* 年末企画番外編 *
とある作品とコラボです。
「ねーちゃん、ちょっとお節作ってもらえない?」
唐突に翔は、帰ってくるなり三段重ねの重箱を三つ(!)テーブルに乗せて言った。
「へっ? 何事?!」
大学三年生の年末。毎年作る家族分のお節に、何入れようかなと考えていた矢先の事であった。
すでに就職の決まっている翔と違って私はまだ先日受けたリゾートホテルの内定待ちで、大人しく自宅で過ごしてた。
「いやあ、お世話になった人達にお歳暮代わりにあげたくって」
「ちょっと、幾らなんでも……」
無茶言うな! と即効断ろうとしているのを見越してか、翔は「もちろん……」と続けた。
「材料費は全て僕が持つよ? 臨時のバイトで結構潤ったんだよねー。あと、ねーちゃん欲しがってたスチームオーブンもどーんとプレゼントするよ~。何より…… 自慢のねーちゃんの料理をみんなに食べてもらいたいんだ。お願いっ!」
くっ…… スチームオーブンかっ!
今あるオーブンレンジは十年選手。たまに機嫌を損ねて動いてくれない為、とても欲しかった一品だ。
―――― こうして、私はあっさりと篭絡された。
*****
一の重は、基本酒のツマミになればいいので、かまぼこ、昆布巻き、きんとん、たたきごぼう、田作り…… 数の子も入れておくか。それと黒豆。
二の重。焼き物メイン。中に人参とインゲンを巻き込んだチキンロールを入れて、海老の焼き物を入れる。あとは紅白なます。縁起物のちょろぎも入れちゃおう。他には最近気に入ってる鶏ハムも作っておこうかな?
三の重は、不動の煮しめ。今回はスポンサーがいるから、くわいと海老芋を加えることにした。茶色ばかりになるから、人参とレンコンはお花の形になるよう飾り切りして、さやえんどうはサッと塩湯でして飾るとする。
うーん。なんだか商売でもやるんじゃないかという量だね!
山ほどやることはあるのに、なんだかやる気は満ちていた。
昔は冷蔵庫がない為に煮しめなど保存の利く料理が作られていた。ってことはですよ?冷蔵庫に保存しておけばわりと持つってことで、早い段階から作り始める事ができるのだ。
その中でも長持ちしそうな物から徐々に作り始め、三十日には完成。翔の指定日もこの日だった。
「ねーちゃんありがと~~! じゃ、これ約束のプレゼント!」
「う、うん。嬉しい……」
流石に重箱三段重ね三つと自宅用、計四つでは疲れも半端ない。
ぐったりしながらも、翔に疑問をぶつけてみた。
「ねえ? それ、誰に持ってくの?」
「えー? 言ってなかったっけ? 就職先のおじさんと、女装趣味の友達と、マグノリアって国の友達んとこー」
「ちょっと! おじさんって言うな! 社長さんでしょ?! あと何その女装趣味って……。それから、マグノリアって国、そんな国あった?」
脳内で世界地図を広げたけどどのみち私の知ってる国などごく一部であり、ひょっとしたらそんな名前の国があるのかもしれない。
「あー、えーっと。まあいいじゃん。とにかくありがとう!」
じゃあっ! と三つの重箱を抱えて外に出て行ってしまった。これから渡しに行くそうだ。
後に残された私には、すでに疲労感しか残っておらず、大掃除としめ縄飾りを付ける力を回復するべく、コタツに潜って昼寝を決め込んだ。
*******
「で? これがカケルご自慢の姉君の手料理ってやつね?」
「そーなんだ! 日本の正月は、これ食べてテレビ見てミカン食べながらコタツに寝転んでの三が日が儀式なんだよ~」
「? 良く分からないけどまあいいわ。美味しそうね~。食べてもいーい?」
「ダメダメ。うちでは正月迎えてからなんだ。だから明後日までお楽しみに~」
「なぁんだ。ねえ、ジェネにはあげないの? すごく喜んで食べると思うけど?」
「まだ早い!」
「早いってなによ」
「とにかくまだ早いんだ! 今回は、わざわざ日本に行って作って貰ったんだもん。ジェネにはもっと…… 。今、ジェネにねーちゃんの料理を食べさせる訳には行かないんだよっ!」
「訳分からないわねっ! でも一応後の事考えているんだ? ふふっ、じゃあ私とカケルで二人で頂きましょ。ああそうそう、マグノリアのルークって誰? いい男なの?」
「僕が時空を旅してる時に世話になったんだよ。…… 助けられ系な?」
「時空……。もういちいち驚くのも飽きたわ。そうね、カケルならなんでもアリね」
「なんでもとは失礼な! 色々修行をだね……」
「あーはいはい。もうそれ百三十八回聞いたからいいわ。それで? ルークって人が助けてくれたのね?」
「恐ろしい程の美貌ってああいうの言うんだろうなあ。その上魔力も溢れて皇帝で……こらっ! イル・メル・ジーンは連れて行かないぞ? んで、あそこんとこも日本から迷い込んだ女の子がいて、その子とちょっと話が弾んじゃってさ~」
「ああ……なんだか読めたわ。カケル、その子と仲良くなりすぎたんじゃないの?」
「ご名答! あのルークの圧力ったら、そんな趣味なくてもゾクゾクするよ? 『ハナに近寄るな・ハナと話すな・ハナと同じ空気吸うな』まで言われちゃったしー。あっはっはっ」
「つまりルークとハナは恋人同士? …… どこまで邪魔したのかしら」
「まーそんなわけでルーク介して話した結果、花ちゃんが希望する物を書いてもらい、それをお礼代わりにプレゼントする約束をしたのさー」
「介さなきゃ話せない程邪魔したのね? カケルはどこまでも空気読まないっていうか、それがカケルなんだけど。―――― ニホンって、カケルの国だったわよね? ああ、だから『おせち・こたつ・みかん』な訳?」
「そうだよ~。希望の物を書いた手紙見たらさ、『日本の正月を味わいたい』って望んでたから。ルークと花ちゃんはラブラブだし、こういったのは女の子喜ばしとけばもれなく男の方も喜ぶからねっ。ルークは花ちゃんの笑顔見たさに、黒いオーラびっしばっし出しながら僕に手紙渡す様子は見せたかったなあ! あの黒さはイル・メル・ジーン大好物だし?」
「そうね、嫉妬に狂う男というのも美味しそうだわ~」
「…… 怪しい目つきだな! まっ、これで取引先が一個増えたし? 流石僕だね!」
「まだ開拓してたの? あの人に頼まれたからって貪欲ねぇ」
「しっ! どこで聞いてるか分かんないんだからっ! こらこらこら、それ、最後の一瓶じゃないか! 半分以上飲んでずるいぞイル・メル・ジーン!」
「カケルがたった二十本しかお酒用意しないから悪いんでしょ? そうね、カケルの女遍歴でも聞かせてくれたら差し上げてよ?」
「…… だいぶ酔いが回ってきたな? タチ悪ぃ」
「そういうアンタこそ目つき最悪よ? ほら早く言いなさいな」
「言ってもいいけど、語れば三日はかかるからなっ!」
「ぷっ。そんな経験値あまりないくせに」
「うーん、そういう事にしとこう! イメージ崩れるからねっ」
「…… 誰に対してよ」
パラレル番外物語おしまい。
年末年始特別企画番外編でした。
どの作品とコラボでしょ?w