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1 ラスメリナで夕食を




 まあ、こんなもんかなー?

 市場で買出しを終え、調理台に並ぶ食材を眺めて呟く。異世界の食材は物珍しく、あちこちの店を行ったり来たり、調理法について質問攻めにしたりと、ついつい長居をしてしまった。

 翔たちとの食事の約束は夕食だ。まだ昼前だけど、知らない食材の仕込みから始めるので、時間を見ながら調理をしなければいけない。

 買い揃えた食材をいったんテーブルに置き、袖をまくって手を洗う。

 慣れ親しんだ米味噌醤油が無いから、私が出来る料理のレシピはかなり狭くなるけど、なんとかしなくちゃ。

 基本的な調味料は似たような物があり、それに沿って献立を考えた。

 まずはダシを取らなきゃね。

 極彩色ではあるが、鶏らしき鳥を一羽まるごと。さすがに丸ごと捌いた事は無く、さてどうしてやろうかと思っていたら、サーラが――

「あら、私がやりますよおねーさま。さつじ……いえ、に……く、を削ぐのは得意なので」

 おやおやなんだか危ない単語垣間見えましたよ!?

 深く聞いてはいけない気がして、あえてのスルーを決め込みます。

 サーラは、自分で言うだけあって、とても刃物の扱いが上手かった。何か違う使用方法を想像できるほどに。ただ、料理はしたことが無いらしい。レーンへの用事が終わり、またこちらに帰ってきたら、料理を一緒に作ろうと約束した。サーラは大好きなユーグに料理を作って、一緒に食べたいそうだ。

 パンはベンチタイムが長いので、その時間を利用して他の料理を進めていくことにしよう。

 肉を取り終えた鳥ガラを大きな鍋にいれ、いくつか野菜と共に煮込む。 

 鳥ガラスープの火加減を見ながら発酵したパンの生地を成形し、薪のオーブンへ入れた。薪のオーブンなんて使ったことなかったけれど、これもサーラが得意だというので、火の加減を任せた。

 そして何より大事なマヨネーズを作る。マヨネーズは、卵黄、酢、油さえあれば簡単に出来てしまうし、翔がマヨラーなのでこれは欠かせない。マヨネーズは正義だ。

 焼きあがったパンを少し冷まして適度な厚みにスライスし、マヨネーズを塗った上に、ゆで卵をマヨネーズで和えた具を乗せ、その上にまたパンで挟む。卵サンドの出来上がりだ。

 丁度そこへジェネがやってきた。夜に出発するので仮眠を取るように言いに来たらしい。翔に卵サンドを届けてほしいと頼み、更にもう一包み渡す。

「これは?」

「はい、ジェネの分です。これは翔の好物で、お口に合うか分からないけどよかったらどうぞ」

「……実は昼も抜いて夕飯まで待とうと思っていたんだが、ウンノの手料理ならば喜んで頂こう」

 わーーーー!

 なにその過剰な期待!!!

 しかもね? しかも、ジェネってばほんのりと口角が上がってます!! 笑ってますよこの人!!

 サーラはそんなジェネをみて「あら珍しいわね」なんて、ニヤニヤしてた。これだけ楽しみにしててもらえるんだから、結果を出さないとね! よーし頑張るぞ!




 様々な仕込みを終え、サーラに火の番を頼み、合間に一時間ほど昼寝をした。そして再び調理場へ戻り、最後の仕上げへとり掛かる。

 作っている間に、サーラから隣国レーンの話を聞くことにした。だいたいの様子は知っているけれど、やはり生の声が欲しかったからだ。

 それによると、私や翔が知っているのは、どうやらいまから二代前の王様の物語の時代らしい。私が一番大好きな、『精霊姫と騎士の旅』の時代から二代後ということは……だいたい二十年から二十五年の間くらいかな、とのこと。ううっ、知らない時代!

 私が覚えている内容と現在を、頭の中ですり合わせる。

 レーン。

 ラスメリナとの国境は、竜の背骨という名の、稜線が幾つも連なり続いている山々にある。両国は物流が盛んな時代があって開かれたルートがあり、集落も点在し、山越えも楽にできるよう整備されている。その後森を抜けたら草原が広がり、レーンの城郭都市が見えてくるのだ。堅牢な城の背後は海が広がっていて、この城を落とすことは、どんな勇猛な将にかかっても出来なかったと、物語に書いてあった。

 『精霊姫と騎士の旅』の物語で外せないのは、その題名にある精霊姫の存在だ。

 地・水・火・風・光・闇、全ての精霊を従える伝説の姫。

 その姫とレーン国騎士のラブロマンスであり、アニメ・ドラマ・映画全てにおいて興行収入ナンバーワンに輝くほどの人気作だ。私は映画を三回見て、もっと見たいところを我慢してノートに内容を覚えている限り書いて、それをまた読み返してはあのシーンこのシーンと思い出してはニヤニヤしていた。

 今もまだ精霊姫はいるのかとサーラに聞いたら、いない、とそっけない言葉が返ってきた。まあそうだよね、ずいぶん昔の話しだし。

 するとサーラは「今いない、というのが異常なのです」と野菜の皮剥きの手を止めて目を伏せた。

「精霊姫が不在で、解放された精霊達が不安定となり、さまざまな天変地異が起きているそうですわ。レーンの国に限ったことでなく、こちらにも被害の報告があるので怖いです」

 精霊の姿が見えるのは、神官職や一部の能力者だけだ。その者たちは、『精霊姫』を失った精霊達を抑えるのに忙殺されているらしい。

 ラブロマンスの後日談がこれじゃ、あの主人公達は悲しく思っているだろうな。

 話しながらも手は動かしていたので、程なく夕食は完成した。

 正直なところ、ご立派な料理ではなくてごく普通の一般家庭の料理だから、翔以外の口に合うだろうか心配だ。






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