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side ジェネシズ




 精霊の作った炎で調理を始めた彼女を、壁に凭れながら眺め見る。


 ――――彼女は、精霊姫。


 精霊が実体化して見えるらしく、ウンノが精霊を連れてきたと言った時は動揺を隠すのにとても苦慮した。

俺は精霊使いを何人か知っていたが、彼らが言うには、精霊とは『気配』だと。使役するのに見えずとも事足りるから。高位の精霊使いすら、うっすらと形らしきものが見えるという程度らしいので、ウンノの「精霊の子供達を抱っこ」という荒業には耳を疑った。


 しかも四種の精霊が同時に、自ら契約を望む。

 通常、精霊と契約できるのは一種類だけと言われている。

 性質の異なる精霊同士を住まわせるには、人間の体では持たないからだそうだ。

 つまり、そんな契約が出来る至高の存在は精霊姫ただ一人。

 

 なんて規格外な双子なんだろう。カケルの時も心の底から畏怖の念を抱いたが、ウンノもこのような事態に陥るとは。カケルは知っていたのか? 精霊姫に選ばれることを。―――だから?




 『姫さんのお守り、ちゃんとやれよな!』


 『……さて、どちらに転ぶでしょうか』


 精霊達は俺の事を知っていたようだ。しかし、あるじにはそれについて沈黙をした。

 俺の立場は確かに複雑で、守る立場にいるはずが逆にウンノを窮地に陥れる可能性もある。

 とうに自身では振り切ったはずなのに、今になって重く伸し掛かる気がした。


 その上。


 契約を受けろと言った自分の、何て利己的で浅ましい考えが詰まっていたんだ! と自責の念に駆られる。

 確かに、精霊に選ばれたのならば報いてやれと言ったが、それ以上に。



 ――ウンノとこの世界を繋ぐ枷になってくれたら……。



 異世界の娘。

 いずれは帰る存在。


 しかし、精霊姫となれば多少なりともこの世界に残る可能性があるかもしれない。

 淡く願う気持ちが、契約を受けろという後押しをしてしまった。

 つい半日前に蓋をしたはずの気持ちが、堪えきれず溢れる。


 手当てをしてくれた左腕を撫でながら、ふうっと息を吐き


 「……参った」


 と、ひとりごちて、とうとう自分の感情に理性が降参した。

 自分で認めてしまったら、逆に気が楽になった。


 彼女を守りたい。

 彼女を帰したくない。


 彼女を――俺だけのものにしたい。


 ほんの六日前には、こんなに感情を揺さぶられるだなんて夢にも思わなかった。また、俺に感情という物がまだ存在したという事にも驚く。


 感情とは……豊かで、苦しいものだな。


 

 「お待たせしましたー。食材尽きて調味料も一切無くなっちゃったんで山菜スープ作りました。沢山食べて温まって、明日の朝には元気モリモリで頑張りましょう!」


 にっこり笑って、俺に椀を差し出すウンノ。

 

 ああ、いいな。


 じっと動かない俺に、ウンノは小首を傾げて「あれ?まだ熱あります? ジ……隊長?」と手を伸ばしてまた俺の首筋に当てた。

 少しだけ冷たく感じるその手が、とても柔らかくて気持ちが良い。

 そっとウンノの手の上から俺の手を重ねた。

 びくり、と手を引きそうになる手を逃がさないように握り、ある願いを口にした。


 「二人だけの時は、ジェネと呼んで欲しい。毎回間違えてるのには気付いているんだ」 


 すると、ウンノはみるみる顔を赤くして「うわー、ばれてましたか」と首を竦めた。

 俺は、イル・メル・ジーンの弟という設定から、そう呼んでも周りから不審には思われないというと安心したかのように「……ジェネ?」と頬を朱に染めてこちらを見ながら呟く。


 ――っ! 今すぐ、抱きしめたい。


 気持ちを把握してしまったら、今度は衝動を抑えるのに苦労しそうだ。

 


 彼女にとって、俺の存在がこの世界に留まらせる理由になってくれる事を願う。

 





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