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 内部の人間はまだこちらには気付いていないようだ。

 日が落ちて暗くなったので私にはあまり様子は窺えないが、ジェネは夜目が利くようだ。焔に頼んで明かりを頼もうと思ったけど相手にも丸見えになってしまうため、ここは任せた方がいいだろう。


 私室入り口の扉付近の音を疾風に消させ、ジェネがゆっくりと取っ手を押す。その長身が滑り込んだかと思うと、あっという間に一人倒した。なんて素早い!

 無音ではあるが気配は隠せない。寝室の扉前にいた二人が気付き、こちらに飛び掛ってきた。一人は一合と交わさずジェネの剣の前に倒れたが、その間に一人が私に向かって何かを投げつけた。


 (ひめさま!)


 さあっと疾風の起こす風に絡め取られて、私に辿り着くことのなかったそれは何だろう? 暗くてあまり分からないけど助かった。

 ジェネは体を低くして一気に距離を詰め下段蹴りで足を掬い、体勢を崩した相手を立ち上がる勢いで下段から上段へと剣を斬り上げる。

 相手は寸での所で交わし、後方回転で間合いを広げた。


 ―――― すごい……。


 息を詰めて見ていた私はその動きに目を見張る。

 素人だけどこの動きの無駄のなさはわかる。強い。ジェネも相手も相当の腕を持っている。翔がレーンで一番強いのはジェネだと言っていたけど、それに相対するこの人物もなかなかのものだろう。そんな強い人を今ここに寄越すとは…… 時期が来た、ということか。

 

 そろり、と私を背に隠すようにしてジェネは剣を構える。やけに見覚えのあるその形は『日本刀』? 

 

 「―――― アンザスが雇われたか」


 ジェネは、剣先を向けながら相手を窺った。私からは薄闇にボンヤリとしか見えない輪郭だけど、雰囲気で相手がニィ、と笑ったのが分かった。


 「その声、その気配、その太刀筋。お前ジェネシズだな?」


 野太い声がじっとりと響く。

 しかし緊迫した空気は一つも緩まず、私は息を殺したまま動けない。


 「ジュノー…… ジュノヴァーン。お前まだアンザスにいたのか」


 アンザス…… それって、傭兵の国にある『暗殺者集団』の名称じゃなかったっけ? 聞き覚えのある単語を拾った私は、記憶を辿った。

 お金と契約次第で敵にも味方にもなる組織。昨日の敵は今日の友…… 昨日の友は今日の仇と言い方もあるか? 友情愛情関係なしに人の闇を暗躍する集団。戦いがある場所にアンザス有り、と小説に書かれていた。

 それを誰かが雇った、ということか。


 「わりぃな。俺今回はこっち側なんだ。お前も来ないか? なかなか実入りはいいぜ?」


 「断る。今の俺は騎士であり立場の違いは明らか。久し振りの再会にしては残念だが…… 覚悟しろ」


 「ほんっと残念だな! お前ほどの腕はいねぇから惜しい」


 ―――― どうやら旧知の仲、らしい? でも友好的な気配は一切無く、ただ事実確認をしただけの会話だった。

 ひとつも戦いなど分からない私だったけど、この二人の間にある一触即発の空気は分かる。私が身動き一つしただけでも双方の攻撃が始まるだろう。それだけの緊張が、肌をピリリと刺した。

 

 お互いがお互いだけに意識しているので、私は動かず宝珠に心声で精霊達に声をかけた。


 (疾風、息吹は侍女さんを、飛沫、焔はマルちゃんを守って)


 (姫さん、それじゃあ……)


 (私は大丈夫。さ、早く!)


 (…… 承)


 す、と精霊達が向かったのを目で追い、しかし緊張感はそのままでジェネの背から動けない。


 「ハルドラーダもいるんだろ?」


 「……」


 「チッ。久し振りに会ったってのにつれねぇな! 見た事ねぇ剣もその背に大事にするお嬢さんも、聞きてーこと山ほどあるっつーのに」


 「ならば手を引け」


 「お前も(・・・)解るだろ? 仕事……」


 ジュノーと呼んだ相手に最後まで言わせず、ジェネは深く踏み込んで横薙ぎに払う。相手は半歩足を後ろに引いただけでかわし、次に来るジェネの攻撃を見越したように上へ跳躍した。今居た場所へ鋭角に斬り下ろしたジェネは、横に飛んでジュノーの重力を利用した重い蹴りを避けた。


 ―――― 私との、距離が空いた。


 「ウンノ!」


 ジュノーの剣が、私に降りてくる。

 あ…… 足がすくんで動けない……!


 視界の端から、黒い影が私とジュノーの間に割り込んだ。

 ジェネの剣がジュノーの両手持ちの剣を阻んだのだ。しかし、距離を稼ぐ為か片手で持っていたので抑えきれず、すかさずジェネは左腕をその剣に差し出して押し返した。


 「くっ……」


 「ジェネ!」


 ジュノーは深追いせずサッと剣を引いた。前腕から噴き出した血をそのままに私を背に隠し、ジェネは再び相対し構える。



 「―――― まだ甘いなジェネシズよ。…… フン、そろそろ頃合か。今回は挨拶代わりだ、またな!」


 チラリと視線を動かし、ピィと口笛を吹いたかと思うとそのまま窓を割って外へと消えた。侍女部屋からも同様の音が聞こえたので、同様に撤収したのだろう。


 「ジェネ…… 血が!」

 

 一気に緊張が解かれ、崩れ落ちそうになる膝を叱咤してジェネに駆け寄る。 


 「大丈夫だ。それより王を……」


 「待って!」


 私はスカートの裾を一気に引き裂いてジェネの上腕に巻き、ギュウウっと締め上げて止血をした。そして傷口にも布を当てて圧迫する。

 

 「出来るだけ…… 胸より高い位置にっ」


 それだけすると、私とジェネは寝室へと向かった。







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