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 支度としてはこんなものかな、とおおよそ納得した所で衝立を出ると、三人ともポカンと私を見た。

 えー、何か変っ!?

 焦って自分の姿をキョロキョロ見てみたけど、特におかしな点は見つからなかった。

 するとイル・メル・ジーンがパッと扇子を広げて口元を覆い、意地悪そうに笑い零した。


 「見なさいよウンノちゃん。彼らはアナタに見惚れてるのよ。言ったでしょう? 女は化けるってね!」


 あー、可笑しいと止まらない笑い声を余所に、私は落ち着かなかった。こんなに視線を寄せられて平気な人はいないって! ――ああいたっけ、すぐそこに。

 一人突っ込みを入れている間に、イル・メル・ジーンはサッサと椅子に腰掛けて扇子をあおぐ。


 「呆けてないでさっさとやりましょうよ。座って!」


 「――あ、ああ」


 ハルがすぐに立ち直り、私を椅子へとエスコートしてくれた。


 「ウンノ、とても綺麗だ。その……目元が随分変わったようだが、化粧で?」


 「あ、はい。少し印象変えようと思って、タレ目メイクにして見ましたが……変じゃないですか?」


 目元が結構キツメだという自覚はあるので、いかにも女子らしい桃色メイクをしてみたのだ。普段はやらないチークを入れてみたり。


 「ほんっとこう見ると女の子なのねー。その胸は自前でしょ? 大きいのに形いいし、うらやましいわ。あー、アイツにくれてやるにはもったいない!」


 アイツって、どいつ!?


 なんのことかさっぱり分からないけどイル・メル・ジーンはそう言い、「とにかく話を進めましょ」と促した。


 「これよりウンノには王の侍女として潜入してもらうのですが、そちらにハルが手配した『ルネ』という女官がいるので、なにかあったらそちらを頼って下さい。それから……」


 ロゥが淡々と注意事項を言う間、ハルは何故かニヤニヤして、ジェネは……ずっとこちらを見ていた。

 うう、何なのよぉぉ。

 非常に居心地の悪い思いをしながら耳を傾けていると、イル・メル・ジーンがパタリと扇子を畳んだ。


 「それで……私の力はどこまで必要なの? 一個は用意できたけど。あとはあの障壁ぶっ飛ばせはいいのかしら?」


 おっかないよ、お姉さま!


 剣呑な目つきのイル・メル・ジーンはどこまでも本気らしかった。そして、それだけの力があることも。


 「私だってね、見過ごしてたわけじゃないのよ? ウンノちゃん精霊使いと魔術師の力の違い、知ってる?」


 「へっ? あ、ああ。精霊使いとは、六大精霊の力を借りて変化をもたらすもの。魔術師とは、古代文明で開発された言葉の羅列を呪文として読み上げる事によって、力ある変化をもたらすもの……でしたっけ?」


 「まあっ! すごいわー! カケルも知ってて驚いたけど、ウンノちゃんも知ってるのね?!」


 「話せば長くなりますので端的に言うと、こちらの歴史書を読んでました」


 歴史書……小説なんだけど、概ね間違ってはないよね?


 「その性質の違いってのは分かるわね? あの障壁は精霊使いが作った物よ。私は魔術で壊せない事もないけれど、精霊と魔術の力が反発して多分……このクリムリクスは城壁ごと無くなるわね」


 「……」


 無くなるっていうけど、さっきあっさりぶっ飛ばすって言ってませんでしたか、お姉さまっ!?


 「イル・メル・ジーンは御前会議に出る役職にある。その様子を探ることとあと一点、通信魔具を用意する事」


 「もうできてるわよっ。小さい事しかさせてもらえないなんてつまらないわ~」


 イル・メル・ジーンがコトリとテーブルに置いたソレは――携帯電話?


 「あれれ、お姉さまこれって……!?」


 「ああ、カケルから貰ったのよ。仕組みはよく分からないけど、音を伝える道具って言ってたわよね? ウンノちゃんも持ってるでしょ? 寄越しなさい」


 私は一纏めにした自分の荷物から携帯電話を取り出し、イル・メル・ジーンに渡す。うーん、充電してないけど大丈夫かな?


 「じゃあちょっと待っててね? 魔力込めるから」


 集中する為、と言って衝立の向こうへ二つの携帯を持っていった。

 まさかここで携帯電話が必要だとは思わなかったな。カケル、どこまで分かってるんだろう?


 


 「ねえ、番号は何がいいかしら?」


 暫くして戻ってきたお姉さまは、設定する番号について聞いてきた。


 「え、番号ですか?」


 どうやらこの世界用に番号が必要なようだ。


 「うーん、110で!」


 通報番号! これなら忘れない。


 「もう一つは?」


 「119!」


 火事デスカ救急デスカ?


 「分かったわー」


 その場で何か呟くと、「よし上出来!」と一つ頷いて私とジェネに一つずつ渡した。二つ折りの携帯電話をパカリと開ければ、充電切れていたはずが何故か満タンになっていた。不思議だなあ。


 「日に一度は必ず連絡しなさいよ? あの小生意気な馬鹿王……あら失礼。王の様子もだけど、あなたの無事も確認したいんだからね?」


 なにか気になるキーワードが聞こえたような……。


 「はいっ。分かりました」


 「ではいくぞ」


 いよいよ王の下へ行くのかー。

 背筋を伸ばし扉をくぐると、七番隊の騎士たちが一様に私を見た。

 うっわ、怖いよぉ!

 七番隊には『女装をして潜入』という事までは伝えてあるので折込済みだと思うんだけど。

 恥ずかしくて縮こまっていたら、バッツが近づいてきた。


 「うわー、ウンノすげえ! 女そのものだっ! この胸もよくできてるな!」


 そういって、ツンと胸を突かれた。


 ギャッ! っと思ったけど、そこはグッと抑えて「えへへ、そうですか?」と曖昧な笑いで過ごした。

 背後からはなにかひんやりとした空気を感じたけど。


 「あーあ、お気の毒~」


 誰に言ったのか分からないイル・メル・ジーンの声が、一瞬静まり返った室内に響いた。


 


 



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