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1 近衛騎士団




 支度を整え、魔窟しつむしつへ入ると、ジェネは何枚かの書類にサインを入れているところだった。

 眉間に皺を寄せ、サラサラとペンを走らせる姿はとても絵になっている。

 ただその前髪は目にかかって、時折鬱陶しそうに掻き上げていたので、つい気になって声を掛けた。

 

 「ジェネ? あのー、良かったら前髪切りましょうか?」


 「――ん? ああ、頼めるか?」


 最後の一枚を書き終わり、顔を上げたジェネは前髪を軽く摘みながら答えた。

 髪を切るをこの部屋では流石にどうかと思い、再び小部屋に戻って椅子に座らせ、櫛が無いから指で整えながら前髪を丁度よく切っていく。

 

 うっわ、こんな間近でいい顔見るのって役得?


 「ウンノは髪を切るのも上手なんだな」


 大人しく切られるがままのジェネが、感心した様に言った。


 「翔の髪を練習台にしてましたからね。それなりには出来る様になりました」


 最初の頃、ざんばらにしてしまって泣かれた事もあったな、と言う事は黙っておく。初心者に失敗は付き物だよね! 今は大丈夫だけど。


 ついでだから、と全体も軽く整えて完了! うん、カッコイイ!

 切った髪が付かない様に首周りに掛けていた布を取り払い、軽く叩いて仕上がりに満足してにっこり笑った。

 なぜかジェネは眩しそうにこちらを見て(なんか反射したのかな、と後ろ見ちゃったよ)、有難う、とお礼を言われた。


 「いつもはイル・メル・ジーンが気が向いたときに切ってくれるんだが、暫く会わなくてな」


 「あ、そうそう! そのイル・メル・ジーンさんって、どんな人なんですか? 一応私の兄弟設定なので知らないでいるのはちょっと…」


 「あいつのこと、か。そうだな、知らないと困るか……」


 何となく言い辛そうにしていたジェネだが、「変人だ」と一言で切って捨てた。


 ちょちょちょちょっと! それで済ますんですか!!


 「あのっ! もうちょっと情報お願いします!!」


 ジェネはその長い足を組み、手を顎に添えて眉間に皺を刻んだ。


 「とにかく、そういう奴なんだ。……注意事項だけは言っておこうか。あいつは略称を言うと怒り出して面倒なのでちゃんと『イル・メル・ジーン』と言う事。逆らうと面倒なので、大概の事は流す事。派手な姿をしているが、一応この国の宮廷魔術師をしているので、地位は確立している事。以上だ」


 以上て!


 「ああそれと兄弟は公式二十八名、非公式四十四名、まだ増えるかもしれないが、今現在はそれで全部だ」


 全部て!


 なんなのその人!私は頭を抱えてウンウン唸ってしまった。よりにもよって、そんな人の兄弟とは。

 ……逆に言えば、兄弟も多くて(多すぎて?)しかも偉い人っぽいので私が従者に就いてもおかしくはないだろうな。

 もっともっと聞きたいことはあったけど、『変人の弟』という設定を心のメモに書き加えた。


 ふ、と手に持ったままの鋏を見て思いついた。


 「あ、私も髪を切った方がいいですよね?」


 「どうして?」


 怪訝な顔をしたジェネに、私は耳に付く宝珠を指し示す。


 「ほら、団長って前の精霊姫よくご存知じゃないですか。リィンもね、耳に宝珠付けてたんですよ。これ私が付けてるの見たらバレちゃうんで、隠してた方がいいんじゃないかと思いまして」


 「まあ確かに隠す方がいいが、それが何で髪を切るという話になるんだ」


 何故かジェネは不機嫌になって私に聞く。


 「髪をね、短くすれば自然と髪が耳を隠してくれるんで……きゃっ!」


 私がここら辺まで、と耳の辺りまで髪を切る仕草をしたら、ジェネが私の手を取り、もう一方の手で一つに結わえていたゴムを抜き取って解いた。

 パラッと広がる髪を、ジェネは指でくしけずりながら私の頭頂部に頬を寄せた。


 「切らずとも、これで解決だ」


 隊長ー! まるで抱き合ってるみたいなんですけど!!


 「長髪の男もいると言っただろう? このままでいい。俺はこの方が好きだ」


 俺はこの方が? この方が? ――ああ、好みとして下ろした髪が好きなんですねっ!?


 私はあまりの状況に血液が沸騰しそうになる程熱くなって、髪を撫でられるその手を敏感に感じ、握られる手は第二の心臓みたく鼓動を感じた。

 ジェネが『私』から『俺』と言う様になってから懐に入れられた気分になり、それが無性に甘い響きとなって伝わる。

 包みこまれている安堵感で飛び込んで行きたくなるが、ジェネは『翔の姉』だから甘いのであって、別に私を好きではないのだと思う。優しさを勘違いしてはいけないのだ。


 ふー危ない危ない! また流される所だった!!


 「じゃ、見えないように下ろしたままにしますね。あの…そろそろ行きましょうか?」


 「……そうだな」


 ジェネは最後にもう一度髪を撫で、頭頂部のつむじ辺りに何か触れる感触を残しながらそっと離れた。





 


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