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PRINCESS×KNIGHT  作者: Kyo
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第一話


西暦2030年。4月20日。

人々の間には、ある不思議な力が備わっていた。

火を操り、水を操り、風を操る。そんな力を。

太古の、それも神代の時代より受け継がれてきたその力。人々はそれをいつしか「魔法」と呼び、畏れながらも気軽に、友のように暮らしてきた。

やがて人は科学を生み出し、歴史とともに発展させていった。

無論、魔法も然り。

だが、良い面ばかりでもない。

魔法を悪用する者も、当然出てくる。


「ねえ見た? 今朝のニュース」

「見た見た! また通り魔でしょう? 怖いよねー」


 近年、魔法使用による犯罪が増えている。

 無論、それらの犯罪を取り締まる法律もあり、専門の人員も存在する。

 だが、犯罪の数というのは、何時の時代も減らないものである。どれだけ犯罪者を捕縛しようと、どれだけ法律を制定しようと。

 そして。そんな魔法の使い方を教えるための教育機関が、魔法学院だ。

 小・中・高・大学が一貫となった、所謂マンモス校。

 この世界の人間は、多かれ少なかれ全員魔力を持っている。ゆえに、魔力を制御する術を早いうちから学ばせるために、こうした教育機関がある。

 魔法学院にも色々あるが、その国が出資している国立の学校に行くのが一般的だ。

 魔力の発現は大体3~5歳までの間に現れて、小学校入学の年齢になると、無意識ではあるが。物質を手を使わずに持ち上げたり、地面から少し浮いたりする。これらは魔力の軽い暴走状態のようなもので。現在ではそれを抑えられる魔法道具も販売されている。

