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 「ええええええええっ!!!」


 突然大声を上げてしまい、団長もジェネもこっちを驚いた目で見返した。


 「ああいえ、げふんげふん。何でもありまシェん」

 

 動揺してしまいちょっと噛みながら誤魔化した。と思ったら、ジェネがそっと私の背中に手をやり心配そうに「どうした?」なんて聞いてくる。

 うおー、優しすぎる! いやいや、それどころではなくて。

 こっそりジェネに耳打ちをした。


 (あの、今風の子が帰ってきて王の様子を聞いたんですが、精霊使いにより結界に阻まれて軟禁状態らしいです。その上……食事を最近取っていないらしくて……)


 死んじゃうかも、とはどうしても言えなくて飲み込んだ。


 神妙な面持ちで聞いていたジェネは、ふわりと目を優しげに緩ませながら、「ありがとうな」と私の頭を軽く撫で、団長のいる窓際に向かった。


 「先程の話、検討させていただきます」


 団長に向かって、ジェネは決意を込めた声で言う。

 一体何の話があったのか? 私がそう聞くと、ジェネでなく団長が答えてくれた。


 「ジェネシズがラスメリナへ出立した頃から、王が姿を見せなくなったのだ。それまでは朝議や謁見の折にはお出まし下さっていたのだが、代わりに宰相のベナム・グランドーが取り仕切るようになった。……今までも王は言葉を発さず宰相が全てを動かしていたから、政務上は問題は無い。ただし、そこに王の姿がないだけで……」


 団長は、沈痛な面持ちで外から視線を外し、私を見る。


 「そこで――王のお傍に仕える侍女をこちらで用意し、潜入させようと思うのだ。私の息が掛かっていない様に見せねばならぬ為、人選には少々苦労しそうだ、という所までジェネシズと話した所だ」


 んっ?


 「今の所候補として、バッツの姉辺りが適当かと思われますが……」


 おっ?


 「そうだな、あの姉ならばあまり顔は知られていない。どうだ、連絡を――」


 「あのっ! それ私やります!!」


 勢い込んでびしりと挙手をした私に、二人とも目を見開き固まった。


 「王の侍女として潜り込めばいいんでしょ? だったら私が行きます!」


 「ウンノ! 何を言っているんだ!!」


 団長より一足早く立ち直ったジェネが私の傍に寄り、私の上げていた手をグッと握りこんだかと思ったらその手を引き寄せられて、体ごとジェネにぶつかった。そしてそのまま、ぎゅうと抱きしめられて――!


 「ちょ、ジェネ! ジェネ!!」


 太い腕が腰に回されて締められ苦しくて、しかし身動みじろぎをした所で固いその腕は動く事も無く、抗議の声を上げたらやっと気付いたかの様にほんの少し緩くなった。


 「どれほど危険な事だと思っているのか!? 大体お前が行く理由など無い。体裁整えるからそれまで待て!」


 「いーえ待てません! 時間ないですよね? だったら私の方が便利だと思います!」


 「駄目だ!」


 「駄目って言われても行っちゃいますからねっ! それでもって、書状も渡しちゃいますからねっ!」


 頭ごなしに却下するジェネと、子供みたいに駄々を捏ねる姿に団長がとうとう堪え切れず笑い出した。

 

 「ク……ククク……アーッハッハッハッハッ!! ジェネシズ、お前の負けだ! ふふふ、お前がここまで取り乱す相手が出来たとはなあ!」


 団長が笑う姿を呆気にとられて見ていたジェネだったけど、自分が私を抱き締めているかの様な姿に、慌てて手を引っ込めた。

 やれやれ苦しかったなあ。慌てたからといって、動けないようにするなんて酷いよ! そんな直ぐに飛んでいかないってば。

 まだ笑っている団長を余所に、私はとある修行の成果を出す事にした。


 「ジェネ……お願いです。危ない事しないしあったとしても逃げるんで、私を行かせて下さい!」


 必殺『上目遣いでおねだりポーズ』でジェネを見上げる。

 僅かにグラつく瞳に、ダメ押しとばかりにジェネの耳元に口を寄せ、コッソリと囁いた。


 (私は現『精霊姫』ですよ? 大丈夫です!)


 ジェネの背中をパーーンと叩き、にっこりと笑ってみせる。

 団長はようやく声は止まったものの、目と口が愉快そうに緩んでいた。


 「ジェネシズ、決まりだな。大事にするのも分かるがこの度胸は力になるに違いない」


 ジェネはソファに腰を下ろし、大きく息を一つ吐くと片手で顔を覆った。


 「一体この双子はどれだけ突拍子も無い事を何故言うのだろうか……」


 小さく呟くその声にほんの少しだけ罪悪感を持ったけど、早く王の下へ行ってあげたかった。

 


 ――王というより、ジェネの大事な弟だから。






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