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――俄然やる気の満ち溢れるこの方達怖いんですけど! ハル効果だとしても程度があるだろうに。
私が! 私が! といい所見せたいのか鬼気迫るものがあったけど、今の私には返ってありがたい。どんどん進めることが出来るしね。
五百人分という途方も無い量だけど、流石三食賄う厨房は慣れた手つきで私の出す指示をこなしていく。あちらこちらと動き回る料理人を数えるのも面倒だけど、かなりの人数がいた。人海戦術的調理室。うん、なんとかなるかも!
一応使うかも?と思って、小部屋に置いてきたハーブ達をハルに頼んで持ってきてもらう。
まず食材の確認から。
肉類……鶏肉はある。イカはあの量ならアレを作ればボチボチか?
野菜は輸入に頼っているために保存の利くものが殆どだ。卵とか、乾燥豆とか……他にはジャガイモ、人参、玉ねぎ――ここまでいうと「カレー!」って言いたくなるねー。
スパイスってハーブでもあるんで、私には馴染み深いものだ。
アウランさんに聞いたところ、そんなスパイスを組み合わせる料理なんて聞いたことがないと。
よし決めた、カレーだ! 大勢集まる場所にカレー有りだ!(違)
ただ、スパイスは手持ちの物じゃ絶対足りないよね!
あまり複雑な物を作ったことはないので、基本的なターメリックとクミンシード、レッドペッパーがあればなんとかなる。
そこでふと思った。
これって、薬師持ってないか?
ターメリックやクミンシードは漢方としても広く知られている。こっちでもその様な感じで使われてないかなと思ったのだ。
そう思ったら早速アウランさんに確認を取ってもらい、その間に出来ることをする。
まず手をつけたのはマヨネーズ! ジェネ気に入ってたしね。
作り方を指示して作っておいて貰う。
干し肉あるんだから塩漬けにした肉位あるでしょうと見つけた塊肉を、少し塩抜きして細かく切る。ジャガイモ、玉ねぎ、乾燥豆の赤っぽいのを彩りにふやかしてから加え、ジャガイモが透明っぽくなるまで炒める。その後は卵を溶いて、その中にマヨネーズと塩コショウ、少しの牛乳をよく混ぜて焼いたジャガイモ達に加え蓋をして、焼き色良くなったらひっくり返して、焼ければ完成。
スパニッシュオムレツ!
ほんの少しで味がフワッと香るローズマリーを足してみた。うん、美味しい香りがする。
一回見本を作って、これを延々作ってもらうよう指示。
作り終えた所でアウランさん戻ってきた。
大きな袋を抱えて来たよ?
開けてみたらまさにターメリックの粉とクミンシード! 聞けば発注ミスなんだと。私ツイてる!
赤唐辛子があるのは知っていたので、それも粉にしてもらって。
飴色玉ねぎにしたり、鶏肉に焼き色つけてから投入したり。細かい事言ってる間にどんどん進めちゃいたいからやっている所を見せて、料理人たちに後を任せる。
一度見たらそんなに難しい事もないので、プロにやっていただこう。
後はナンも作る。
二次発酵のいらないタイプなので簡単だ。薄いからあっという間に焼きあがるのもありがたい。
そしてイカ……団長、幾らなんでも釣りすぎですよ。
下ごしらえの人、何人掛かってると思うんですかっ! まあともかく(?)、もう時間も無いのでサッサとやっつけよう。
輪切りにして、レモン汁と塩コショウで暫く漬け置き、卵液にくぐらせ小麦粉まぶして油で揚げる。以上!
そして、マヨネーズをそれに添えた。
よしっ! イカリング!!
いくらなんでもね?
下準備っていうか、「ある物で済ませる」には限界があるだろう!
ほんの数人なら何とかなったけど、この量は一般的にありえませんから。
精魂尽き果て、グッタリと隅っこにあった椅子に座り、料理人達の姿を眺めた。
初めての料理に戸惑いながらも、味見をしたその顔はパッと明るくなって。楽しそうに作業を進めていくその姿をみるのは、疲れてはいたがやった甲斐があったというものだ。
厨房全体がふわんとカレーのいい香りが広がる。
あー、お腹空いたなー。
思えば、朝は食べていない。
昼は……パンらしきものを齧ったきりだ。
「ウンノ、疲れたか?」
ハルが気使わしげに私の隣へ腰掛けた。――なんで姿見えないかと思ったら、どうやら女性達をヤル気にしててくれたんですね……。
やる気かヤル気かもうどうでもいいやと投げる。
「もう、これ以上働けません……」
やることはやった。窓の外を見ればすっかり日も暮れようとしていた。
「近衛の交代の時間がそろそろだ。隊ごと順番に食べに来るぞ」
ハルはそういって私の頭を「お疲れさん」と撫でてくれた。
でも。色気とかどうこうじゃなくて、なんだかその手が『違う』と違和感を感じた。
――違う。違う。私が撫でて欲しいのは……?
そこまで考え、一体私は誰を思い浮かべようとしたのかと慌てて考えを振り払った。
全ての食材料理には「っぽいもの」と脳内で付け足しておいて下さい。(人任せ)