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正直なところ、もっと登山とは辛くてきつくて大変なものだと思っていた。
学生時代の課外活動である登山は、マラソン大会と並んで嫌な行事のツートップだ。つい欲張って食材やら鍋やらも背負った重い荷物も登る際の枷になるという程でもなく、むしろ登山というよりハイキング気分でスイスイと登れた。
私って実は体力すごいあったのかも? と勘違いしてしまう程だ。登りながらハーブを採ったりする余裕もある。食事の度に、調理をして片付けして。でも何故か元気。
ほか三人は流石に騎士団に所属しているだけあり並みの筋力ではないが、バッツは経験不足も手伝って、へばりつつあった。
流石になにか変だなあと思う登山三日目の朝。
山頂付近で一晩寝たあと、山頂に着き、そのまま国境を越えてレーンの首都に向かい下山する予定。
標高の高い山ならではのひんやりとした空気が心地よい。食後のお茶として、ペパーミントとレモンバームのハーブティーを淹れた。いつもの様にぐいっと一気に飲んで、手早く片付けを終える。
「ちょっとトイレ行って来まーす!」
元気良く言い、済まして帰ってきたらまたもバッツから指導が入る。
「トイレってそんな遠くまで行かなくてもいいんじゃね? 元気良くトイレって言う割にそこは恥らうんだな~」
「え、えっと……すみません! お腹ゆるい体質なんです!!」
――あああーー! もうっ!!
女の立場で、男の従者になり済まし、女になりたい男の演技して、その上お腹がゆるいって!!
どんどん複雑な設定になる自分に眩暈がする。
後半二つは明らかに自分が言い出したことなんだけどね。
「そうか……大変なんだなお前って」
うわーん! そんな同情的な目で見ないでぇぇぇ。
「山登りながら段差を踏ん張るとき出たりしねぇ?」「屁かと思ったら実だったりとか?」
そんなこと乙女に聞くなぁぁぁ!
返答しにくいことは、接客業で身についた「曖昧な笑顔」で乗り切った。