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 必要以上に仰々しい扉。その両脇には近衛騎士を意味する完全装備の甲冑が立っていた。ああ、今日詰所に甲冑姿いたっけな。ってことは七番隊の誰かだろう。

 ルネに促され、騎士から一通りの身体検査を受ける。その時「これは?」と兜の中から、くぐもった声でポケットに入っていた物体を問われる。

 あ、これは…… 旅の石だ。ずっと肌身離さず、着替えても無意識に身に着けていたものだ。私の拳半分ほどの大きさとはいえ流石に王様に会うわけだから、武器になりそうな物は取り上げられるってものだ。

 まあ、屋内だしそんな虫が湧いて出てくるだなんてないよね?

 旅の石を騎士に預け、やっと室内に入る許可が下りた。


 重厚な扉を叩き合図しても返事はなかった。しかし、別段気にした風もなくルネはサッサと扉の中へと滑り込む。

 え?いいの?

 続いて入った私の目の前に広がる光景は恐ろしいほどの広さをした長方形の部屋で、リビングの様な造りをしている。そして更に続き間へと入る扉がいくつかあり、一つは侍女の待機部屋だったり王の寝室だったり洗面所だったり……。ルネが次々指し示しながら説明をする。


 広いよ、広すぎるよ!

 私の勤めてたホテルのスイートルームなんて目じゃないよ!!


 アンティーク調の家具類。いや、アンティーク調って見えるのは私の主観なんだけどねっ。猫足のテーブルは飴色で、恐ろしく細かな細工が施されている。その脇にあるソファは柔らかそうな革張りで。周りに備え付けられている家具は全て同じテイストで固められている。

 ああ、値踏みする自分の何て下世話な事!


 キョロキョロ眺める私を呆れた口調でルネが咎める。


 「サーラさん、あなたそれなりにいいご身分の方とお聞きしましたけど? …… まあいいです。とにかく部屋の説明は分かりましたね? 待機部屋には私の他二名ほどが常に居りますが……。王の下に参る事はありません。これからサーラさんには王の専属をしてもらいます」


 「は?」


 「これは決定です。あなたの好きなようになさって下さい」


 「ちょ! ちょっと待って! 好きなようにって?!」


 それきり黙ったルネは幾分顔が青ざめていた。何か言いたげに口を開くが結局きつく結びなおし、サッと踵を返すと侍女待機部屋へと消えてしまった。


 おいおいおいおい!

 一国の王の世話を初出勤、しかも素人の私にさせるとは一体何事?!


 しん、と静まり返った室内。その中にポツンと一人佇む私。

 広くてガランとしたこの部屋は空虚感に包まれた。豪奢なはずの家具達も、色褪せて見える。

 

 ―――― 一国のあるじが住まう部屋の雰囲気では…… ないよね?

 

 ざわりと嫌な予感が心をよぎる。


 好きな様にしろと言われるなんて、王のはそんな扱いを受けているわけ?

 いつでも出て来られるよう耳に宿る精霊達に声を掛け、王の寝室の扉に手をかけた。


 カチャリ。


 ゆっくりと開けて半身ほど扉に滑り込ませれば、室内は重い闇に覆われていた。

 

 あれ? ついさっき外は晴れてたよね? また少し曇ってはきてるけど。カーテンを見ればちゃんと開いているっぽい。王がいるらしき場所を探すが、暗すぎて目を凝らしたって何も見えてこない。


 (おい姫さん! これは闇の精霊の力だ!)


 焔が声を荒げる。焔は精霊を見極める力があるのだ。


 「闇?! なんでここに闇の精霊が?!」


 (ひめさま、ぼくいったでしょ? せいれいつかいがつくった けっかいがあるって)


 団長の部屋で疾風が報告してくれた時確かに言ってた。王は精霊使いが作る結界に捕らえられている、と。その精霊使いは闇の力を使うのか!

 私には闇の精霊が見えない。光と一緒で私に足りない感情があるせいだけど。

 闇の精霊が意味する所は、陰の気、負の感情、死。これだけ濃厚な気配の中で、王は……!


 「みんな! この闇の力追い出しちゃって!」


 力を出し惜しみする場合でない。全ての宝珠の力を解放すると4人の精霊たちが(しょう)と口々に私に告げ、部屋の中心地辺りへと集う。

 赤青黄緑の輝く色彩がゆらりと揺れ、(さん!)と天に拳を突き上げ叫ぶと、ねっとりとした闇は一瞬のちに霧散した。

 入れ替わりの様に窓から明るい光が差し込む。私は急いで窓を開けて「疾風、飛沫、清浄な空気を作って!」とお願いした。


 (しょう


 と答えた二人は清らかな水を運び、細かな霧を作り出して室内を風で洗い流す。

 その様子を横目に、私は王のベッドの傍へと駆け寄った。


 「王様! 大丈夫ですか?!」


 柔らかな布団に包まれる王は少しくすんだ金髪で、顔立ちはやはり兄弟だけあってジェネに似ている。その相貌は閉じられている為に色までは確かめられないが……。

 王の様子を一つ一つ観察する。呼びかけても反応がない。そっと首筋に手で触れれば脈は感じられた。肌はかさつき唇も荒れている。顔色は酷く悪い。


 ―――― そういえば疾風が、王は何も食べていないって言ってた?


 「息吹、王の状態は分かる?」


 地の精霊である息吹は、生き物の成長に詳しい。じっと眺めていたけどボソッと呟く。


 (……疲労、主に精神。胃腸虚弱。反抗による食事拒否。他問題ない)


 良かった。病気や呪い系じゃないのね。でもこのままでは衰弱して死んでしまう!

 ジェネが大事に守ろうとしている弟。なんとかしないと!


 また精霊使いによる侵食が行われないよう焔に見張ってもらい、私は水分を取らせる為の飲み物を用意する事にした。


 ―――― 水はどこ? あと……。


 ベッド横においてある水差しにはコップも付いている。でも私が欲しいのはそれだけではない。ああそうか、こういうのはこの子が得意ね。


 「息吹、レモンっぽいのを一つもらえる?」


 「…… 一つだけ?」


 もっと出せるのにといった物足りなさも滲ませながら、息吹の差し出した手の平にはポンと一個、まさしくレモンが現れた。


 「わ、ありがとう」


 とりあえず一つでいい。冷蔵庫ないから。腐らせるのもったいないし!

 あとは……。


 バターンと扉を開け放ち、侍女待機室まで走った。

 コンコンとせわしなく叩き、返事があるのも待ちきれずに開け、尋ねる。


 「ルネさん! あの、砂糖と塩、あります?」





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