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side ジェネシズ



 喧しいのが消えると、急に静かな室内となった。

 

 「じゃあ、お茶入れますね」


 そのまま竈に行き、湯を沸かしていた鍋からハーブを入れておいたポットにお湯を注ぐ。途端辺りに爽やかな香りが漂った。


 「エキナセアとカモミール、ペパーミントとカレンデュラ、それとエルダーが入っています。気持ちが落ち着くし…… 免疫力上げたり抗菌作用もあるんです」


 ウンノは俺の左腕の包帯を見ながら中に入れたハーブについて説明をした。

 それから抽出したハーブティーをカップに注ぎ入れ俺の前に置くと、そっと俺の左手を両手で包むように握った。座ったままの俺からは、立っているウンノを少し見上げる形となる。


 「ジェネありがとう。守ってくれて、嬉しい」


 謝るのではなく、礼を言う。真っ直ぐに俺の目を見て言うウンノの瞳は、不思議なくらい澄んでいた。あのような出来事があったのにもかかわらず、何か決意を込めたような……。


 「俺は最初に誓ったからな。だが、怖い思いをさせてしまった」


 「大丈夫。ジェネがいたから。でも、アンザスのジュノヴァーンって……?」


 「それは今は言えない。いずれ、な?」


 これ以上一緒にいたら、俺は何かしてしまいそうで慌てて切り上げる。ハーブティーを一気に喉へ流し込み立ち上がった。


 「これから団長達と会議だ。色々話を詰めて対策を講じる。ウンノはもう休め」


 「えっ。私も手伝わせて下さい!」


 「駄目だ。夜も遅いし危険も付きまとう。…… 何よりお前の立場は明かせない」


 「……そうですか。わかりました」


 やけにあっさり引いたな、と思いながらも安全な場所にいると了承してくれた事に安堵を覚え、立ち上がるとウンノの頬に唇を寄せた。―――― イル・メル・ジーンとは反対側に。


 「きゃっ!」


 「記憶の上書きだ。お休みウンノ」



*****



 ラムダの時間までまだ余裕がある。その間にすべき手配を終えて自室に戻った。ジュノーとの戦いで汚れた服を着替える為だ。

 今夜から暫くは厳戒態勢となる。いよいよ時が満ちたというべきか。

 ウンノを一人部屋に残してきたが、精霊への使役の仕方を知識だけは持っていたイル・メル・ジーンが教えたらしいので、襲撃に関しては大丈夫だろう。俺が心配するのは、ウンノが心細く思っているのでは…… 出来ることならずっと傍についていたい、という一方的で勝手な想いだけだ。

 

 身支度を整えた後、団長の部屋へ向かう。

 そこには極少数の限られた人がすでに集まっていた。宰相の息が掛からない、団長の信を得られている者だけが。


 「よし、揃ったな? イル・メル・ジーン、結界を」


 「はぁい。…… これで音は洩れないわ」

 

 すでに椅子に腰を掛けていたイル・メル・ジーンが、この部屋に消音の魔術を使った。それを見届け、団長はぐるりと集まる面々を眺め一つ頷くと、端から順に指名する。


 「まずは報告。一番隊副長」


 「はっ。鉄鉱石の価格は昨年より僅かながらも上昇しております。産出量は変わりありません」


 「四番隊隊長」


 「カギラテ地方に調査へ参りました所、塩、穀物など備蓄食料の品不足が報告されています。他に目立つ点は戦士の国、バルカーニから来た傭兵の姿が目立ったとのことです」


 バルカーニは優れた戦士が多く集う国であり、傭兵を各国に派遣する事により国費の一部としている。非公認ながらアンザスもそれに属していて、戦いある所バルカーニありと恐れられている所以だ。


 「七番隊副長」


 「はい。グランドー家の財政一般、調査しました所書類上とても綺麗過ぎました。一つも数字に乱れがありませんので、上手く手を加えたのだと思います。城下に三箇所、カギラテに三箇所、バルカーニにも二箇所隠匿(いんとく)している事は調査済みです」


 ロゥは淀みなく調査結果を報告する。宰相の領地はカギラテで、鉄鉱石がこの国で唯一取れる地でもある。宰相という立場を利用して裏金を作り、鉄鉱石の価格を吊り上げて差額を懐に入れているのだろう。

 バルカーニが絡むと言う事は、ラスメリナとレーンを争わせてそこに自国商売の傭兵と武器を売り込もうという魂胆か。


 ―――― 浅慮な。


 宰相、ベナム・グランドーを潰すなら今のうちだ。俺は強く剣の柄を握り締めた。


 その後は団長による指揮系統の確認やこれから起こるであろう騒ぎの鎮圧方法、宰相側に積極的に付いて甘い汁を啜る者や、そちらに賛同はしたものの日和見な者を制圧する為の調整を行った。

 朝議が行われる時、一気に畳み掛ける為だ。

 

 「―――― あ、そうそう。ジェネ? やっぱり内通者は……」


 「…… バッツ、だろ?」


 「ご名答。アナタわざとラスメリナへ連れてったの?」


 こちらの情報が宰相側へ漏れている。それを確かめる為、わざと新人のバッツを『イル・メル・ジーンの弟を連れてくる仕事』としてラスメリナまで連れて行ったのだ。適当に泳がせておいたら案の定時折姿を隠し、文書を鳥に託したりキムロスでも俺達と合流する前に密偵と会っていたようだ。俺やハルには隠せるはずもないのだが。

 ウンノが『竜帝の姉』と言う事まで知られたのは、恐らくバッツが七番隊詰所で会話していたのを扉越しに聞き耳を立てたのだろう。勿論そんな間抜けな姿は他の隊員にも目撃されている為こちらに報告が来ていた。


 「バッツはね、姉を人質に取られていたのよ。…… 仕方ないじゃ済まされないけど、どうするの?」


 「…… ひとまず保留だ。この件が片付き次第面談しよう。それまで禁錮だ」


 「懐に入れたものには相変わらず甘いのね。―――― いいわ、アナタに任せる」


 そして俺はロゥが作成した罪状確認書に目を通し、了解をした。

 団長には…… 伝えた方がいいのだろうか。迷いはしたが、結局外せない内容だと判断して団長に声をかけた。


 「団長、あの……」


 「なんだ。―――― ああ、お前の配置は裏だ。アンザスの警戒を頼む」


 「はい。おそらく私の元へ現れると思いますので、適当に警備の穴を開けて置いて下さい。それと……」


 配置を裏にしてくれたのは団長の思いやりに他ならない。俺は『王位継承権第一位』だった過去を持つ。目障りな俺を幾度も窮地に陥れた宰相だ。目が合ったら何を言い出すか分からないから、外されたのだろう。

 そして本題に入ろうと団長に耳打ちをする。


 「ウンノの件についてですが……」


 「ああ。わかっている(・・・・・・)。事が終わるまで、部屋で待機していてもらいなさい」


 「…… はい」


 『わかっている』? 何について? 疑問符が頭を飛び交うが団長の見透かすような目に怯み、その場を辞した。


 夜明けまであと僅かだ。そうしたら―――― 





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