1 料理は戦い
「あ、ハルさんお帰りなさい!」
バッツが先に気付き同じ方向を見ると、眼鏡が外れているハルが詰所に入ってきた所だった。
――あれ? なんか少し髪が乱れてる? あれ? なんか唇の端に赤い物が? あれ? なんか首筋に……ハルドラーダ師匠! 確か王に仕える女官への手回しに行ったと思うんだけど……手出しに行ったのか?!
「なんだお前、割に回復早かったな」
「はいっ。隊長すごいって話してたら落ち着きました」
そして私の方を見ながら
「隊長は頼れる兄貴ーってな!」
「そうです、隊長はお兄さんみたいです!」
バッツと二人で「ねー」「なー」と頷き合っていたら、ハルが小声で「……不憫な」と悲しそうに呟いた。バッツも私も兄という存在に憧れているんだからいいじゃないか!
そう反論したが「いや、そうではなくて」と言いかけ、しかし結局黙った。
「ハルさん、ちょっと厨房に行きたいんですけど一緒に行ってもらえませんか?」
「ん? どうした」
「隊長から料理作ってくれって言われたので、場所と材料をお借りしたくて」
「おっ! ウンノの料理か! 私もご一緒させてもらえないだろうか? ウンノの料理は本当に美味いからな」
「厨房の方から許可出ればいいと思いますけど……食材の量の問題もありますし」
「はーい! はいっはいっ!! 俺も! 俺も食べたい!」
勢いよく手を上げるバッツに、詰所にいる他の騎士達も何事かと集まってきた。
バッツが「こいつの作る料理は、今まで食べた事の無いほど美味しいんだ!」と声を張り上げ、結果全員分作ることになってしまった。
どうするよ、自分!
かなりの量になるだろうな三十人前とチョイってところか。相手は肉体労働の食べ盛り何年目? の男達だ。絶対三十人前では足りないだろう。
……流石に餃子はムリ。
色々な料理を思い浮かべ、ラスメリナで翔達と食べた中華を思い出したが、即座に却下した。刻んで揉んで包んで焼くだなんて、どんだけ量と時間と手間が掛かるんだ! と気が遠くなる。
うん、ガーッと切ってガーーッと煮て焼いて揚げてガーーーッと並べよう!(超アバウト)
*****
厨房にハルと向かえば、そこで働く女性達は悉くメロメロで仕事にならなくなり別室に移動。男性も何故か顔を赤らめて目を逸らす。……身に覚えある者か!
こらこら! ハル師匠! 眼鏡どこ行ったー!
これじゃ仕事にならないよ……。
私は大分ハルに対して耐性が出来てきたのか視線が合っても大丈夫になったので良かったけど、一人でやるには限界があるから、ハルには眼鏡を付けるようお願いして厨房の人達に色々頼む。
ここの厨房で城全体賄うのではなく、人数が多い為五つ位に分かれて作っているそうだ。
そりゃそうだ、七番隊だけで三十人ってことは十五番隊単純に合わせただけで四百五十人だもんね!
それ以上に、王族、文官、精霊殿、女官侍女下女……とにかく、沢山!(計算苦手)
ここは主に近衛専用の厨房として回しているらしいので、七番隊だけ違うメニューもな、と渋られたけどそこはハルが押した。
「だったら、ウンノが指示して全部同じ内容にすればいいじゃないか」
ええー! 話大きくなったーー!!
他ならぬハルが言う為に、特に反対も無く(おい)今日の夕飯は私の考えるメニューに決定。
もうね、これは女性戻ってもらわないと無理だよね! 手が足りない。
厨房の責任者、アウランさんっていったかな?その人に頼んだ。
「女性達に、ハルさん好きにしていいから戻って? と伝えて下さい」
そのセリフにハルは片眉を上げたが、余裕ありげに「そんな事でいいのか」なんておっしゃる。
うわあ、構わないのか!
何人いると思ってるんだ……ああ、大丈夫か。
『キムロス”夜の花”機能停止』を思い出し、可能である事を思い出した。
アウランさんが女性達を呼ぶ間、私はここにある材料からメニューを考える。
マーサさんの所でお手伝いした事は、ここの世界の食材を私の知っている食材と代替利きそうな物へ、それなりに勉強したので成果はあったといえる。
種類が少ないのは輸入に頼っている為であり、仕方の無いことだけど……。
「なんですか、このイカ」
水場にこんもりと盛られた生のイカが鎮座していた。その傍で黙々と作業していた料理人が言うには
「団長が……団長が釣ってくるんです!」
と、半泣きでイカの下処理をしている。
どうやら、団長は趣味で釣りを嗜むらしい。――いや、嗜むというレベルじゃないよね、この量。漁師か!
しかも一種類ピンポイント。
どうやって食べるのか聞いたら、ただ焼くだけと。じゃあ、活用させてもらいましょう。
ラスメリナと似たり寄ったりな料理らしいので、好きなようにさせていただくよ?
ジャガイモ(別の名前があったけどこれで押し通す)はでんぷんを取るだけの為に使っていたらしいけど、これが食材になるといったら驚かれたしね。
――さて、戦闘開始だ!




