表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/137




 わさっと茂ったハーブの山。

 ……生えてるのは嬉しいんだけど、怪しすぎて近づけない。

 あまりの事に目が点になっていたら、茂みの影から囁き声が聞こえた。



 「……おい、俺が言った通りになっただろうが! てめーがこんないっぺんに出すから姫さんビビってんじゃねーかよ!」


 「だって、ひめさまのいうこと、かなえてあげたいんだもん!」


 「まあまあ落ち着いて! 先にご挨拶しましょうと申し上げたのを忘れたんですか?」


 「だから、それは後でだなぁ!」


 「後で? ならば今でも構わないじゃないですか。では私が先にご挨拶をば」


 「えー! ぼくがいくぅ!」


 「ちょ……うるせぇ! 俺が先に行くぞ!」



 「「どうぞどうぞ」」


 「!」


 


 ――驚いた。


 いや、揉めてるのはともかく、こんな所でこんな芸風が見られるとは。


 そこには、四人(?)の子供がいた。一人は口が悪くて真っ赤な髪をした子。一人は青い髪をして冷静に話をする子。一人は黄色の髪をして、他の子より一回り小さく可愛らしい子。一人は緑の髪をして、ずっと黙っていた子。


 一体この四人て何者だろう?


 どうぞどうぞと進められた赤い髪の子は「てめふざけんじゃねえよ!」と怒り出し、黄色の髪の子が「もー! じゃあぼくがいくもん!」青の髪の子が「やはりここは私がひとつ」緑の髪の子は「……」。私がじっと見ているのも気付かず、ワイワイと揉めて、収拾が付かないようだった。


 「……」


 私は生えたハーブをこっそり収穫して、静かに洞穴に戻った。

 うん、見なかったことにしよう!



*****



 ジェネシズは寝入っていたようで、ほのかに赤らんだ頬が熱が高い事を窺わせる。汗ばんだ額に前髪がへばりつくのが妙に色気を感じた。先程の見事な上半身を思い出してしまい、思わず頬を「煩悩退散!」とペチペチ叩いて振り払った。


 火を起こし、湯が湧く間に卵の殻を取り出した。すこし水に浸した後内側に張り付く薄い皮を剥がす。この膜が傷にとてもいいのだ。

 それをジェネシズの腕の傷に貼り付け、よく揉んだヤロウを膜の上にのせ、再び布で巻いた。

 このヤロウというハーブは、止血、殺菌、解熱、健胃の作用がある。

 お湯が沸いたので、ポットに半分入れて残りのお湯の中にはペパーミントを入れて煮出す。

 ポットの中には、エキナセア、カモミール、レモングラスを入れてティーにする。これは体を温める効果がある。

 ペパーミントの湯はよく冷まし、手ぬぐいをつけて額や首筋に当てた。すうっとした清涼感が気持ちがいいだろうと思って。

 そして、コンフリーの葉はよく揉んで、痛めた肩に貼り付ける。腫れに利く効能があるから。


 ――貧乏性から覚えた知識が、こう役に立つとはね。


 当時は、「やったー、これで○円浮いたー」としか思えなかったけど。

 起こすのも悪いなと思ってジェネシズの傍に座り、眺めた。


 うん……いい男だわー。

 よくまあ翔と知り合えたもんね。そういえば、この人自身の事あまり聞いてない……。翔も本人に聞いて? って言ってたし。ジェネのフルネームも聞いてなかったわ。他に人がいないし、聞くならこの時を置いてないでしょうね。

 レーン国の近衛騎士団第七番隊の隊長って。近衛騎士団に入るのはかなりのエリートってことよね? 貴族出身でないと入れなかったらしいし。


 今はどうなのか知らないけど、かなりの実力の持ち主なのは、その鍛え上げられた筋肉と体に刻む傷跡から読めた。


 あー! また思い出しちゃったじゃない、どうなのよこれって!


 早く拭かなきゃと、じっくり見た訳ではないのに、脳裏にどうしても素晴らしい上半身が浮かんでくる。

 これではまるで変態だ!

 くるりと顔を反対に向けると、外の方から騒がしい声が聞こえてきた。


 「駄目ですよ! それは絶対お止めなさい!」


 「こら! てめー待て!! 洒落になんねえぞ!」


 バタバタした足音を立てて、四人が走りこんできた。


 先頭は黄色の子で、手に何か握り込んでいる。その後ろを、赤、青、緑が追いかけていた。

 私を目が合った黄色の子は、パッと顔を輝かせ


 「ひめさまーーー! これたべてーーーーー!」


 と、両手を差し出した。


 「おいコラ待てバカ!!」


 「あー……間に合いませんでした……」


 後ろで何か言ってた様だけど、私の耳には入ってこなかった。

 目の前の、黄色の子の手に握られたものを見てしまったから。





 ―――――イモムシ。それも両手一杯。




 「……っ!!」




 目の前が真っ白になり、倒れた。


 こうして私は、人生二度目の気絶をした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