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 ジェネに連れられ、二人で再び詰所へと向かう。

 道中昨夜のことが気まずくて目線を合わせられなかった。ただでさえ赤面モノの「デコチュー」されたし、その上私は失恋したのだ。失恋、と認めるのは苦しかったけど、忘れるに限る。


 時折気遣わしげな視線を感じたけど、できればほっといて欲しい。

 折角の決意が鈍るよ? 私、まだぐらっぐらしてますから!


 近衛騎士団七番隊の詰所に行く前に、厨房で朝食用のパンを受け取ったんだけど、中にいる料理人達がワッと集まってきて口々に私へ言葉を掛けた。

 

 「ウンノ! 今度はいつ来れる?」


 「昨日の料理が評判で、文官のやつらも食べたいってよ! 調理法教えてもいいか?」


 「もっと教えておくれよウンノくん。とても美味しかったからさぁ」


 皆に囲まれて、ああ頑張って良かったなと素直に嬉しくなった。喜んでもらえて、笑顔を貰って。じんわりと心が温かくなり涙が滲んだが、慌てて分からないようににっこり笑って「ありがとう」と。


 「みんなありがとう! ちょっと別の仕事があるから直ぐには来れないんだけど……。ああ、これだけはアドバイス――工夫してね、色々!」


 基本センスは悪くない。ただ、食べれりゃいいんだ的な食事を出す為に、味付けに関して全く工夫をせずにいただけ。

 これとこれを足せば、このような味に! ってちょっとずつでも試していってくれればいいのだ。


 例えば、昨日の鶏肉。

 これだけ肉があるのだから、鶏ガラはどうしてるのかと聞いたら捨ててると。もったいない!

 チキンスープを作るように、合間に調理法を教えた。


 鶏ガラとは一旦茹でこぼし、水で洗ってアクや汚れを取り除く。でっかい鍋に鶏ガラと水と、白ワイン的な酒をガバッと入れて、野菜……人参や玉ねぎニンニクをボサッと入れて。ネギの青い葉が無いから玉ねぎの葉っぱの部分を代わりに入れてみたり、セロリが無いからスープセロリというハーブを入れてみた。これはたまたま食材の片隅にポツンと置いてあったのだ。料理人が生のまま齧ったら口の中がくさーくなってしまい、使えない! と放置したらしい。うん、あれはクセが強くて好き嫌い分かれるよね。


 そして取り出しましたるこのハーブ。ローリエ、ローズマリー、タイムは乾燥させた手持ちのがあったので使うことにする。パセリもあれば良かったけどねぇ。せめてチャービル。でも無いから割愛! あとは粒のままの胡椒を入れて、アクをとりながら2時間ほども煮れば完成だ。漉してスープを作っておけば、何にでも使えるチキンスープの完成。


 これで野菜入れたり、かきたまの卵浮かしてみたりと、美味しいスープが飲めるんだ!

 ……と、つい熱く語ったんだよね。熱く語りすぎて回りの様子が見えなかったけど、ふと気付いたらメモを取る人垣ができていた……!

 いやいや、そこまで重要じゃないよ? テスト出さないよ!?


 昼までには作ると言っていたので、頑張ってと声をかけて厨房を後にした。

 うーん、なんか充実感。忙しければ苦しい気持ちも思い出さずに済むしいいね!

 沈んでいた気持ちは少し浮上した。



 詰所へ着いて扉を開けると、これから夜勤の隊と交代の為の騎士達が支度をしていた。かろうじて全裸はいなく、目のやり場に困るということはなかったので助かった。

 甲冑姿が数人、略式が殆どだ。甲冑は見栄えの為に謁見室や王城の出入り口に立つ。略式なのはその方が身動きしやすいからね。いざという時に動けないんじゃ、近衛を名乗る資格無し、だそうだ。


 その様子を横目で見ながら、昨日の魔窟へと入る。

 そこには、すでにハルとロゥ、イル・メル・ジーンが待っていた。厨房で時間を掛けた為に遅れちゃた!? と思ったら、「いや、私達が早く来過ぎたんだ」とハルが私にこっちへ来いと手で招きながら言った。

 

 「侍女服を持ってきた。衝立の向こうで着替えてくれるか?」


 「は、はいっ」


 女心としてはみんなに扉の外へ出て行ってもらいたかったけど、一応私は男という設定。いや、女になりたい男の設定なので、変じゃないけどそこまでするには不自然か。

 服は腰に巻くリボンみたいな物がよく分からなかったけど、基本ワンピースと一緒だし、何とかなるかな?

 ザッと脱いで、サラシも外す。このサラシ外すだけでも非常にありがたい。とにかく苦しいんだから!

 膝丈のワンピースを着たのはいいけど、背中部分にボタンが列を成している為に背中上部に行くほど手が届きにくくて辛い。どうしようかと思っていたら、イル・メル・ジーンが声をかけてくれた。


 「手伝うわよ? ウンノちゃん。背中ボタンの選ぶとはね、ハルったら。なかなか扇情的じゃない?いい趣味してるわ」


 「ど、どういうことでしょ?」


 「ふふっ。説明いるだなんて初心ウブな娘ね?」

 

 艶やかに笑うその顔は、同性ながら見惚れてしまう程の美しさ。「まだ子供だ」と言われたのと同じ様な響きなのに、この人に言われたら「まさにそうです」と言ってしまうだろう。

 こんな小さな嫉妬心なんて屁でもない。


 「あら? ……ねえ、ウンノちゃんこれは?」


 イル・メル・ジーンが私の首に掛かったチェーンを摘んだ。

 私は「あ、これはですね」と、前に垂らしていた物を手繰り寄せて見せる。


 「翔が寄越したんです。お守りだからって」


 元々指にアクセサリーをするのは調理する者として正しくないと指導されていたので、チェーンに通し、ネックレスとして首から下げていたのだ。


 「ふぅん……ま、大事にしなさい? 絶対外しちゃだめよ」


 イル・メル・ジーンはそう言いながら、腰のリボンを美しいドレープを作りながら纏めてくれる。うーん、私これ同じ事出来るかなあ?


 あとは、男としていた為にスッピンだった顔に化粧をのせる。自前のを一応持っていた為にそれを使うことにした。ホテルの従業員という立場だったから、無難な化粧くらいはできる。

 その化粧道具を見て、お姉さまは「これは? あ、これも! これも!!」と目の色変えて聞いてきたのには驚いた。確かにこの世界のとは随分違うし、発色も良いから仕方の無いことか。

 恐ろしい勢いで商品名をメモしだしたので聞くと「カケルに買わせる!」と。

 行ったり来たりのカケルならば買ってこれるからね、確かに。





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