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* 特別企画 番外編 後編 *

 「お帰りなさいおぼっちゃま。おや、そちらの方は?」


 恐ろしい位広い敷地に、恐ろしい程の御殿がこのレレレさんの住まいらしい。玄関にたどり着いた途端合図もしていないのにスッと扉が開いて、ナイスミドルな紳士が素晴らしい角度で腰を折った。

 わー! いかにも、執事!


 「一晩限りの客だ。もてなしはいらない。適当な食事と寝るだけの寝台を用意してくれ」

 「うわ、おぼっちゃまったら、扱い雑ー!」

 「うるさい! お前黙ってろ!」

 「こんにちはー! お友達の翔です!」

 「誰がいつ友達になったんだ! 厄介者の間違いだ!」


 そんなやり取りを微笑ましく見守る執事さん。若い頃ブイブイ言わせただろうステキな笑顔でおぼっちゃまを窘めた。


 「おぼっちゃま、『お友達』と楽しそうな会話も宜しいですが、とにかくお部屋にご案内しませんと」

 「……」


 ぐうっと喉の奥で唸ったレモンさん。禿げなきゃいいな…… 人事ながら心配しちゃったよ。


 玄関のホールを抜け、どこまでも続く回廊を歩く。壁に目をやるとそこには肖像画がずらりと並んでいた。どれもこれも綺麗な顔立ちをしていて、眺めるだけで眼福である。


 「ねーレンコンコンー。これ、一枚位もらえない?」

 「違う名前でしかも長い! レナードだ! いい加減覚えろ三文字! そしてこれはやれんぞ。俺の家の先祖だからな」

 「ほー、先祖。…… 売れると思ったのに」

 「売るなっ!」


 装飾が余りない扉を開き中に入ると、確かにそれなり(・・・・)の部屋だった。てか、ベッドに布団すら乗ってませんがね?

 チラッとレナウドを目線だけで見上げる。


 「…… なんだ? 何か言いたい事があるのか?」

 「イエイエ ヤネガ アルダケデモ アリガタイデスー」

 「棒読みするなっ! ちゃんと用意するよう手配済みだっ」


 言った通りに何人かが荷物を持って出入りをする。

 僕とケナードは椅子に座ってその様子を眺めた。すると見た目同じ歳位の女の子が(やっぱり年齢は残念なのか?)ティーセットをワゴンに乗せて運んできた。それを見て、僕は小声でおぼっちゃまに尋ねる。


 「…… もしかして、お手つきな彼女?」

 「お手つき、とは?」

 「いや、ほらさ…… 手出ししたのかどうかと」

 「するかっ!」

 「え? じゃああの人? おぼっちゃまったら、熟女好み~?」

 「あるか!」

 「あぁ…… ごめん。実は禁断の愛で執事さんとデキて……」

 「そうなんです。ぼっちゃまはそれはそれは熱く私を求められて……」

 「やるかっ! というか、いつの間に来た!」

 「へえ? ヒツジさんとラブなのかー」

 「んなわけあるかっ! こ、子供の頃の話ならまだしもっ」

 「禁断の愛でございます」

 「乗るな!」

 「おぼちゃまったら、好きねえ~?」

 「うるさいっ! 俺は至って普通の趣味嗜好だ! それに屋敷の者には手を出さんわっ!」

 「あ、ねえヒツジさんご飯頂戴?」

 「はい、只今お持ちしますよ」

 「…… 聞いといて無視か! そして何を手帳に書いているメーシプ!」

 「はあ、これはおぼっちゃまの行動を記憶しておく為の物でございます」

 「……」


 天を仰ぐレナどん。ふかーーーーーく溜息をそれはそれは長く吐いた。白髪も生えてないじーちゃんのくせに、年寄りくさい表情を一瞬垣間見せた。


 「…… それで? お前どこから来たんだ?」

 「さ? 僕も分かんないね。むしろ逆に聞きたい。僕はどこから来たんだ?」

 「いやいや、俺が聞いてるんだって!」

 「この国って何て名前? 何て世界の名前?」

 「~~~!! あーもういい! この国はマグノリア、世界はユシュタールだ! というか、お前それすらも分からないのか?」


 マグノリア、ユシュタール……

 僕はその名前を口に乗せテーブルの上になぞる。両手人差し指で上から下へ向かい、半円ずつ右と左に分かれ今知ったこの場所の名前を足しながら描く。軌跡は赤い光となり残っていく。

 

 「お前…… それなんだよ」


 その質問には答えず僕は描き続けた。『力』は込めてないから失敗はないけれど、書くにも精神力がいるんだな。じわりと額に滲む汗。しかし半円ほど描いた所で光は消滅した。


 「ま、いいか。場所覚えたし?」


 淹れてもらったお茶を一口飲んで喉を潤す。

 ここに来るまでの飾られた壷や花瓶。柱の装飾の具合から絵画の技術。依頼に答えられそうなのでここに落ちた(・・・)のも何かの縁だ。とにかく『力』の回復に専念しよう! 僕はにっこり笑顔を向けてお願いをする。