 そして学院に入学すると、まず魔力の制御方法を教わる。これを最優先で覚えることで、意識していなくても魔力は落ち着き、安定する。

 こうして段階的に魔力の扱い方を学んでいき、魔法の学習へと入るのだ。

 そして、ここはその魔法学院日本校の高等部。一年一組。


「『今月に入って五件目。犯人は未だに逃走を続けている。証拠もなく、高位の『魔法使い(ウィザード)』の可能性アリ』かぁ……」


 そう呟くのは、燃えるような赤い髪を長く伸ばし、よく映える碧の瞳を持った少女。

 整った顔立ちをしており、足もスラッと長い。モデルですといえば通りそうな美少女だ。

 名前は杉本楓。先ほどの授業で、睡眠学習を実行していた少女だ。

無論、言うまでもなく追加で課題を出された。

 ちなみに『魔法使い(ウィザード)』というのは、魔法を扱う者のことを言う。つまり、地球人類全てがそうである。

 そして現在彼女は課題である「ここ最近の『魔法使い』の事件について調べよ」とのことだった。レポート用紙五枚分。

 楓は携帯端末を空間ディスプレイモードにし、最近のニュースについてのサイトを検索していた。


「――――全く。誰よ睡眠学習なんて方法を考案したのは。おかげで余計なとばっちり食っちゃったよ!!」

「理不尽すぎるだろ!!」


クラスメイト全員からツッコミを受けてしまった。

あれ? と首をかしげていると、後ろから頭を軽く叩かれた。

 振り向くと、そこには長い黒髪の少女が立っていた。


「あっ、明美! お願いレポートヘルプミー!!」

「何で息を吐くように他力本願なのさ楓は……」


 呆れたように苦笑する黒髪の少女。

 この少女、東山明美。杉本楓の小等部以来からの友人であり、『水』属性の魔法を操る『魔法使い』である。


「だってぇ~。明らかに無理でしょ。レポート五枚なんて」

「まだ優しいと思うけどねえ。適当に纏めたこと書いちゃえばいいんだよ」

「万年優等生の明美じゃないんだからさー私はー」


 机に突っ伏しながら楓は呟く。

 東山明美は、常に学年上位の成績をキープしている。

 また、魔法の実技の成績もよく、『水』魔法の使い手として、教師からは将来を期待されている。

 一方で、楓は正反対といっていい。

 座学の成績は良いほうだ。明美まではいかずとも、上位の成績を取っている。

 が、酷いのが魔法の実技。本来、自分の得意な属性によって実技内容も変わってくるのだが、楓の場合。ちょっと。否。かなり特殊である。


楓は『肉体強化』しか使えない『魔法使い』なのだ。

『肉体強化』。文字通り、自分の肉体を強化する。ただそれだけの魔法。

基礎魔法であり、小学生のカリキュラム内に学ぶ最も初歩的な魔法。


「いーですよー。どーせ私は『出来損ない(ドロップアウター)』ですよー」

「いや誰もそんなことまで言ってないし」


出来損ない(ドロップアウター)

 それは、楓に付けられた不名誉な綽名。

 誰が始めに呼んだか分からないが、いつしかそれは。楓のことを呼ぶようになっていった。

 最初の頃は楓自身も気にしていて、泣いたりしていたのだが。今ではすっかり慣れてしまっている。


「まあでも。簡単そうなお題選んでテキトーに書くよ」

「ま、それが一番かもねー。おっと。そうだった」


そういうと明美はクラス全体を見渡す。


「聞いてー! 今日この後の授業だけど、先生達緊急の会議で全部キャンセルで休みだってさー!!」

「それ本当!?」

「マジマジ。というわけで、掃除の後は帰宅だって!」

「ぃよっしゃああああああ!!」


 男子勢は拳を握って、女子勢は諸手を挙げて大歓声。隣のクラスからも似たような声が聞こえてきているので、おそらくは同じ事をクラス委員長から伝えられたのだろう。

 ふと、楓は明美に聞く。


「ねえ。ひょっとしてこの通り魔事件のこととか?」

「正解。襲われてるのはここら近辺。学院の生徒も何人か襲われてるから。暗くなる前に生徒を帰らせようってこと。だから部活も全部休み」

「そっかー。まあ授業がなくなれば何でもいいですけどねフフフ」

「たまーに楓が何で座学の成績あんなにいいのか疑問に思うことがあるわ」


それは一夜漬けという究極奥義アルティメットウェポンを発動しているからです。

 無論、普段からの勉学もしている楓ではあるが、テスト直前となるとやはり一夜漬けに頼ることが多いようだ。

 それから楓たちは校内清掃の後、帰宅していった。






 ◇◇◇◇◇


 生徒達が帰宅していく最中、会議室では教員達による会議が始まっていた。


「皆さん、もう知っているかとは思われますが。最近、この近辺で通り魔が連続して出没しています。我が校の生徒達も何人か襲われています」


 話すのは、老齢の男性だった。

 頬には一筋の浅い傷跡が残っており、発せられる威厳は他の者とは違い、圧倒的な威圧感を出している。

 周りの教師達も、この件に関しては思うところがあるのか、口々に意見を交し合っていた。


「静粛に。さて。一先ずこのまま生徒を早帰りさせる方向で行きたいのですが。皆さんはどう思われますか?」

「学院長。よろしいでしょうか?」


 手を上げたのは、まだ若い眼鏡をかけた男性教師だった。


「何ですかな。有馬教諭」

「ええ。私としても生徒の安全を考えるのが一番だとは思います」


しかし、


「このままでは生徒全体の学力も低下してしまいます。カリキュラムを減らすというと、夏休みや冬休みといった長期の休日を返上しなければなりません。おそらく、今以上に危険は増します」

「ふむ。一理ありますな。しかし、ではどうするのですかな?」

「ええ。そこで生徒達に、一時的処置ではありますが、転移の魔法の使用許可を降ろしてはと提案します」


 転移魔法。今いる場所から、目的地の場所まで一瞬で移動することの出来る魔法だ。

だがこの魔法には使用の制限が法律で決められており、無断使用の場合は厳罰が下ることさえある。


「こうすれば校内から直接家、または寮に帰ることが出来ます。さらに、学生の貴重な学校生活の時間を減らさずに済みますし、何より授業をそのまま続けられます」

「成程。いい提案ですね」

「恐縮です」


 と、有馬という教師は恭しく一礼する。

 学院長は周りの教師達に他の提案はあるか聞くが、皆その案の採用を望んでいた。


「結構。ではこれよりしばらくは、生徒。及び我々教員にも限定的に転移魔法の使用を許可するように申請します。場所は自宅・寮からこの学院までとすること。よろしいですね」


