* 特別企画 番外編 前編 *
デタラメなアイツの、ある世界での出会い編。つまりコラボ。
「およ? ここどこだ?」
ぼんやりする頭をゆっくり持ち上げ、僕は辺りを見渡した。
鬱蒼とした木々が取り囲む。それらが空から降り注ぐ光を遮り、辺りは薄暗く陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
頭をガリガリ掻きながら、原因を記憶から探ってみる。
「……うん、多分三箇所で限界だったんだな~?」
僕は自分の中に宿る『力』を使い果たしているのを感じていた。異世界三箇所目を巡った所で、元の世界に戻る為の『力』がギリギリ……いや、足りないかも? って思いつつ、今居る場所が余りに生命の反応を感じないほど荒れていて帰りたかったから、ちょっと無理をして『扉』を描いた。
両手の人差し指で目の前の空間に、慣れた手つきで上から下へ円になるよう左右に分かれて模様を描いていく。文字だったり、線だったり。一つ描く度に『力』が吸い取られていくのは気付いていた。
――あー、ちょっとまずい?
段々と……朦朧としてきた。しかし失敗は命が終わる事を意味する。気力を振り絞り、最後の一文字を描く所で……ずれた。
「ああっ、うわっ! ちょい待て! 待て待て! あららら……」
『扉』が開き、僕は飲まれた。『力』も尽きて、意識も暗転したのだった。
*****
「――ま、なんか結果オーライ?」
森があり生命反応も感じられる。そして、『力』と似たモノが満ちている。僕の『力』が戻るまで、暫くこの世界にいよう。
考えたって始まらない。うーんと伸びをして立ち上がろうとしたら、ふっと陰になった。
「あ?」
なんだ? と思って上を見たら……でっかい口がこちらに近づいてきていた。
「う、うわぁぁぁ!!」
ポーンと前に軽く跳躍してかわし、正体を見極めようと見上げたら、そこには――――。
「怪獣?!」
ティラノサウルスっぽく見えるけど、双頭であるので地球の常識に当てはめられない。しかもなんか尻尾燃えてるし!
うっわー、超楽しい!
ワクワクしながらじっくり眺めたい所だけど、どうやら僕を食料と見定めたらしく、二つの口が迫ってくる。残念だ。
僕は腰の剣を抜き、構える。
「手加減ナシだよ? ちょっと余裕ないし」
軽く横に飛んで後ろに回り、燃える尻尾の先は飛び越えて付け根辺りから背中へ一気に駆け上がり、剣を一閃させる。
どしーん。どしーん。
二つの首がスッパリと切られて落ちる。遅れて、胴体もゆっくりと崩れ落ちた。
ヒョイと降りた僕は、剣の峰で肩をトントンと叩きながら呟く。
「ごめんなー? 僕、まだ死にたくないんだ」
剣に付いた血糊を振り落とし、鞘に仕舞う。
この剣は実は日本刀。だってカッコいいからね! 室町時代の刀鍛冶に頼んで鍛えてもらった鋼。それに『力』を込めたので刃毀れも無いし切れ味落ちないし、便利便利。
ま、なんだ。
刀に『力』込めるとかそういう思いつきは、現代っ子の自分だからできるんじゃないかなー?
ゲームや漫画や小説……溢れかえる情報の中生きてきたので、使える情報は使ってやるのだ。
クン、と鼻を近づけ、怪獣を切った断面の匂いをかいだらなんか大丈夫そうだったから、いまだ燃え続ける尻尾の炎で肉を焼くことにした。幾つかトントンッと切り身にして枯れ木に刺して炙った。ジュウっと焼けるいい匂いが辺りへ漂う。
厚切りなので中に火が通るまで時間が掛かりそう。その間、近くを散策することにした。
人の気配はこの辺りにはない。それから、さっきの様な怪物は多くはいない……。ふぅ~ん?
水の湧き出る泉を見つけた。……クン、と匂いをかいでやめた。これはやばいよ? やーめた! 僕の勘は外さない。多分こりゃ飲んだら即死だ。喉乾いたけど、またどっかでなんかあるでしょー。
そろそろ焼ける頃合なので、先程の場所に戻った。
「よーし焼けた! いっただっきまーす!」
あーんと口を開けて齧り付く。……うーん、味はイマイチだけど食べれない事もないかな? あー、ねーちゃんがいたら料理してもらうのにっ! 何の肉か言わなきゃ作ってくれるかな?
ちょっと考えて、切り分けた肉を大きい葉っぱで包んだ。『力』が戻るにはまだまだ食事と睡眠が足りない。これから先食料がないのも困るから、弁当代わりに持ち歩くことにする。
*****
「お前は何者だ?」
散々この森を遊び尽くして(?)飽きたので森の外に出ることにした僕は、一歩出た途端急に目の前に現れた相手にビックリした。
――瞬間移動?
