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side ジェネシズ

痛い話、戦闘シーンがあります。苦手な方は注意してください。




 「いくぞ」


 右手より打ち下ろされる剣を、体を低くした姿勢でかいくぐり、鞘から抜きつつ胴を払う。一人。

 そこで踏み込んだ足で前方に跳躍する。今いた場所に剣が突かれたところだった。振り返りながら短剣を、突いた男に投げつける。二人。

 投げた瞬間次の対象へと体を向け、下段から斜め上へと切りつけた。三人。

 

 ここまで一息に終え、他の状況を見てやると、ハルは四人片付けた所だった。新たに五人目と交戦中で、バッツは、一人と打ち合いをしていた。試合ではなく、本物の命が掛かっている為にどうしても本気が出せないようだ。

 一対一の稽古では打ち合いもいいが、実践では一撃必殺がものを言う。その上、一人ずつ掛かってくるなどまずない。

 

 「畜生! よくも俺の仲間を!」


 野盗の纏め役らしき最初に声を掛けてきた男が切り込んだ為軽く剣で受け止めると、視界の端で不意にバッツがよろめき、相手をしていた男に剣を弾き飛ばされた。

 

 飛ばされた先は、――ウンノ!


 思うより先に動いていた。


 剣を持つ右手はそのままに、左手で飛んできた剣を打ち払う。


 「くっ!」


 腕を傷つけたが、構わずに右手に握る剣で止めていた相手を蹴り飛ばし、突く。これで四人。


 ハルは五人目を倒した後、バッツと交戦していた者も倒し、辺りは雨音だけの静けさを取り戻した。



 「た、隊長! すみません、俺……」


 「いい、今は。それよりも雨を凌げる所を探せ」


 短剣を回収して、剣についた脂肪と血糊を切り倒した人の服で拭い、鞘に納めた。

 ウンノが気を失っていて良かったと思うのは、この戦闘を見せずに済んだことか。ウンノやカケルの世界はとても平和だと聞く。ウンノには血生臭い思いをさせたくなかった。

 十人のならず者達の死体が転がり、血溜まりが雨水と混ざり一帯にじわりと広がる。


 ハルとバッツが探す間に、俺は左腕の傷の手当てをした。思ったより深いが、この位の傷ならば問題ないと判断し、傷口に強く布を巻き血止めをする。


 ウンノのいる茂みに行くと、そこはさほど雨の影響を受けず濡れずに済んでいた。俺は自分の外套が濡れている為、裏返して身につけ、ウンノを背負う。

 自分の外套とウンノの外套で挟んで雨から彼女を守らなければ、意識の無い者には体温を奪う最悪の状況だ。

 雨は先程よりも酷く降ってきた。剥き出しの肌に当たる雨粒は大きくて、冷たい。


 先を行くハルとバッツに追いつく為歩き出す。

 めいいっぱい降り注ぐ雨粒の為に視界は悪く、足元も滑り易いがしっかりと踏みしめて雨を凌げる場所を捜し求めた。


 ――その時。


 一瞬の光と共に轟音が響き渡る。落雷か!


 ドォン! と重い音がすぐ近くで聞こえ、そちらを見やると、大人四人で手を繋がぬと回せない程の大木が火の手を上げながら倒れる所だった。


 轟音と共に地へと叩きつけられた大木に刺激されたのか、土砂が滑り始める。


 「隊長!」


 「隊長、こちらに!」


 俺とハル達の間に、それが起こる。


 「ハル! バッツを連れて例の場所に待機!」


 「はっ!」


 それだけで通じた。あいつは聡いので俺の考えを理解しただろう。

 とにかく、この場を急いで抜けなければならない。下におりるではなく、横へと。しっかりとウンノを抱えなおし、走る。

 しかしどうやらこちらの方に向かっている――土石流が!

 大量の土砂が、恐ろしい勢いでなだれ込んでくる。後一息の所で間に合わない! 俺はウンノを包み込むよう胸元に抱えなおし、衝撃に備える。


 土砂が足を攫い、木片が打ちつけ、石が飛ぶ。岩が転がり、俺の左肩を直撃した。

 

 「ぐ……っ」


 意識を手放しそうになる。目の前がチカチカと瞬いた。しかし傷つける訳に行かない大事な預かり人を守る為、あえて痛みに集中した。

 はずした……か?

 骨折はしていないだろう。経験から痛みの種類を振り分ける。



 ようやく、滑落が止まった。

 そのまま崖に転落などなく、大木が林立する為いくらか勢いが弱まったのが不幸中の幸いというべきか。

 そっと己が抱えていたウンノを見ると、こんな状況も露知らずほんわりと笑顔で寝ていた。


 ――全く、どうかしてる。


 ウンノに対してではなく、自分に対して呆れた。

 どうして笑顔を見ただけで胸が疼くんだろう、と。

 きっと危機的状況を脱して安心したからだろうと結論づけて、立ち上がる。方々傷んだが動けぬほどではなさそうだ。

 手近な木に抜けた肩を押し付け「フッ」と気合を入れ、はめなおした。

 痛むもののひとまず動けるようになった事に安堵した俺は、再びウンノを背負って雨を凌げる場所を探す為、歩き出した。





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