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*ジェネシズ視点



 ようやくバッツが寝て、静かになる。

 野宿は初めてだと言っていた割に、ウンノもアッサリと眠りに落ちた。相当疲れていた様だ。

 バッツはああ見えて年下の世話を焼くのが好きだから、ウンノの「女になりたい十六歳の男」に同情したんだろう。あれこれと「女ならこういう仕草をするんだ!」「つーか目がキツいから、化粧して目を加工したらどうだ?」と語っていた。

 「早く寝ろ!」と一喝してやっと黙ったが。


 しかし。

 本当のウンノを十八歳のあいつが知ったら驚くだろう。

 十六歳でなく二十三歳の女性であり、ラスメリナ王の姉であり、異世界からやってきた……と。

 その様子を想像して、知らず頬が緩んだ。


 

 「若……ウンノは娘ですよね? どういう経緯で同行することになったのですか」


 「ハル、それいい加減止めろ。――ウンノは俺の大事な友人から預かる人だ。それとなく守れ」

 

 ハルドラーダは俺の十歳上の乳兄弟で、生まれたときからずっと傍にいた為に、嘘は通用しない。最初に紹介した時すぐに疑問を引っ込めたのも、俺の黙っていろという意思を読んだからだ。

 今、娘という言葉に俺は否定をしなかったので認めたも同然となる。

 大きく息を一ついたハルは、「それでしたら」と言葉を続ける。


 「従者には従者の立場というものがあります。隊長としての態度を崩されませんように」


 「――私を使ってくれと、ウンノに言われた」


 つい先ほど、小声で言われたことを思い返した。

 その時、俺は自ら線を引いていたくせに、ウンノの方からも「線を引かれた」と感じた。それでいいはずなのになにか面白くないという感情が、落ちない染みの様に心に広がった。

 

 「そうですか。彼女自身はきちんと立場を分かっているようですね。それならば私はもう言うことはありません。隊長の心次第です」


 ニヤリと目が愉快そうに笑う。

 

 「イル・メル・ジーンの妹……何番目の妹ですか? 私は公式の二十八人しか覚えてませんが地方の子でしょうか? 今更驚きませんがね。あいつの妹じゃなかったら喰ったのに、残念だな――では私は先に寝ます。交代の時起こしてください」


 言うだけ言って、ゴロリと寝てしまった。ほどなくして、規則正しい寝息が聞こえる。

 寝られる時に寝られるようにならねば、戦士として使い物にならないため、眠りに落ちるのも早い。


 ハルは、小さい頃から美形だ。

 十歳の頃から俺に仕えていて、俺は見慣れているが、初めて会う人間は大抵腰が抜ける。または、気絶だ。声を掛けようにも、濃密な色気の為に近づけないらしい。

 ――が。

 ハルは根っからの女好きで、自ら誘いよく遊んでいるらしい。たまに男もというのだから、節操がないと思ってしまう。俺は女が苦手だから、ハルは器用なものだと感心する。

 あの眼鏡はイル・メル・ジーンからの贈り物だ。

 

 『ハルは何人の人間を駄目にする気? これでも使え、色魔め」


 あいつなりの優しさだろうが、かける言葉は優しくない。


 

 弱くなった焚火に薪を足しながら、炎の揺らめく明かりに照らされたウンノを見る。

 女は苦手だ。

 依存してくる。ドレスか美容の話が延々尽きず、誹謗中傷の話も多くてうんざりする。白粉を叩いた顔に、キツい香水のニオイも嫌いだ。


 しかし――ウンノは違った。


 化粧しなくても整った顔をしていて、猫の目に似た瞳は興味を引かれた物を映す度よく表情を変えた。

 ウンノの傍は爽やかな芳香がふわりと感じる。なんの匂いだろうと聞くと「虫除けのハーブオイルを付けてるんです」といつも持ち歩いているという小瓶を見せてくれた。


 「シトロネラ・レモングラス・ラベンダーを調合してあるんですよ」


 ウンノは虫が苦手だといい、それを避ける為の知識も持っていた。


 カケルが言っていたように、ウンノは人に甘えない。竜の背に乗る時は流石に俺から手を貸したが、風が冷たくても文句を言わず、野宿をすると言っても「虫さえいなければ大丈夫です」と虫の心配しかしない。おまけに「私を使ってください」と。

 余りに毅然とした態度の為、一人でも大丈夫だと思われがちだろう。


 カケルに頼まれた、小さな願い。



 俺は叶えることができるだろうか。






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