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side ジェネシズ

今回はジェネシズ視点です。




 朝、ウンノの部屋を訪ねるとすでに支度を終えていた。華美な装飾の無い町娘風の上下ひと続きになった外衣で、それに色を合わせた前掛けをつけ、頭には労働をする女性が良く付ける一般的な帽子で髪を覆っていた。下手に顔を隠すとかえって気になるもの。遠い田舎から貴族の屋敷に出稼ぎに来たという体をとった。

 サーラが衣服の手配をしたが、無難に纏まっていて安心した。アンザスでの教育では変装も教え込まれているので外す事は無いようだ。周囲から目立つ要素が全く無く、これならば外出してもいいだろう。

 そこでふと思い出してしまった。

 昨夜の湯浴みの後は非常に目のやり場に困った。

 カケル達の世界では、あまりにもな奔放すぎる位の衣装が多いらしい。こちらでは肌を見せることは恥とされ、手首足首すら隠すもの。それが「このキャミワンピ肌触りいいねー」と、腕と膝下の肌を晒して現れたので、普段から物事に動じない俺も流石に参った。カケルから無愛想だと言われるこの顔が、今は一番俺の中で頼りになる。

 俺はカケルの姉を召喚するのは反対だった。カケルは姉を溺愛しており、どれだけ良くできた姉かを何度も何度も聞かされた身としては、それならばわざわざ危険な役をさせなくてもいいのではないかと。我が国は、俺が言うのも憚れるが醜い争い事が多い。そのせいで俺は振り回されてきたから。

 するとカケルは、「今回のことは、ジェネから貸し分もらうからね」と半ば強制的にカケルに対してあった『借り』を取られる事となった。

 あの『借り』を盾に取られるならば、俺はもう何も言えなくなる。

 それだけ、俺にとって大きな借りであるから。 

 俺の従者としてこれから行動をともにするのだから、俺がまず女性扱いせぬよう最初からあえて名前を呼ばず『ウンノ』と呼んでいた。カケルは王となりこちらの世界を主軸とするだろうが、姉の方は帰すと聞いた。だから俺は深く関わりあうつもりはなく、一線を引いて契約を遂行するだけだった。

「これは騎士の礼だ。私は貴女を守ることを魂に掛けて誓う。私に守られてくれ、ウンノ」

 こう言ったのも、カケルから頼まれたから。

 先ほどの書類の最後に書いてあったのをユーグが小声で伝えてきた。

 ――姉ちゃんは甘えるのが苦手だから、甘えさせてやって?

 変に情が移ると取り返しがつかなくなると、そんな風に片隅で思うのも俺としては不思議な感情だ。

 明朝城下の市へ行く約束をし、部屋に戻ろうとしたところサーラが耳打ちしてきた。

「ショーコさま、ウットリする程の肢体ですわ。特に胸の形が素晴らしいです」

 そんな事俺に聞かせてどうする!




 市が開くのは日が昇る時。ウンノと共に俺は城下に向かった。カケルと同じく、こちらの世界の事は物語で知っていて歴史的な事変などにはとても詳しかったが、日常生活についてはとても疎い。

 ウンノは「こんなに味気ない食事だとは!」と憤っていたが、俺たちにとってそれが普通の食事なのだから特に不満はない。しかし、カケルが「ねーちゃんの作るご飯食べたら、よそで食べられなくなるよ?」と食事を取る毎に言われ続けていたので、いつしか姉の料理に焦がれるようになった。それが今夜叶うとなると、今回の召喚に感謝してもいいだろう。

 色とりどりの野菜や果物、獣肉、スパイス、ハーブ。

 豊富に並ぶこの市はラスメリナ一賑わう朝市である。

「これだけ食材揃っているのに、何故工夫しないのかしら」

 ウンノは珍しげに視線を彷徨わせていたが、人のよさそうな売り手の女性に話しかけた。

 「すみません、私田舎から出てきて分からないので教えてください。こちらの丸い緑の……? ああ、マッサロというんですね? どうやって調理したらおいしくなりますか」

 なんのてらいもなく、知識の無さを恥じるでもなく。

 臆することなく話しかけるウンノに後で聞いたら

 「わが国にはね、いい諺があるんです。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』『百聞は一見に如かず』。良く知ってる人にどんどん聞くのが早いってもんですよ」

 柔軟な考えに感心した。一般的には自らが知りえぬ物に関して、自尊心が邪魔をして決して他人に尋ねるなどの行為はしないものだ。

 全く、この双子は面白い。

 我が国で無くしたと思った感情を思い出させてくれる。

 買い物を終え、調理場に食材を置いた所で俺はサーラと交代した。

 部下達との打ち合わせがある為だ。ウンノはそのまま料理する為調理場に篭るらしい。サーラがいるのでその場を任せる。

 今夜の食事には、カケル・ユーグ・サーラ・俺の四人でウンノの料理を囲むらしい。

 夕飯までに、精一杯腹を空かせていこうと思う。





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