 教師達が同意する。

 学院長は頷き、解散を命じる。

 椅子を引いて去るものもいれば、先ほどの有馬の周りに集まる者たちもいた。


「いやー。流石有馬先生。我々とは違いますな」

「ははっ。ご冗談を。皆さんの方が優秀でいらっしゃるのはご存知ですよ」

「またまたそんなご謙遜を」


ははは、と笑いあう教師達。

 しかし、それはすぐに元に戻る。


「まだ通り魔。見つからないんですかね」

「見つかればこんな会議はしてないでしょう」

「こっちは担当の生徒が襲われまして。今はまだ入院中ですが」

「ああ。そのことで。皆さんに一つ、お耳に入れておきたいことがありまして」


 有馬は言う。


「私なりに調査をしてみまして。そしたら被害者一同に、ある共通点がありました」

「共通点? 確か、魔力が根こそぎ奪われていた、ということですよね?」


 魔力を奪う。

 言葉にすれば単純ではあるが、『魔法使い』にとって生命線とも言える魔力を奪うということは、手足を捥がれるに等しいのだ。

 『魔法使い』は魔力炉と呼ばれるある種の器官のようなものが存在し、そこから魔力が生成されている。つまり魔力とは回復するものである。そこは何においても変わることはない。しかし、魔力成長の著しい青年期に魔力が自分の意思とは無関係に大幅に消費されるということは、今後の回復が非常に遅れるということになる。少なくとも、学院に在籍中の回復は無理に等しい。

 無論、魔法を使わずとも生きてはいける。魔法を使わない職業の方が多いくらいだ。

 だが、この学院に通う生徒達の殆どは将来魔法を常とした職業に就いている。それなのに、魔力がない状態ということは、将来を決めていた生徒にとっては絶望を与えられたようなものだった。

 教師の言葉に有馬は頷きつつ、さらに続ける。


「もう一つあるんですよ。それがこれです」


 そういって、空間ディスプレイを表示する有馬。

 そこには、襲われている被害者の魔力資質について纏められていた。


「これはッ……」

「全員が、『火』の属性の『魔法使い』」

「そうです。今回の通り魔は、明らかに『火』の属性を持つ『魔法使い』だけを狙っています。なので、今後は『火』の属性の生徒に目を光らせておかなければ」

「このことを、学院長には?」

「既に伝えてあります。おそらく、追って通達があるとは思います」

「流石ですね有馬先生――――って、待ってください。有馬先生、貴方も『火』の『魔法使い』でしたよね?」

「ええ。それが何か?」


 まるで気にしていない、といった風に有馬は返す。

 聞いた教師は面食らったような顔をしていたが、すぐさま聞き返す。


「何かって。狙われる対象になるじゃないですか」

「あはは。ご心配ありがとう御座います。ですが、通り魔如きにやられはしませんよ。こう見えても魔法学院の『火』属性の『魔法使い』としてはいい線行ってる、と自負していますから――――あ、ちなみに今のは生徒に言われました」

「大丈夫ですか? いきなり後ろからやられました、じゃ笑えませんよ」

「問題ないですよ。それより生徒が心配です」


何、といって有馬は微笑む。


「私に犯人が標的を移してくれれば。生徒達は被害を被らなくて済むでしょう。教師とは、そういうものだと思いますよ」

「有馬先生……」


 まるで偉人にでも会ったかのように、有馬を尊敬の視線で見る。


「では。これで失礼します」


そういって、有馬は去っていった。


どうもKyoです。


改訂版第一話です。

前回はとは180度違いますが。自分なりに頑張っていきます。

あと、地の文を少し多くしてみました。かなりしつこいように感じましたら申し訳ありません。


最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

では。

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