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side ジェネシズ




 「ウンノ! 奥のテーブルにこれ持ってけ!」


 「はいっ」


 「こっちも注文聞いとくれ!」


 「はーい!」


 

 

 「……何をやってるんだ?」


 「わあっ! 隊長お帰りなさい! 今忙しいんで、ハルさんに聞いて下さい!」


 俺の声に飛び上がって驚いたウンノだったが、そう言い残して忙しそうに雑然とした食堂をクルクルと動き回る。注文を聞き、料理を運び、食べ終えた食器を片付ける。その一連の動きに無駄は無く、随分慣れている様にみえる。

 しかし何故給仕を手伝っているんだ? ハルを見ると、困ったように軽く頭を掻き、俺のいない間の出来事を説明した。俺達を待っている間にここでお茶を飲もうとしたら、ウンノが調味料に興奮して、手伝う代わりにそれを分けてもらうとなったらしい。


 余りに生き生きとして楽しそうに働くウンノを見て、少し面白くない気持ちが掠める。そんな様子に気付いたのか、ハルが耳打ちしてきた。


 (若、いい子ですねウンノは。応援してますよ?)


 (っ! 俺は―――――)


 (分かってますよ私には。随分気を許してらっしゃる)


 ニヤッと笑って、空いてるテーブルに座り「さあ私達も食事にしましょう」と、椅子を俺に勧めた。

 後から店に入ってきたバッツもウンノを見て少し驚きはしたけど「へえ、よく動くなあ」と言って大して気にも留めなかった。


 ―――――ハルには見抜かれてるな。


 なにせ自分が生まれ落ちた瞬間からの付き合いだ。常に傍にいたので、俺の事なんて手に取るように分かるのだろう。そして、男女の機微については百戦錬磨の猛者だ――かなうわけがない。



 注文して暫くすると、ウンノが料理を運んできた。


 「お待たせしました! 親父さん特製煮込みと特製サラダです。一杯食べてくださいね」


 両手には皿が何枚も載っていた。どうやったらそんなに持てるものか。「いえいえ、私なんかまだ五枚持ちしか出来ませんよ? 職場の先輩は七枚持ってましたから」と謙遜し、皿を置いたらすぐに別のテーブルへと飛んで行った。


 「隊長ー、あいつ剣よりも包丁が似合うっすね」


 「黙って食べろ!」


 自分でもそう思ったことをバッツが言うので、八つ当たりだと承知しながらも当たってしまった。ハルは苦笑をしながら食べ始める。


 ――美味い。


 いつも使う宿で、この様に深みのある味は初めてだ。サラダは旨みが凝縮したようなソースがかかっていて、いつもそのまま食べていた生野菜が一層美味しく感じられる。煮込みは大抵塩味だったが、ウンノが使っていた香草の香りがふわっとする。通りがかりのウンノにそう聞くと、「これはブーケガルニってやつですよ。肉の匂い消しにもなるんです」と、ニコニコ笑いながら答えた。

 

 「ウンノ! お代わり!」


 バッツが瞬く間に平らげ、声を上げる。余りの速さにウンノは驚きのあまり目を見開いていたのは一瞬で、すぐににっこりと「はーい! お待ちくださいね」と厨房へ駆けていった。

 あまりに嬉しそうな笑顔を見られたのは嬉しいが、その笑顔の相手がバッツだったので憮然と眺め、食事を続けた。




 昼食時の混雑からは抜けて、テーブルに着く客の姿もまばらになった。

 

 「はー、やっと終わりましたー。すみませんなんか」


 やれやれと、俺達の座っているテーブルに戻ってきたウンノは、大事そうに瓶を抱えていた。


 「いや、丁度剣の研ぎを鍛冶屋に頼むから時間はある。今夜は一泊して、明朝出発をする」


 「わぁー、よかった!」


 「よかった? 何がだ?」


 あからさまにホッとするウンノに聞くと、どうやら午後の仕込みも手伝いたいらしい。非常に面白くない。そもそもウンノは俺の従者役ではなかったのか。

 自分のあまりの狭量さに嫌気が差しつつ、冷静な部分では確かに鍛冶屋に行くのにウンノは特に用は無いんだと気付いていた。ここの親父さんに預け置くのが安心だという事も。


 その時バッツが「こら、お前女っぽい仕草が足りないんだ。そこはな……」とウンノに耳打ちして、「うわー……それ恥ずかしいんですけど!」「馬鹿っ! ただでさえ色気足りないんだから仕草で学べよ」「そうですか……分かりました」と、ちょっと躊躇う仕草をして――。

 

 「隊長、ちょっとこちら向いて立ってください」


 「なんだ?」


 ウンノと向かい合う立ち位置で、これだと俺はウンノを見下ろす高さになる。

 すると、ウンノは胸辺りで指を組み、そっと上目遣いで俺を見上げた。


 「隊長、お願いです」


 「……」


 「ジェネ、お願いです」


 「……っ。分かった、好きにしろ」


 自分の鉄面皮に感謝をする。


 自覚をした途端この攻撃は―――――厳しい。


 アッサリと白旗を揚げた俺に、ハルはバッツとウンノから見えない位置で

 腹を抱えて笑っていた。覚えてろ!

 

 「おー、ウンノこれで一つ覚えたな! 『上目遣いでおねだりポーズ』うちの姉貴が良く『必殺技よ』って言ってたんだよ。これでまた一歩いい女に近づいたな!」


 「はいっ! 先輩ありがとうございます。お色気マスター目指します!」


 あまりに可愛らしくて、怒っていいものか迷ったが、結局「馬鹿な事言ってないで、さっさと行くぞ」と言うに止めた。






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