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5 (今までのあらすじアリ)


 とにかく、少しでも片付けない事には調理どころではない。

 出し惜しみしないと決めたので、ここは一つ精霊達に手伝ってもらおう。


 「飛沫、汚れを綺麗にして。焔、調度品は焦がさないようにゴミを焼いちゃって。息吹…… は、あの庭の整備ね! 目立たない場所に食べられる野菜とかハーブ、植えて欲しいの。みんなお願い」


 私の部屋はジェネと別れたあの庭に面している。家庭菜園レベルのをコッソリ植えても、荒れ放題の庭ならバレないだろう。


 「しょう!」


 飛沫と焔が言うが早いか嵐が来たかのように部屋は荒れ、しかし次々と汚れていた食器や壁、床、竈が綺麗になっていき、炎が一面に広がったかと思うと埃などのゴミが焼かれた。私も触れているはずなのに、ちっとも熱くない炎を不思議に思っていたら、「姫さんは契約者だからな」と教えてくれた。うーん、こう言っては失礼なんだけど便利だよ!


 片付けまでは焔達は出来ないので大まかに分類を分け、仕舞っていく。

 そして飛沫に、発掘(?)された鍋や綺麗になった水瓶へ水を満たしてもらい、息吹には薪を用意してもらい、焔に消えなくて燃え広がらない火を竈に付けてもらう。薪が無くても炎は出ていられるけど、誰が来るか分からない為見た目を整えておく必要があるからね。

 ここまで一気に終えたので、宝珠に戻ってもらった。


 竈にかかった鍋のゆらりと立ち昇り始めた湯気を、ベッドに腰掛けながらぼんやりと眺める。

 

 ―――― 私、なんでこんなことしてんだろ。


 日々の目まぐるしい出来事で考える暇も無かったけど、ぽっかりと時間の空いた今、自分の置かれた状況をふと振り返った。


 面接の為電車に乗ろうとしてて。遅延でその間コーヒースタンドに入ったつもりが異世界に入っちゃって。ああ、その時ジェネの上に落ちたのよね。―――― あの綺麗な海の底の瞳、鋼の様に固くて、それでいてしなやかな肉食獣のような体。私を抱えたくらいじゃビクともしなかった。


 …… 今思えば、一目惚れだったのかも?

 刷り込み現象だよって誰かに言われそうだけど、例え刷り込みと言われた所で始まってしまった想いというものは止まらないのだ。

 

 それから翔が何故かラスメリナの王様になってて、ユーグとサーラがいて。あのバカップルどうしてるかな?

 翔に乗せられてレーンに来る事になっちゃって……。

 ジェネの部下であるハルドラーダとバッツが外で待っていて。ハルの色男ぶりにクラクラしたし、バッツの空気の読めなさも新鮮だった。

 竜と話も出来たっけなあ。『読みとり』だっけ? 餞別だって言ってたけど、どんな力なのか。


 それからそれから。

 国境越えて、私何故か倒れて。ジェネに迷惑かけちゃったな。雨に濡れて熱を出し、腕の切り傷も酷くて肩も腫れていた。助けたい一心で洞穴の外に出たら、精霊達がいたんだよね。ジェネの後押しもあって契約して…… 当代の「精霊姫」となって。


 キムロスの町でハルとバッツと再会して、その時ジェネが実はジェネシズ・バルドゥ・レーンという名の本当だったら王位継承権第一位だった事を聞いた。放棄して弟の為に近衛騎士隊長になったと。ジェネがそんな思いを抱えているってのに、私はお気楽に引き受けて護衛のような事までさせて。猛反省だよ、私。

 食堂でマーサの手伝いをしつつ食材調理法の勉強をして、レーンの王都であるクリムリクスへ行ったんだよね。

 

 深夜だけど近衛7番隊副隊長であるロゥが迎え、翌日は憧れの物語『精霊姫と騎士の旅』の主役であるアルゼル・クランベルグ、その人に会った。近衛騎士団団長であるクランベルグはカケルの頼みを了解し、そして王の姿が見えないことを憂いていた。

 そこで、私が侍女となって潜入して様子を見てくるってなったんだよね!

