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1 変化




 しとしと雨の音がする。


 ゆっくりと浮上する意識。



 ――あの貰ったアレってどうしたんだっけ。



 ぼやっとした頭で、夢の続きを追った。そうだ……あの場所に?



 「ウンノ?」


 「ひゃっ!」


 急に耳元で艶っぽい声がしたのと、アレの行方を考えていた為飛び上がらんばかりに驚いた。

 えっと、ここは??

 寝ていた体をよいしょと起こすと、辺りは暗くて土の匂いが充満していた。雨音のする方を見れば、明るくぽっかりと丸く線を描く外が見えた。形状からいって洞窟か巣穴か? 寝かされてた敷布代わりの外套と、もう一枚私に掛けられていたのは隊長のかな。


 「隊長……あの私、どうしたんですか?」


 いよいよレーンの国へ入るという緊張の中、国境へ足を踏み入れた所までは覚えてる。そこから記憶は途絶えたまま今に至る。


 「ウンノは国境越えた途端気を失ったのだ。抱えて移動途中雨が降った為、雨宿りが出来る場所を探していたら土石流に遭い、あの二人とは別行動となった」

 

 短い説明を言うと、ジェネシズは「体の調子はどうだ?」と聞くので「全く異常ありません」と腕をグルグル回して元気アピールした。すると緊張が解けたのか、ほっと息をついて……。


 「そうか……。ウンノすまない、暫く休む」


 言うなり、ジェネシズは壁を背にしてもたれた。


 「え、隊長? どうしたんですか!」


 よく見たら、辛さを堪えるかのように眉を寄せ、顔色も悪い。

 どうしたのかと手を触ってみたら、熱い!


 「隊長! 熱があるじゃないですか!」


 今まで寝ていた場所を空け、寝るように促すと、倒れこむようにジェネシズは横になった。体を支えた時に触れた服は、水が滴る程に濡れていた。

 

 私を濡らさない様にしてくれたの……?


 とにかく、今出来ることをしよう。幸い荷物は濡れていない。この袋は獣脂で塗り固められている為に水分を通さず、旅行者には欠かせない物だ。

 ジェネの服を取り出し、着替えを手伝う。濡れたままでは体温を奪われる一方だから。

 上着を脱ぐときに「……くっ!」と声を漏らした。左肩を見たら、腫れて熱を持っている。

 

 「ここの腫れ……どうしたんですか?」


 「少し外しただけで、戻っている。問題ない」


 簡潔に答えただけで、黙ってしまった。


 多分この人は、私を守った(・・・)んだ。


 私はただ寝入っていただけなのに! カケルとの約束の為に私を……!

 グッと下唇を噛むと、乾いた布でジェネの体を拭く。

 見事な厚い胸板に、腹筋。広く逞しい肩幅。無駄な脂肪は一切付いていない。しかし、所々酷く傷痕が引き攣れて付いており、戦いに長く属している事を雄弁に物語っている。

 そして、新しい傷も付いていた。打撲の痕や、特にひどいのは左腕の切り傷だった。止血してある為、血は止まっていたが、酷い事には変わりない。

 

 周りを丁寧に拭い、乾いた服を着せ。

 流石に下半身は断られた。辛そうだから手伝いたいけどお互いの為に、止めた。

 黙って後ろを向いて、ゆっくり着脱してるであろう時間を使って、私に出来ることを考えた。


 ――まずは傷の治療と、解熱と、腫れを抑えることよね。


 頭の中でどれが効くか組み合わせを考え、そういえば! と思い出した。携帯のデータフォルダに写真を沢山撮ってあることを。

 珍しい形、見間違いやすい物などは忘れやすいので、撮影してフォルダに保存してあるのだ。

 袋から携帯を取り出した。良かった! まだバッテリーがもってる。

 調べるのは、エキナセア、コンフリー。

 どちらも私の住む所では余り見かけないものなので、形状を覚える為に写真を撮っておいたのだ。

 あとは、ペパーミントとカモミール、レモングラス。ヤロウもあるといいな。


 衣擦れの音が止んだので、振り返ろうと地面を触ったとき、何か変だなと気付く。

 地面が温かいのだ。

 あれ? 地熱でも上がってきてるんだろうか?

 だとしたら、体温を下げずに丁度いい場所ではないか。


 「隊長、すみません少し外に出ますね。すぐ戻りますから!」


 そう言って外に出ると、丁度雨が止んだ所だった。さっきまで割と降っていたのにね? 変だなあ。

 まあいっか、と周辺の草むらへと足を運ぶ。


 しかし、そうそう見つかるものでもない。なにより雑草すら余り生えていないのだ。これも王座の影響か。


 「うーん……エキナセアとペパーミントだけでも欲しいんだけどなあ」


 ぼそりと呟き、もう少し先の茂みへ行こうとしたら――あった。

 いきなりそこから生え出したんじゃ? と思うくらい、唐突に二つともあった。

 んな訳ないじゃん、と思いつつ。 


 「……コンフリーとカモミールとレモングラスとヤロウも、あると助かるなあ」


 目を瞑って一気に呟き、そおっと開くと。



 ―――――生えた。





 流石の私も、これは変だと気付くよ……。






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