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side 翔




 僕がこの世界に初めて来たのは、確か高校入学してすぐだったかな?

 何となく『ひょっとしていつか……?』という特に理由のない確信があった。

 ねーちゃんと二人でよく読んでいた、異世界トリップ物のファンタジー小説がいよいよ体験できるんだー! と、いざ降り立った瞬間、僕は興奮したねっ!

 落ちる予定の場所はホントは違ったらしいんだけど、ちょっとした座標の狂いとかで、とある女性のベッドの上に落ちちゃったからさあ大変。

 いやー、焦った焦った。思い出すのも面倒なくらいに現場は荒れたし、追われたし、殺伐としたやり取りがあった結果、何とかなったからいっか?

 

 ――――この世界を消したい位、腹が立ったけどね。


 そんな時にジェネと会って、大親友と呼べる程仲良くなった。ジェネが居なかったら、僕は多分この世界を愛することなんて絶対に無かった。

 ジェネはこの世界の恩人でもあるんだよ? みんなジェネに感謝しろよな。

 男の僕から見ても武人として非常に優れていたし、見目も良い。あの深みのある青い瞳は僕のお気に入りなんだ。無表情に見えるけど内面はとても感情豊かで、ようやく僕に気を許してくれたんだと嬉しくなったよ。

 ちょっとしたトラブルがあって、僕が元の世界を行ったり来たりしなきゃ行けない時に、ジェネが国の厄介事に追われ、まずい立場に立たされたことがあった。まあ僕が助けに入ったんだけどね。

 『僕の大親友に手を出すなよ』って。

 ちょっと暴れすぎちゃったけど、まあいっか!

 その時の事を話そうとすると、ジェネは何故か苦い顔して目をそらす。えーなんだよー。ちょっとアレしちゃっただけじゃんかー。

 ま、その事件が『貸し』としてある。

 僕は貸しとも思ってないけど、ジェネは義理堅いから。


 


 隣国との関係が、きな臭い。

 ラスメリアの国は僕が平定したけど、それに至るまでめちゃくちゃ辛くて苦しい戦いだった。その間国境付近で諍いがいくつも起こり、モグラたたきのように一つずつ潰していた。 

 そんな今だから、僕がちょっと国を離れるとまずいんで、ここは一つ、ねーちゃんを巻き込もうと思った。僕の身内だからって、間違いなくジェネは命を掛けて守るだろう。それを見越してね。

 だって僕にはまだ持てる駒は少ないんだもん。

 ねーちゃんは、小さい頃から家事全般こなしていた。双子だけど姉という立場があったし、世間でも「しっかりしてるね」という目で見られるので、余計に自分を律した。

 僕が手伝おうとしても「翔はそのぶん勉強や運動を頑張ってね」と一切やらせてくれなかったんだよね。そのうえ、バイトもいくつか掛け持ちして、家でゆっくりしている姿を見たことがないんだ。

 小さい頃、僕んちホントに貧乏だったから、貯金がないと不安だそうだ。

 かーちゃんは出張が多いから家を空けてて、ねーちゃんに甘える相手なんていなかったし、傍で見ている僕としては逆に辛かった。

 そろそろ、いい事あってもいいんじゃない?

 ほんの少しだけ――僕のささやかな期待もあって、僕をこの世界に召喚した魔術師を呼んで、魔方陣を組んでもらった。

 契約は、【レーンにて国王謁見し、書状を手渡しすること】

 召喚は成功し、ねーちゃんは、ジェネの腕の中に落ちてきた。

 その姿を見て、僕は安堵する。


 ……良かった。

  



 アホな家臣を殴りつけたあと、ねーちゃんの部屋に戻ったらジェネだけがいた。

 どうやらねーちゃんは、サーラと仲良くお風呂に行ったらしい。

 えー? あのサーラを手懐けたの? 流石の僕もビックリだ。サーラって実は暗殺者集団『アンザス』の構成員なんだよね。四つの頃からその稼業に手を染めてるから、世間一般の常識に欠けてるっていうか……そこの所、ユーグが懇切丁寧に教え込んでいる最中なんだ。つーか、あんな事やこんな事まで教えなくたってもいいのに。バカップルめ。

 明日、城下の朝市にねーちゃんが買い物に行くというので、ジェネが護衛すると約束をしたらしい。

 僕の為に夕飯を作りたいから、自分で食材を選びたいんだそうだ。

 ジェネと一緒なら安心して送り出せるよ。一応目立たない格好してね? って言ったら、勿論だと剣の柄を軽く握りながら言った。ジェネがこの仕草をする時は、剣に誓いを立てた証だ。言葉にしなくても伝わる。

 そっか……うん。ジェネシズ、よろしくね?

 僕がお茶を淹れてたら、お風呂から二人、賑やかに帰ってきた。

 ほんのりと頬が上気したねーちゃんは、普段の姿からは想像できないほど艶めいていた。夜着であるキャミソールタイプのワンピースがシンプルなだけに、ねーちゃんのスタイルの良さも際立った。でも出来ればそのタオル、首に引っ掛けないで欲しかったな。この辺に色気のなさの原因があるという僕の考察だ。

 未だに彼氏がいない事を嘆いていたが、僕としてはいなかったことに感謝してる位だ。下手な男なら僕は納得しないからね。でも相反して『世の中の男の目は節穴か!』と怒鳴りつけてやりたい衝動もある。

「すごいね翔、ここ温泉が湧いてるなんて最高!」

 目をキラキラさせながら、感動するねーちゃん。そう、ここラスメリナは温泉が湧いていて、僕は王様の権利を行使して、最優先で温泉風呂を作らせたんだ。源泉掛け流しの最高の泉質で、これから温泉街でも作ろうかという都市計画を練っているところだ。

 




 ねーちゃんと一気に仲が良くなったサーラは、そのまま一緒のベッドで寝ることになった。

 ジェネは隣接する部屋で、護衛を兼ねて休むようだ。ま、サーラがいる限り危険はないだろうけれど、そこはジェネが譲らなかった。

 就寝のあいさつをし、隣の部屋へ向かうジェネに、サーラは近寄ってニコニコしながら一言二言囁いた。するとジェネが固まり、うっすら耳が赤く染まった。わー、めずらしい! なに言ったんだよ僕にも教えろー!

 うふふー内緒ですーって、するりと逃げられちゃった。まあいいや、ジェネがあんな反応するところ見たし。

 さ、明日のねーちゃんの手料理、楽しみにしてよっと。




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