 準備で近衛騎士団の詰所で…… イル・メル・ジーンが居た。ないすばでぃーな超絶美女。妖艶な雰囲気を漂わせ、ジェネとただならぬ関係を匂わせていた。

 

 ―――― 兄の様だと思い込もうとしたのもこの時。気持ちに気付かない振りをしたんだ。


 ジェネに食事を作る話が、いつの間にか近衛騎士団全体にって話が大きくなって。がむしゃらに作って何とかなり、ハルが頭を撫でてくれた時感じた違和感。あの頭を撫でる手は、ジェネじゃなきゃいけなかったんだ。私、ジェネの手を求めていたんだ。


 魔窟しつむしつの小部屋まで送ってくれたジェネが、私を労ってくれて……「今度は―――― 俺だけに作って欲しいな」 と、頭を何度か撫で、額にキスをした。

 その時。ハッキリと自覚したんだ。


 私は、ジェネシズが好きだと。


 しかし、ジェネにはイル・メル・ジーンがいる。似合いすぎる二人には、最初から入る隙がない。私は初恋と失恋を同時に理解する夜となったのだ。


 この気持ちを、忘れよう、無かった事にしようと気合を入れて詰所へ行ったら、イル・メル・ジーンから携帯電話を寄越せと言われ。なんでここでこれが必要なの?!と思ったら翔が魔力の無い者同士の通信手段として置いていったものらしい。これで緊急時以外は夜に定時連絡をジェネと取ることになった。


 いよいよ王の部屋へ向かったのだけど、身体検査を受ける場所でジェネに酷い侮辱を浴びせる相手に腹が立って私はくやし涙が止まらなかった。

 ジェネが言われてるのに私がまたジェネに八つ当たりして。だって、許せなかったんだもん、あんな酷い言葉言われて。

 涙の止まらない私にジェネは…… 私に口付けをした。

 余りにも心地の良い感触に恍惚となりながらも、どうして? と心の片隅で恐慌をきたしていた。

 そっと唇を離したジェネは、「涙は止まったようだな」と私の目を見ながら言った。

 ―――― そうか、これは単に私をビックリさせて涙を止めようとしてくれたんだと理解する。


 そうしたら、空に浮かぶ雲がサッと切れて、明るい光が差し込んだ。この国でまさかの日の光。

 うわっと空を見ていたら、降りてきたのは光の精霊。

 しかしまだ完璧な姿ではなく…… 私の足りない感情が満たされたら具現すると。

 「繋がる喜び」―――― それって、まさか?

 



 「…… ノ。……ウンノ」


 肩を揺すられて、ハッと気付いたらハルがそこに居た。


 「きゃっ! ハルさんいつの間に!」


 ボンヤリ今までの事を思い返していたら、ノックの音が聞こえなかったみたいだ。


 「扉をたたいても返事がないから入らせてもらった。―――― どうしたんだ? そんなに涙を流して」


 ハッと慌てて頬に手を当てれば、びしょびしょに濡れている。いつの間にか泣いていたらしい。

 ゴシゴシと袖で乱暴に拭うと少し沁みた。朝から、いや昨日の夜から泣きっぱなしで目の周りが痛い。


 「いえ、なんでもありません。食材ありがとうございます。またお願いしちゃうかも知れませんが……」

 

 「そりゃ構わないが」


 何か言いたそうなハルをあえて無視して、私はルネから渡された紙を差し出した。


 「ハルさん、これってなんて書いてあるんですか?」


 「これは…… 『監視・衰弱・手加減』と書いてある。―――― おそらく、ルネは他の侍女に監視されているんだろう。王を衰弱させるように、しかし死なせないよう手加減を、と」


 それであの怯えた目つきか。待機部屋に居た二人の険しい表情も頷ける。


 「この件については若と団長に報告する。それで? ウンノの内緒の相談事ってなんだ?」


 ハルはベッド脇にある小さな椅子を持ってきて私の近くに腰掛けた。

 今のハルは眼鏡をかけていない。大人の魅力ムンムンで、全てを委ねても安心できそうな気がした。


 「あの」


 「ん?」


 「あの…… 私を、抱いてもらえませんか?」







設定上初夏なのですが、今書いてるこっちは年末なので

ちょっと今までを振り返ってみました。

ここで終わるのもどうかなと思ったけど(汗)


明日はちょっとした企画モノアップするんでお楽しみにー!

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