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わさっと茂ったハーブの山。
……生えてるのは嬉しいんだけど、怪しすぎて近づけない。
あまりの事に目が点になっていたら、茂みの影から囁き声が聞こえた。
「……おい、俺が言った通りになっただろうが! てめーがこんないっぺんに出すから姫さんビビってんじゃねーかよ!」
「だって、ひめさまのいうこと、かなえてあげたいんだもん!」
「まあまあ落ち着いて! 先にご挨拶しましょうと申し上げたのを忘れたんですか?」
「だから、それは後でだなぁ!」
「後で? ならば今でも構わないじゃないですか。では私が先にご挨拶をば」
「えー! ぼくがいくぅ!」
「ちょ……うるせぇ! 俺が先に行くぞ!」
「「どうぞどうぞ」」
「!」
――驚いた。
いや、揉めてるのはともかく、こんな所でこんな芸風が見られるとは。
そこには、四人(?)の子供がいた。一人は口が悪くて真っ赤な髪をした子。一人は青い髪をして冷静に話をする子。一人は黄色の髪をして、他の子より一回り小さく可愛らしい子。一人は緑の髪をして、ずっと黙っていた子。
一体この四人て何者だろう?
どうぞどうぞと進められた赤い髪の子は「てめふざけんじゃねえよ!」と怒り出し、黄色の髪の子が「もー! じゃあぼくがいくもん!」青の髪の子が「やはりここは私がひとつ」緑の髪の子は「……」。私がじっと見ているのも気付かず、ワイワイと揉めて、収拾が付かないようだった。
「……」
私は生えたハーブをこっそり収穫して、静かに洞穴に戻った。
うん、見なかったことにしよう!
*****
ジェネシズは寝入っていたようで、ほのかに赤らんだ頬が熱が高い事を窺わせる。汗ばんだ額に前髪がへばりつくのが妙に色気を感じた。先程の見事な上半身を思い出してしまい、思わず頬を「煩悩退散!」とペチペチ叩いて振り払った。
火を起こし、湯が湧く間に卵の殻を取り出した。すこし水に浸した後内側に張り付く薄い皮を剥がす。この膜が傷にとてもいいのだ。
それをジェネシズの腕の傷に貼り付け、よく揉んだヤロウを膜の上にのせ、再び布で巻いた。
このヤロウというハーブは、止血、殺菌、解熱、健胃の作用がある。
お湯が沸いたので、ポットに半分入れて残りのお湯の中にはペパーミントを入れて煮出す。
ポットの中には、エキナセア、カモミール、レモングラスを入れてティーにする。これは体を温める効果がある。
ペパーミントの湯はよく冷まし、手ぬぐいをつけて額や首筋に当てた。すうっとした清涼感が気持ちがいいだろうと思って。
そして、コンフリーの葉はよく揉んで、痛めた肩に貼り付ける。腫れに利く効能があるから。
――貧乏性から覚えた知識が、こう役に立つとはね。
当時は、「やったー、これで○円浮いたー」としか思えなかったけど。
起こすのも悪いなと思ってジェネシズの傍に座り、眺めた。
うん……いい男だわー。
よくまあ翔と知り合えたもんね。そういえば、この人自身の事あまり聞いてない……。翔も本人に聞いて? って言ってたし。ジェネのフルネームも聞いてなかったわ。他に人がいないし、聞くならこの時を置いてないでしょうね。
レーン国の近衛騎士団第七番隊の隊長って。近衛騎士団に入るのはかなりのエリートってことよね? 貴族出身でないと入れなかったらしいし。
今はどうなのか知らないけど、かなりの実力の持ち主なのは、その鍛え上げられた筋肉と体に刻む傷跡から読めた。
あー! また思い出しちゃったじゃない、どうなのよこれって!
早く拭かなきゃと、じっくり見た訳ではないのに、脳裏にどうしても素晴らしい上半身が浮かんでくる。
これではまるで変態だ!
くるりと顔を反対に向けると、外の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「駄目ですよ! それは絶対お止めなさい!」
「こら! てめー待て!! 洒落になんねえぞ!」
バタバタした足音を立てて、四人が走りこんできた。
先頭は黄色の子で、手に何か握り込んでいる。その後ろを、赤、青、緑が追いかけていた。
私を目が合った黄色の子は、パッと顔を輝かせ
「ひめさまーーー! これたべてーーーーー!」
と、両手を差し出した。
「おいコラ待てバカ!!」
「あー……間に合いませんでした……」
後ろで何か言ってた様だけど、私の耳には入ってこなかった。
目の前の、黄色の子の手に握られたものを見てしまったから。
―――――イモムシ。それも両手一杯。
「……っ!!」
目の前が真っ白になり、倒れた。
こうして私は、人生二度目の気絶をした。