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 一旦気持ちを鎮めようとしていると、焔と疾風が心話で語りかけてきた。


 (ひめさま? どうしたの? きもち、ざわざわしてるよ?)


 (姫さんの感情に俺達引っ張られるんだって前に言ったよな? ちったあ落ち着け)


 (えっ、あ、ごめんね? 大丈夫大丈夫。深呼吸すれば落ち着くから)


 すー、はー、としたら大分マシになった。ただ、まだ奥底には澱の様に沈んではいるが。


 (飛沫と息吹は、まだ戻らないのかな?)


 (姫さんが一声掛ければ即来るさ。まだ戻らないってのは気になる事があるのか、掴めないのか……)


 焔でも理由までは分からないらしい。

 うん、明日の事もあるし一旦戻そう。幸いこの部屋には私だけだ。


 (――飛沫! 息吹! おいで!)


 目を閉じ心の中で彼らをイメージすると、中では赤色と黄色が光っていたけど段々と青色と緑色が滲む様に広がった。帰ってきたんだ、と分かる。


 (姫君、只今戻りました)


 心話でも礼をとる飛沫が想像でき、黙っているけど息吹がちゃんと戻ってきた事にも安堵した。


 (二人ともありがとう。疲れてない? 大丈夫?)


 (我々は精霊なので人間と違い休息はいりません。それに主を得たので力が数倍上がってますからご心配なさる必要ありませんよ)

 

 へえー、そうなんだ。

 小さい子供の姿なのでとても力があるように見えないが、リィン時代の契約した精霊達も尋常ではない力を惜しげも無く使っていたから、それ位はあると理解する。

 私はそこまで使役する気も無く『力を少々貸して頂く』という気持ちで契約した。むしろ力を存分に使う機会なんてあってはならない事だと思っている。

 この地の精霊の不安定さ。

 王を立てる支えとして、私の『精霊姫』である力が添えられればいい。


 その後は……開放へ?


 正直、その場その場でないと見えてこないこともある。

 召喚の契約が終了次第私は日本に戻る事になるんだけど、いざ戻るという瞬間、何を思うんだろう。


 漠然とした不安が心を占めるけれど、今考えても仕方の無いこととこれも後回しとする。


 (報告、お願いできるかしら?息吹から)


 (……農作物、壊滅的。豪雨、日照り、極端。鉄鉱石、減りだした)


 (そう……。これはホントに急がなきゃいけないわね。次、飛沫)


 (はい、光と闇の精霊たちの調査結果ですが……すみません、見つけることは叶いませんでした)


 冷静なイメージの飛沫だけど、しょぼん、とした気配が伝わった。


 (いいのよ、つまりあなたの力を持って見つからないと言う事は、『自ら隠れてる』か『隠されてる』って考えられるわけだし)


 王の安定を望むならば、六精霊の力が必要である。

 後残るは光と闇。

 陰と陽を司る、肝心要の精霊。

 

 (それでも手がかりは掴めました。情報を統合すると『未知なる感情をもたらせば気配に惹かれ現れるだろう』と)

 

 ――未知の感情ってなんだ?


 (姫様、様々な経験をなさいませ。さすれば未知なる感情も芽生えましょう)


 それだけ言うと、飛沫は沈黙した。反応が無いので、これ以上言う気は無い様だ。


 ――知らない感情って事よね? 私の知らない感情……いやいや、私が知らない感情なんだから考えても出てこないよね。経験かあ……。



******



 いつまでも一人部屋に篭るのもなあ、ってことで詰所に戻る事にした。

 心が重かったが、動いていた方がましだ。

 この部屋に入るまでは死屍累々としていたけど、流石に何度かの経験者はチラホラと動き出していた。その人たちが私を見るとビクッと体を強張らせるのは仕方の無い事か。

 相変わらずバッツは壁と仲良くしていた。何を言われたのか知らないが、ここは一つ慰めておこう。


 「先輩、大丈夫ですか?」


 私の声に視点の合わない目を向けたけど、徐々に光が戻ってきた。


 「あ――ああ、ウンノか。ごめんちょっと余裕無くて」


 すごい。ここまで心を折ることが出来るお姉さまって、本当にすごい。もうすごいしか言えない。


 「会ったの初めてなんだったな。『災厄』が過ぎた後で助かったぞ、お前」


 ふかーく溜息を吐き、両手で髪をバリバリ掻き毟った。


 「なんで隊長幼馴染だからって今まで付き合ってこれるんだ!? よく平気だよ! 平然とした顔だし、鋼の心を持ってるに違いない!」


 さすが隊長! と褒め出したバッツだけど私は心の中でそれは違うと否定した。

 不快だと眉間の皺が濃くなる。

 弟を思いやる表情は、影が生まれる。

 笑うと、整った顔が途端に華やいだように輝く。蕩ける様な眼差し。


 ――私は、知っている。


 「隊長はやっぱり、頼れる兄貴って感じだよなー!」


 ひとしきりジェネを褒めたバッツだったが、最後にそう結んだ。


 兄貴?


 お兄さん?


 ああそうか!

 私は、「兄という存在」をジェネに感じてたんだ! きっとそうに違いない。

 産まれてずっと「姉」をしていたので、そういう存在に憧れがあった。


 気持ちの着地点をようやく見つけて、ホッとした。



 


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