普通のサラリーマン家庭だけど、大丈夫?」
「相手の情報を入手して、考えようと思う。まず何より姉貴に連絡だな。」
「見合いの相手?ああ。資産家のお嬢さんみたいよ。ルックス?親にはウケが良さそうで、アンタの好みには当てはまりそうにないわね。茶道花道は常識よ。見合いなんだから。何?会ってみる気になったの?」
「いや…。お袋たちにはこの電話のことは内緒にしておいてくれないか。見合いする気はないんだ。」
「その代わり、口止め料は高いわよ。」
「わかったよ。」
姉の佳奈が電話の向こうでクスクス笑っている。
「何か面白いことでもあるの?」
「…また電話する。じゃあ。」
資産家のお嬢さん…。どう出るべきか。瑠奈がどこまで化けられるのか。佳奈との電話を切ってから悩む学だった。




