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1 翔子の心




 たゆたう意識の中。



 夢を、渡り歩く。



******



 「ねえ、おとうさんって、どこにいるの?」


 二人きりで遊んでいたある日の夕方。

 ついに、その質問がきた。

 いつか聞かれるだろうな、と思っていたので案外スルッと言えたんじゃなかったかな。

 「かける、わたしたちのおとうさんは、とおいくにいるんだって。ものっすごくとおくて、めったにかえれないからしょうがないよ」


 自分に言い聞かせるように弟の目を見ながら言った。




 私と弟は、双子の姉弟。

 数十分差と大して変わらないのに、どちらかが上か下かに決まるんだからおかしなもんだ。

 私は女の子でも早熟な方で、五歳にして充分今の状況を理解していた。

 お父さんは、いない。

 お母さんは、あたし達を食べさせるために働いている。

 親戚はどうもいないらしい。


 母子家庭ということもあり、安アパートでつつましく暮らしている

 私達家族に、割と好奇な目を向けられることも多々あり。

 お母さんが朝から晩まで働き通しでなかなか家に帰ってこれず私は弟と二人きりで一日中過ごしていた。

 近くの公園へ行けば


 「あらあら、子供だけで危ないわよー。お母さんは? え? 働いている? 保育園には入らないの? 幼稚園も? どうして? 弟君も行きたいよねー。ひょっとして、高給取りなのかしら? 園に入れないのは節約だったりしてー。お給料、幾ら貰ってるか知らない?」


 保育園だか幼稚園だか、なぜ入れなかったのか私には良く分からなかったんだけど、とにかく事情があったらしい。


 でも、あなたに細かく教える必要何一つないんですけど?

 そんな時には要領の言い弟が役立った。


 「おばちゃーん! ちょっと、これみてよ! でーーーっかいへびー!」


 木の棒の先っちょにだらりと垂れ下がった蛇を、おばちゃんの目の前に差し出した。

 おばちゃんはぎゃあ!と言って足をもつれさせながら逃げていった。



 ぐっじょぶ、おとうとよ。



 何をするにも二人で行動していた。

 生活用品から毎日の食べ物の調達までこなしていた。母親がメモした物を買いに。流石に調理までは出来なかったが、レンジは使える。母親がフリージングしてくれてあった野菜などを、レトルトカレーに入れて食べたり。レンジがあれば大抵の用は足りた。


 「お姉ちゃんはしっかりしてるね!」


 「お姉ちゃんだから、弟の面倒みないとね!」


 「お姉ちゃんは弟の見本だよ」


 お店の人などはこういって私に声をかけるけど、正直苦痛だった。

 なによ! たかが数十分差なのに、先に生まれたからと言ってここまで責任負わすか!

 怒鳴りたくて喚きたくて、じたばたしたくて仕方なかったけど、やっぱり出来なかった。


 おねーちゃんだから……。


 弟は、ねーちゃんねーちゃん! と、にっこにっこしながら寄ってくる。

 お調子者で、おしゃべりで、要領良くて。悪戯もひどいけど、こいつはタイミングを分かっている。


 買い物さえ終えれば、あたしは自然と自宅に篭るようになった。面倒な会話もいらないし、なにより自宅には本が沢山置いてあり、それは植物図鑑だったり、絵本だったり、小説だったり。

 お母さんが集めていて、あたしと弟はそれを読んで一日を過ごす。

 不思議なことに、それらの本は同じ国を舞台にしていた。作家名はさまざまだったけど、国の名前、地域、通貨、生活用品などすべてが共通で、物語の主人公が違うだけだった。


 七歳になる年、私と弟は小学校に入学した。


 「コセキガデキタからね」


 と母親は満面の笑顔で言い、私には意味は分からなかったけどとにかく「学校」に行けるのがとてもうれしかった。

 同世代の友達! 憧れのランドセル!

 ピカピカのランドセルを背負って、弟と二人手をつないで学校へ通うようになった。

 そして、その頃から母親は「コセキガデキタ」お陰でもっと安定した職場に付くことになった。


 「コセキガデキタ」万歳!


 収入も上がり生活費は潤いを見せたが、また貧乏な生活に戻る事が怖くて安心して使えない。出張で月の半分以上は家を空ける様になった母親には黙って、翔と二人だけの時はより一層質素な生活をした。図鑑で勉強した「やりくり上手の冷蔵庫」「食べられる野草!」「ハーブの効能100」が非常に役立ち、ちょっと離れているけど山に収穫をしにいったりもした。


 お金を使うのが、怖い。


 私がしっかりしなければ! 私が支えなければ!




 ――母親と弟を、守りたい。






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