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「まずね、この世界の名前ってディスカバラントって言うんだけど……」
そっと囁くように切り出した翔に、私はもう気づいてしまった。
間違いなく、あの世界だ。
あの世界的にもよく知られた、有名なファンタジー小説。色々な作家がアンソ……以下略。
私の表情を読み取ったのか、翔はそのまま続けた。
「なんとなんと、異世界トリップ物、実現しちゃいました~!」
パンパカパーン! とファンファーレがどこからか場違いな幻聴が聞こえてくる気がする……
満面の笑みを浮かべ両手を広げる翔と対照的に、私は口をポカンと開けていた。
「ちょっ……? な……!」
あまりの出来事で理解が追い付かず、一旦固まっていた思考が徐々に動き出すと、私は立ち上がり翔の頭に拳骨を食らわせた。
「いだーーーーー!! なにすんだねーちゃん!」
「あんたのノーテンキな顔見たら一発殴らずに気が済むもんか!」
「横暴だー! 可愛い弟に鉄拳なんてー!」
「うるさいうるさい! 甘んじて受けろ!」
実際、気持ちの処理として八つ当たりせずにいられないのだ。
この状況、すんなり受け入れろって方が無理でしょ!
「と……とにかくちゃんと詳しく話すから、座り直そう? それにまだ目が回るんじゃないの?」
涙目になりながら頭をさする姿は、とても同じ二十三歳と思えない。子供か!
怒りのあまり立ち上がったが、確かにまだふらつくので、再びベッドでひざを抱えて座る。
「とにかく状況を説明するよ」
翔は、頭をさすって痛いアピールをしながら話し始めた。
「まず、今ここにいる国の名前は『ラスメリナ』というんだ。聞いたこと、あるよね?」
「ラスメリナ、ラスメリナ……うーんと、『剣と竜の騎士団物語』の舞台?」
その国がメインで、読んだことのある小説の名前をあげてみたら、翔はコクリと頷き先を続ける。
「そう、その本であってる。剣と竜の騎士団物語の場所なんだよー。まさしくファンタジーの世界! この国では剣で身を立てるのが一般的で、なんと秘境には竜もいるんだよー」
うわっ! でた、非・日・常!!
剣だの竜だのなんて余計ありえないでしょう!
本を読んでいたお陰で大体の事情は察せたけれども、細かい情報までは朧気だ。ざっくりとした大筋は、竜騎士団を立ち上げるための苦労話だったかな?
「ちょっと確認させてもらっていい? あの物語での生活様式って……もしかして、まんま同じなの?」
女子ですもの、気になりますよ。
服とか、食事とか、お風呂とか、トイレとか、トイレとか、トイレとか……!
「実際ね、中世ヨーロッパ風? くらいの認識でいれば良いと思う。っていうかさ、僕が思うにあの時代の人たちが割と行き来してたみたいで、どっちかの様式に真似たり真似されたりだったみたいよ? まっ、そんな時代の事なんか知らないから、女子的な生活に関しての指導してくれる人は用意させるね~」
「させるねって……そういや翔、なんであんたここにいるの?」
そもそも、なんで弟がここにいるのか。
すると、なんでもないような口ぶりでサラッととんでもない事を言った。
「あ、僕いまここで王様やってるんだよね~」