 「疲れたー、お腹すいたー、ねむーい」

 「おまっ……! ほんっきで俺の質問に答える気ないな?!」



 ヒツジさんが料理を運んでくれる。

 僕は美味しくて美味しくてモリモリ食べてたら、「作りがいあるぞ! もっと食べてな」と料理長がドンドン持って来てくれた。

 

 「お前…… 少しは遠慮しろよ」


 呆れた様子で一旦席を外していたレーレンは、お酒の瓶とグラスを持ってやってきた。飲まなきゃやってられないからと言って、琥珀色をした酒をグイグイ飲み始める。

 そこでふとグラスを見つめたかと思うと、僕に向かって軽く睨んだ。


 「駄目だ、やらないぞ? お前まだ子供だからな」

 「うーん。やめとくー」

 「やめとく? まるで飲んだ事あるような口ぶりだな」

 「まあね。ある国じゃ僕は成人扱いだけどある国ではまだ未成年。それでもって、その未成年の国には明日帰るから、酒の匂いは都合悪い」

 「意味が分からない…… お前は本当にデタラメなやつだな。大体なんだこの食事の量は。俺んちの食料食い尽くす気か!」

 「イエイエ ソンナツモリ アリマセンヨー」

 「だからその棒読みやめろ!」


 最後のデザートもペロリと平らげ満足した僕は、ヒツジさんと料理を提供してくれた人達に有難く礼をいい寝ることにした。


 「皆さんごちそーさまっ! じゃ、お休みー!」

 「こら! 俺に礼はないのかっ!! ―――― って、寝るの早っ!!」



  ―――― 翌朝。


 陽が昇ると同時に目が覚めた僕は、『力』が満ちている事を感じた。

 ここの世界は結構合っているのかもね?

 

 「よーし。じゃ、帰る前に調査開始~~」


 扉の装飾、柱の造り、食器類の出来などをデジカメで撮っていく。うん、ここの技術はなかなかの物だし、あの人もこれなら許してくれるかなー?

 ウッカリ落ちたユシュタールの世界。でも、間違いなく大当たりだ。


 廊下をウロウロしていたら、飾り棚にいかにもな怪しさ全開の手帳が置いてあった。字は読めないけどとても気になる。そおっと持ち上げた所で早起きなここのお家のおぼっちゃまくんに見つかった。


 「あ! お前それに触るな!」

 「ええ~? これ何なに?」


 必死になって取り上げようとするってことは、よっぽど……


 「そうか…… ダメだよこんな所置いてちゃ。定番はベッドの下だよ? あー、でもそれは一番見つかる確立高いんだ! 気をつけろよっ」

 「何だそれは? 何のことだ! くっ…… わざわざ目に付く所に置きやがって!」


 ここには居ない誰かに文句を言っているようだ。

 きっとこの突っ込み担当おぼっちゃまを相当イジッている人に違いない。


 僕は大体をデータに収めた後なので、部屋に戻ることにした。

 すると、そこには昨日丸投げした後あっという間に消えた美形がいた。


 「おっ! ルー君じゃないか。昨日振り~」

 「……」

 

 あ、イラっとしてる。楽しい! クールキャラがペース乱される姿って、萌えない?

 ルー君はれんれん君と一言二言会話した後、僕に向かって冷たい視線を投げる。


 「カケルといったか? もう充分に回復しただろう。早々に帰れ」

 「うわっ酷いっ! 僕を一晩だけもてあそんで捨てるのねっ」

 「……。お前が来てから不可侵の森より怒りを感じる」


 ついっと窓の外を眺めるルー君。そんな事言われても、僕なんもしてないと思うけどな?

 なんかあったかな? と考える横でレンぼっちゃまはある物について聞いてきた。


 「なあカケル。これ、昨日会った時から持ってたけど何だ?」

 「あ、それはねえ…… あの森で襲ってきた怪獣の肉だよ。あまし美味くない」

 「怪獣?」

 「うーんと、二つの頭があって、小さな山ほどの体してて、尻尾が燃えてる?」

 「……! 魔獣のケベリウスじゃ?! お前コレ倒してしかも食べたのか!」

 「…… 不可侵の契約が……」

 「やっぱお前ここに長居するな!!その肉持ってさっさと出て行け!!」

 「えー、出て行けかぁ…… さみしいな~。ねえレナード、僕また来てもいい?」

 「なぜ俺に言う……!」


 僕より少し背の高いレナードをじっと見上げながらお願いする。


 「ねー、レナード。来ちゃ、だめ?」

 「……」

 「レナード。お願い」

 「…… っ! くそっ! おいルーク! たまに、ごくたまにならいいんじゃないか? 子供のやった事だし、時間を置けば……」

 

