瑠奈とオカン。
「コーヒー、飲む?」
「うん。ありがと…。」
瑠奈の前にコーヒーを置くと、時絵はクスクス笑いながらテーブルを挟んで向かい合う。
「久々にやったわね。何かあったの?」
「別に…。アチッ!」
「今日は何時から学校?今に“お迎え”が来るんじゃない?」
「来ねーよ!」
ピン・ポーン…。
インターホンが鳴る。
「来たじゃない。」
学がモニターの向こうで頭を下げている。
「いないって言って!」
「“いないって言って!”って言ってるんだけど。」
呑気に応対する時絵に瑠奈が慌てる。
「何やってんだよ!」
乱暴にインターホンを切ると、次はスマホが鳴る。きっと学だろう。
「ケンカ?彼氏なんでしょ?」
「彼氏じゃない!」
「違うの〜?けっこう気に入ってるんだけどなー。」
「アンタが気に入ってもしょうがないでしょう!」
「若いっていいわね。そうそう。浩司にどのくらい飲ませたの?一応、高校生なんだからね。」
少しだけ怖い顔をして釘を刺す。
…良かった。意外。こんな一言で済んだ。
瑠奈はホッとする。時絵が怒った時は、雄一郎よりもタチが悪いのだ。
「はーい…。」
「電話くらい出なさいよ。失礼よ。」
「ったく!どいつもこいつも!…もしもしッ!朝からうるせーんだよ!」
部屋に向かいながら通話ボタンを押す。
「昨日は本当にすまなかった。」
「何に対して?騙したこと?」
「そう…。」
「それより、私といると、ご縁が遠のくっつったの、アンタだろが!学校なら一人で行けば?」
「そのことも、ごめん。」
瑠奈の怒りは収まらない。騙すくらいなら、自身の見合い話について、きちんと相談すれば良かったと後悔しきりの学だが、瑠奈は容赦ない。
「何にしても、寝起きだから出られない。じゃあね。」
「…待ってくれ!今日は俺がミスドで待つから。」
返事をせずに電話を切ると、ベッドに潜り込む。…と、そこに時江がやってきた。
「また寝てんの?学校あるんでしょ?」
「ほっとけ!」
「洗濯したいから着替えて。ホラ!」
「寝させてくれたっていいじゃーん!」
観念して、しぶしぶベッドから出て着がえる。時江は洗濯物をためるのが嫌いなので、コレを言われると家族の誰もが逆らえないのだ。
「かーっ!かったる~!」
リビングに降りていき、ソファに横たわる。
「!!」
視線を感じて起き上がると、斜め向かいの一人がけソファに学が座っている。
「ま…ひ…なに…?」
“学、人ん家で何やってんだよ?”と言おうとしたがびっくりして言葉にならない。
「ごめん。瑠奈のお母さんが、どうぞって言ってくれたから。」
学が済まなそうに言う。
「オカン、何やってんだよ!」
思わず声を張り上げる瑠奈だった。