無駄にそういう知識だけはあるので、すんなりと受け入れた。
しっかし、この『力』の様な圧力……ゾクゾクするねっ! ひんやりと僕を見据える金色の瞳にサラッとした銀髪。顔は異常なほどに整って……あれだな。
「乙ゲーの難攻不落キャラみたい?」
うっかり口に出してしまったけど、相手は「乙ゲー」がなんなのか分からないらしく、ピクリとも表情を動かさなかった。
僕も命は大事大事なので『力』が足りないとは言え警戒する。刀の柄を左手でヘラっと笑いながら掴んだ。
けれども、とりあえずお邪魔したのは僕の方なので、欧米風に手を差し出し自己紹介をした。
「僕は翔。ちょっとした迷子? 暫くしたら出てくから、見逃してくれない?」
僕が差し出した手を一瞬躊躇った銀髪のボスキャラは、それでも握ってくれた。キレーな手をしてて、でもちゃんと男の手で。うっわー、なんかそのケがあったら堪んないだろうね!
ある国で出来た親友によると『気が抜ける』と称された(失礼な!)笑顔全開で「よろしく~」と挨拶したら、この場を圧倒的な気配で支配していた力をすうっと納めた。
「……レナード、剣を引け」
「ルーク、大丈夫なのか?」
「ああ」
「うわっ! ナニ居たの?! あっぶねー!」
ルークと呼ばれたその男に集中していた為、僕のすぐ脇で剣を構えていた男に気が付かなかった。いや、この人もなかなか……。
「気付けよ……」
キョトンと見つめたら、呆れたような声で言うこの男。これまたなかなかステキな顔立ちで。
「あれ? なんていうんだっけ、その髪色…… 校のグランドの色? 服にコーヒーこぼして染みになっちゃった色? 違うな。もうちょっと小粋な言い方があったような? うーん、薄い茶色?」
「黒目黒髪、そして珍妙な黒の衣装着て剣を持つお前に言われたくないっ」
「うっわ、公式行事にも着る事のできる便利な学生服を珍妙っていう? そんな事カッコイイおにーさんに言われたくないわっ!」
「褒め……っ?!」
「レナード、黙れ。――カケルとやら、食事と休息が必要なのだろう? 滞在する屋敷を提供しよう。ついてこい」
「え? いいの~? ありがとーん」
野宿よりも屋根の下がいいさ。
どうやら敵キャラ認定されなかったみたいだし、ご厄介になろっと。
オロオロしてるレッサー君は見ていて面白いなあ。
てくてく歩き、針を飛ばしてくる奇妙な小動物(毒アリ)とか愉快すぎる怪物達を魔力(とここではいうらしい)とレナーの剣で倒しながら森を離れていく。
僕はちょっとお疲れなので歩くことに専念させてもらったね。だってもうヘトヘトで。でも途中であの髪色は『亜麻色』と言うのを思い出し、つい気分よく歌っちゃった。
「~~~♪」
「「 止めろ五月蝿い黙れ雑音 」」
「うわーひでえ! ダブルで突っ込みっ! 折角気持ちよ~く歌ってたのに!」
「歌?」
「そだよ? ……ってか、歌って聞く? 歌だろ紛れもなく……歌を知らない?」
「それが歌というものか? 耳が壊れそうだ。二度とやるな」
「僕の美声を理解できないとは…… もったいないなぁ」
……ねーちゃんに「音痴ぃぃ! やめてーーー!」って言われてるのは内緒だ。
*****
「ではこのレナードの屋敷に滞在するがいい」
森から離れて数十分。怪物達の気配が薄れた所で唐突にクールな方の美形が立ち止まり、僕に声をかけた。
「おっ、おいっ! なんで俺の家なんだよ!」
「じゃ、一晩だけよろしく? メナードとやら」
「レナードだ!」
うーん、突っ込み上手だな! レ……なんとかっていう人は楽しいねっ。なんかレ……なんとかって人の上司らしいルー君が、僕の滞在に許可をしてくれたらしい。
有難くそうさせてもらおう。
「回復したら早々に帰れ」
ボスはこう言って消えた。言って直ぐに、消えた。
「……くそっ、逃げられた」
「レ……ナントカ君?」
『押し付けられた』という表情を隠しもしないで唸るので、つい声をかけた。
すると、ジロッと僕を見て「レナードだ」と言い直した。
「お前、名前覚える気ないな? ……大体いくつだ? まだ子供の様に見えるが」
「え? 僕はピチピチ十七歳の高校生やってるよ」
「じゅ……十七かっ?!」
「そーいうレニャードは何歳?」
「レナードだっ! 俺はもうじき六十七歳になる」
「うっわー! なんて若々しいおじいちゃん!」
「……」
こんなにも見た目若いのに年齢は残念なんだな。ちょっと同情の目を向けつつ、脱力したレンさんが案内するまま後についていった。
次話、『翔、レナードのお宅訪問』