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「精霊……姫?」
人間違いじゃないのかな? 私そんな能力なんてカケラも持ってそうもないんだけど。
そう思ったことを言ったら「とんでもない!」真面目な顔で返された。
「まず、私達をはっきりと視えてますよね? 普通の人間ならば私達は目に映ることはありえません。それが証拠となります。あと……私達、実はラスメリナの王城にも行っています」
「そーそー、俺様も行ったぞ。流石に国超えると姿が保てなくて気配だけになっちまうけどな」
「ぼく、ひめさまのおしり、なでちゃったー」
「なっ! てめぇ俺様が知らない内に何やってんだよ!」
「かわいいおしりー」
「―――――!!」
お尻って……お尻って……思い出すのはあのトイレ!
入るたびに、お尻の辺りがスースーとしたのはそのせいか!
「ってことは、あなた風の精霊?」
「うん! ぼくねえ、ひめさまおこったときも、いっしょにおこったの」
相変わらず抱っこのままで、じっと潤んだ瞳で私を見上げる。うぅ、かわいい!
「怒った時……あ! サーラが調理台に乗ったときだ。あの時傍にいたの?」
「はい、私達も怒りに同調しました」
「姫さんの感情に引っ張られやすいからな、俺達は」
この子達が精霊というのは本当なのかも? ってかあの物語で精霊達は見目も麗しい成人男性の姿をしていたような。目の前の子供達はどう見ても五歳児。
「前の精霊姫……リィンだったわよね。その時の姿とは違うみたいけど、どうしてなの?」
「さすが後継者の姫君だけあられる! よくご存知ですね。確かにリィン様の時は人間の男性を模してましたが、あの騎士が嫉妬しまして……この様な姿を所望されたのです」
「あー……なるほど」
恋愛要素が強かったもんね、あの物語。あの通りのままなら、確かに嫉妬しちゃうだろうなー。美しい男達が六人も、愛する姫の周りを囲んでるんだもんね。
よろしかったら、元の姿に変えますが? といわれたけど、丁重にお断りした。私の心臓持ちませんよ、きっと。
「ねーひめさま! ぼくたちのなまえ、きめて?」
―――――きた!
こういう流れになるだろうという予測はしていた。物語の序盤に、精霊と契約するシーンがあったのだ。契約すると、その精霊は私の僕となり、主の意の向くまま使役できるのだ。
いやいや、ほら私別に精霊姫なんて器じゃないし?
それに姫なんてやってる場合じゃないし?
大体私なんかと契約しちゃったらかわいそうだよ。
暫く考えた私だけど、よし! と立ち上がった。
「ひめさま、きまった?」
「ううん、ちょっと隊長と相談させて欲しいの」
「あぁ? あいつに?」
「そう。大事な事だから」
「まあ、いいけどよ。俺達は姫さんから離れるつもりはねえぞ」
私は風の精霊を抱っこしたまま洞穴に戻り、後の三人は付いてきた。
「ジェネ……隊長、起きてますか?」
先程の場所に戻ると、ジェネは上体を起こしてハーブティーを飲んでいる所だった。
「ああ。見つかったのか?」
「はい、この子達なんですけど……」
そういって、私は抱っこした風の子をジェネによく見えるように近づけたけど、ジェネの視線はちっともこの子を捉えなかった。
「この子、達……? 私には見えないが」
「え? どうしてですかね? ここにちゃんと四人いるんですけど」
すると青の子が私の服をツンツンと引っ張って
「姫君。私達は姫君にしか見えないんですよ。これが精霊姫たる所以です。姫君の許可さえあれば私達は普通の人間に可視化できるのですが」
と言った。
「どうやら、この四人の子供達は精霊らしいんです……そして、契約を迫られました」
端的に伝えると、ジェネは驚きの感情を瞳に移しながらも、眉を顰め顎に手をやった。
「精霊がいるんだな? そして、精霊自ら契約を申し出るということは……」
ジェネは深い海の色の双眸を閉じてじっと考えてたようだが、軽く息をついて開かれるその目は、僅かに自嘲めいた物が一瞬浮かんで消えた。
「お受けなさい。あなたは精霊姫に選ばれたんでしょう?」