 半ば呆れるように僕とレナードを見たルー君は、親指で眉間を抑えながらかぶりを振る。


 「だからお前はバカなんだ、レナード。あの時の女もそうやって押されてほだされて、押し倒されて、あんな事に……」

 「ルーク! 子供の前だぞ!!」

 「へえ…… レナードったら色々残念なんだね」

 「色々残念言うなっ! 大体、なんで今頃俺の名前をマトモに言えるようになってるんだ?!」

 「まあいいじゃん」

 「よくない!」

 「……まあ、しばらく時間を置いて忘れた頃に、短時間だけ来るのならばいいだろう。その時はレナードを呼びだすがいい」

 「ひどっ!」

 「おいルーク! なんで俺なんだよ!」

 「お前が言いだしたんだろうが。お前が責任を取れ。後、カケル…… 不可侵の森へは二度と立ち入るな」

 「楽しかったのになー。なんか宝物いっぱいあったし」

 「お前…… 何盗ってんだよ!」

 「元に戻しといたから大丈夫ー…… 多分?」


 その後の抗議は聞かなかったことにして、僕は今度こそ『力』を慎重に込めて扉を描く。行き先は―――― 日本だ。


 「じゃ、まったね~! ルー君とレナード」

 「……」

 「お、おい! 今度は大人しくしろよな?」


 目の前に赤い光で描かれた円を両手で押すと、観音開きの扉の様に二つに分かれた。そこへぴょいと飛び込むと…… 懐かしい匂いの僕の部屋へと戻って来たのだった。



 *****


 

 ―――― でさー、聞いてよ。そのマグノリアに行った時の話。え? あー、えっとね、ユシュタールって世界の…… まあいいじゃん、どっかの異世界だよ。たまたま行った先で友達ができてさー。それからまた三年位過ぎて…… 内緒で行ってビックリさせようと思って気配消して扉を開いたら、ウッカリ暖炉に落ちちゃって! アワテンボウのサンタを地で言っちゃったよ。あはは。

 ああ待って待って! 切らないで! これからなんだってば。


 暖炉から出てったら、女の子…… 子? いや女性……? ごめん、微妙なお年頃だから若いほう言って置くんだったね? 教えは守りますとも! ―――― うん、女の子がいて、なんと同じく日本から異世界にトリップした子がいたんですー! いやーすごいね、結構ある話なんだねぇ。名前? 『花』ちゃんって言ってた。うん、こっちに帰る気はないんだって。たまたまねーちゃんから貰ったバレンタインチョコを半分あげたりして色々話し込んで、またお土産持って遊びに来るねって言ったとこで帰ろうとしちゃったよ。花ちゃんが『今日は何をしに?』って聞いてきたから思い出したんだ。


 ごめんっ! いいじゃん思い出したんだから!

 レナードを呼んでもらって…… ぷぷっ、その時の驚いた顔ったらないね! 美形台無しだよ。ありゃ今も彼女ナシだねっ。―――― うっさいな、僕も今はいないけど。いいじゃん僕のことは。

 ルー君も来たんだけど、ルー君も酷いよ。あ? 酷いってボスキャラの如くな美形は変わりなかったんだけど…… 花ちゃんにメロメロでね? 「寄るな触るな離れろ埋まれ」だって! 何その最後の埋まれって!

 そんな感じで楽しく話してたんだけど、なんだろ…… 僕やっぱりなんか間違えてて…… うーんと、八十年っくらい後? に来ちゃったんだな。

 

 あああっ! ごめんなさいごめんなさい! でも大丈夫だよ。ね?

 この国の人って長生きするみたいだし? よくわかんないけど。会ったときレナードなんて六十七歳だったからさ。見た目全然変わってなくてびっくリだよ。雰囲気はちょっと落ち着いた感じがするな。オトナーなレナードだったよ。うん、ハゲてなかった。僕それが一番心配で。


 うー、前置き長かったね。本題っと……。

 えーっと、前に転送したとおりのインテリア技術。最初に写真撮ったデザインよりもだいぶ経った、今のマグノリアはもうちょっと細かい模様が流行っていたかな? 取引には問題ないってレナードのおにーさん…… 宰相? がいいって言ってくれた。もうちょっと細かい取り決めをして、契約書に仕上げるよ。それでいい?


 いやいや、違うよ! こっちではそれから更に二年経ってるけど、あっちじゃ変わらないし! 気にしないでよ。いつの時代がとか僕が何歳とか! 大体でいいよ大体で! 過去は振り返らない男なの僕はっ! …… なにその溜息。モテない? うわ、言ったなその一言! いくら…… ああもういいや。


 

 ―――― ねーちゃん? ああ……。

 そうだね、うん。多分大丈夫かと思う。でもそろそろ仕上げ時かと思うけど? …… それはそっちで何とかしてよ。僕だって忙し…… ! ちょっと、何で知ってるのさ? ああそうだよ、もう火竜と契約して四大竜揃えちゃった。すっげえ綺麗だよー? ねーちゃんに見せなきゃ!


 



 じゃ、その話はまた決まったら電話するよ。―――― たまには顔見せろよな。 

 


元来お喋りな男なんです。

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