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 「じゃあひめさま、そのひとと しっかりくっついていてくださいね?」

 

 疾風が最後まで言い終わらない内に、私とジェネの体は重力を無くしたかのように浮いた。

 しかし、安定しなくてフラフラしてしまって怖い!

 

 「ふおっ! こ、こんなにおっかないもんなの?!」

 

 およそ女子らしくない悲鳴をあげ、慌てて思わずジェネに抱きついてしまった。


 「ご、ごめんなさい!! おっと、おわわわわ」


 「ああ、この方が安定するか? ……役得だな」


 というと(最後のセリフは聞こえなかったけど)、ジェネは安定しない私をしっかりと抱えた――――― といいますか。

 むしろ……? これは……?

 抱きしめられてるといっていいポーズですよ!


 「……!!」


 「ほら、しっかり前を見ろ。下は見ない方がいい」


 「はっ、はい! じゃあ行ってちょうだい」


 「はーい、いっきまーす」


 途端、景色が、飛んだ。




*****




 「とうちゃーーーーく! あれっ? ひめさま、どしたのー?」


 「あはっ、あはははは……」


 徒歩で半日は掛かるという距離を、およそ二十分で飛んでしまい、震える膝を押さえながら私は力なく笑うしかなかった。

 ジェネも心なしか顔が青ざめて見える。

 そう、私は小説で見た『空を自在に飛ぶリィン』を真似してみたかったのだ。とても優雅に見えて楽しそうだったら是非やってみようと思ったのだが……。

 

 「良く考えれば不思議な力以外、目に見えて安全って訳じゃないのよね」


 遊園地などでバンジージャンプやフリーフォールを行う場合、命綱というものがある。あれがあるからこそ安心して宙に飛び出せるというものだが、目に見えぬ精霊の力のみを信じて身を任せるというのは心底恐怖を感じた。

 その上、あの速度!

 竜なんてかわいいもんだったよ。

 よっぽどの事が無い限り、これは封印だわ、封印。


 キムロスは、街道沿いにある割と大きな村だった。

 色々な街道が交錯する立地にあり、様々な旅行者が訪れるため、商店が賑わいを見せている。旅の支度を整えたり、宿を取ったり、商人の一団が危険回避の為に傭兵を雇ったり。

 疾風を宝珠に戻し、私達はとある宿屋へと向かった。そこにハルドラーダ達が待っているらしい。


 街中の雑踏を抜け、大通りから一本曲がった所にそれはあった。ジェネは慣れた様子で入り口のドアを開け、私にも入るよう促す。

 奥のほうからでっぷりと太鼓腹なおじさんがジェネを見つけて近寄ってきた。


 「おう! 久しぶりじゃねえか隊長! お連れさんなら上にいるぞ」


 ジェネの背中をバンバンと叩いて陽気に話しかけてきた。


 「すまない、いつも世話になるな」


 「いいってことよ。無事だったらなおさらだ」


 後で下に食べに来いよ、と言い残し再び奥へと戻っていった。ジェネに聞くと、この宿屋の親父さんでよく世話になっているそうだ。一階は食堂兼酒場で、二階が宿屋というここらではごく一般的な造りをしている。

 朝食の時間は終わっているせいか、食堂はまばらであった。そこを横切り、階段を登る。

 廊下にはいくつか扉があったけど、ジェネは真っ直ぐ一番奥の扉へと進んだ。


 「ハル、俺だ」


 ノックをして名乗ると、すぐさまドアが開けられた。


 「若!」


 「だからそれやめろ」


 「よくぞご無事で……」


 ハルドラーダ師匠の目尻には涙が滲んでいた。うをを、美男子の涙とは! 無事の喜びを確かめ合ってるのに無事ではなくなってしまうじゃないか!

 もちろんその目には眼鏡はしておらず、容赦なく色気に当てられた。ここは一つ自衛を……。


 「ウンノじゃないか! どこか怪我してたりしないか? ……なんで目を隠す?」


 「これは現時点における最善の防御です。えーと、私には怪我はありません。逆に、隊長に庇われてしまい怪我をさせてしまいました」

 

 しょんぼりしながら、従者としてありえないですよね……と謝ると、ジェネがポンポンと頭を撫でてくれた。

 

 「それはもういい、忘れろ。ハル、バッツはどこに?」


 「はっ、昨夜こちらの酒場で耳にした噂を確かめに、情報を集めに行っております」


 「そうか、あの場所だな? 私も行こう。ハルとウンノはこの部屋で待機してろ」


 「了解しました」


 


 



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