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再びジェネの手を借りつつヨタヨタしながら降り、辺りを見渡す。
ここはラスメリナとレーンの国境となる『竜の背骨』山脈の麓。これよりこの山々を越えてレーンへ入らなければならない。流石に一日で踏破できるわけもなく、野宿しながら山登りとなる。
野宿って! 学生時代の思い出でテント張ったキャンプならあるけど、野宿って!!(二度も言う)
風竜に国境越えた辺りで降ろしてもらいたかったけど、あの大きさでは発見される恐れもあり、余計な刺激は控えたい所なので却下された。
実際の所国境を超えるものには古くからの制約があり、能力の半分は削られてしまうという作用が働き、竜自身も出来るだけ超えたくないようだ。精霊も然り。
つまりレーンの国に数多くいる精霊使い達も、同じく制約は作用されるらしい。
人間には……その制約は掛かっていないらしく、特に国境越えたからどうという訳でもないそうだ。
ジェネ達は荷物を降ろしたりしている。私は手伝う気持ちはあったけど、寒さで縮こまった体で上手く動けなかった。バッツには「しょーがねーなー」なんて軽口叩かれたけど、開き直って熱が戻るまでじっとする事にした。
あー、写真撮りたかったな。夜景モードにしたって光源なんにもないから無理だー。
惜しいなーと思っていたら
(シャシンとは何だ?)
(風竜さんっ! えーっと、写真というのは……何て言えばいいのかな。んーと、今自分の目の前に見える風景を、写し取る事のできる道具の事……だと思います)
説明が伝わるかどうか自分でも不安な為、だんだん声が小さくなってしまった。
(あのー、またラスメリナに帰ったら、写真撮らせてください。こんな素敵な竜体に乗れた事が嬉しくて、思い出にしたいんです)
(――いいだろう。帰還した折にカケルに言うがいい。我は主の命により動くのでな)
(ありがとうございます!)
(娘。……我の真名は見えるか?)
突然風竜が言い出した。
じっと、私を見つめてくる。――なにか試されてる?
私も、風竜の瞳を見つめた。
(集中せよ。我の奥をよく探せ)
そんな事言ったって……と思ったが、風竜の真剣な声に黙って従う。
やがて。
――一切、周りの音が聞こえなくなる。目の前がチカチカと光が点滅してきた。
??
突如として脳裏に浮かんだ文字。しかし掠れてよく分からない。
(シュラ……ナ……ギース……ネ……??)
ダメだ、所々しか拾えないや。これ以上は読み取れない。
というか、文字が浮かんだ事にビックリだよ!
(なんとも可笑しな娘よ。それだけ出来れば『目覚め』も早かろう。我から『読みとり』の餞別だ)
竜は再び「クククッ」と笑いを零しながら、ふわり……と宙へ浮いた。
「風竜、ありがとうございます」
ジェネが風竜に向かって礼を言った。
「無事に戻る事を待つ」
クルリと来た方向へ体を向け大きく羽ばたいた。
(娘、次会う時は、多少の色気をつけておけ)
と私に向かって言い捨てながら。