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それにしてもサーラは日本でいえば中学二年生くらいだけど、精神年齢はちょっと幼いと思う。攻撃的の割に、心がすぐ折れやすくて繊細だ。
逆に、肉体的には……すごい色気がある。出るトコは出すぎて、ウエストから腰は綺麗なラインを描いていた。これ、ホントに十四!? というほど、完ぺきなナイスバディなのだ。
うん……まあ……かわいいからいっか。
散々暴言を吐かれたけれど、私はもともと怒りが持続しない。嫌な事あっても寝れば収まるタイプだ。
さて、本来の目的を果たそう。一通り調理場の様子も伺えたし、後は食材だね!
その食材がある貯蔵庫にどんな種類があるか見たかったけれど、私はここに『存在しない』存在なので、誰かしら絶対にいるこの城のメイン調理場に行くことは出来ない。なんかいい手はないものか。
「そうですわ! おねーさま!! 朝、城下の市場に行けばいいじゃありませんか? 髪さえ隠せばカケル様と同じ黒髪だと分かりませんから」
ちょっと! いつの間にアナタからおねーさまと呼ばれることに!?
サーラのあまりの変貌ぶりに、頭がついていけません。
「外へ出てもいいのかな?」
「朝市なら多くの人が来ますし、紛れるってもんですわ。おねーさまの世界と同じような食材を、自分の目で探す事が出来ますし」
「それもそうね……。うん、カケルが良いって言ったらにしよう」
一応私はこの世界の初心者なのだ。まずはカケルの判断に任せよう。
部屋に戻ると、ユーグさんは居なかった。
待っていたジェネシズさんが言うには、家臣の一人が不穏な動きをかねてから見せており、網を張り餌を撒いて、充分証拠が揃った所で翔は家臣を呼び出して殴り飛ばしたらしい。
殴り飛ば……って、どんだけ暴君なのさ!
拳で語り合う系なの!?
そんな滅茶苦茶な沙汰も、国民から絶大な人気を得ているらしい。い、いいのか、それで。
だから、ユーグさんは翔が滅茶苦茶なことをしでかした事後処理に回っているらしい。ここでもやりっぱなしの散らかし大魔王翔様の降臨だ。
「どうしてこうなった」
「さあ? 私にも分かりませんが懐かれました……」
私の腕にはサーラがごろにゃんと引っ付いている。うん、可愛い。
そんなサーラの姿を見て、ジェネシズさんは眉間の皺を指でグリグリと押す。
「サーラが懐くのはユーグだけと思っていたが……短時間でよくそれだけ懐かれたものだな。――サーラ、ウンノに着替えと湯浴みの準備をしろ」
「はぁい。おねーさま、一緒にお風呂入りましょう! ね?」
ジェネシズさんから言われたことは素直に従うんだね、えらいえらい。一緒に入る約束をした後、サーラは支度をするため扉の外へ出て行った。
「ウンノ、これからは私をジェネと呼べ。ウンノの身分はレーン国の私の幼馴染の十六歳の弟と言うことになっている。たまたまラスメリナに来ていて、帰郷ついでに私の従者として仕える事になったという筋書きを整えてある」
「ジェネさん」
「ジェネ、だ。幼馴染の弟なら敬称はいらん」
うーん、言いづらい。こんなカッコイイ人にそんな砕けた呼び方は、難しいなあ。でも、ジェネシズさんや翔やユーグさんが私の安全のために策を練ってくれたのだ。素直に呼んでみよう。
「……ジェネ」
「それでいい」
そう言って、頭にポンと大きな手のひらを乗せられた。ぎゃー! それ反則でしょう!!
武人らしき厚い手の平は、温かい。心まで熱が伝わるようだった。私は人に甘えるという事がないため、この「頭ヨシヨシ」は憧れの行為。それが今まさに行われているという……!
湧き上がる血液と飛び跳ねる鼓動をなんとか押さえ込みつつ、先ほどの自分の役どころを確認する。
「ええええーと、私は十六歳のウンノ。ジェネの従者。ジェネの幼馴染の弟……ね」
「従者という者は主主の世話だ。よろしく頼む」
「はいっ」
「ラスメリナの城下には私の部下が待機している。明日の夜、指定場所に落ち合うことになっているから、それまでこちらの生活習慣などサーラに聞くといい」
「わかりました。そうだ、明日の朝サーラと城下の朝市に行きたいんですけど、翔に聞いてもらえませんか? 翔に夕飯作ってあげたいんです。でもこちらの世界の食材がどんな物か私には分かりませんし、目で見て確かめたいと思いまして」
「そうか、ならば私が同行しよう」
「ええっ! そんなアッサリ! ……いいんですか?」
「私はウンノの手料理を楽しみにしているんだ。カケルから聞かされる度に非常に羨ましく思い、それがいよいよ現実となるなら城を抜け出すなど、どうということはない」
うわあああ……
これって、口説き文句じゃないの!? うっかり落ちちゃいそうだよ! でもさ、翔と仲がいいというだけの、まだ出会ったばかりのこの人をどこまで信じていいのかな。翔の見る目があるというのは信用できるけれど、私がまだそれを受け止め切れていないのよね。
「まだ私のことを信用するに足りないか」
「そ、そんなことないです!」
一瞬よぎった心を読まれたかと思った!
表情を読まれないように、パッと私は横を向いて否定する。しかし、こうしたことで、口には出さないけれど言ってしまったようなものだ。
もっと上手に誤魔化せないものかと、自分の思慮不足を呪った。
「ではこうしよう」
私の後悔の念をどう感じ取ったのか、ジェネは厳かな声色で私のそばへ一歩近づいた。そして片膝を付き、左手を自分の胸へ、右手は私の右手を取り――キスをした。
「ひゃっ!」
手の甲が、熱い火でも当てられたかのようにじんじんと痺れる。燃えるように熱くなり、それが手の甲から腕、肩へと一気に広がり、体温が急上昇した。
ぶわっと肌という肌が赤くなる様子を見て、ジェネは柔らかな笑みを瞳に浮かべ、真摯な視線でまっすぐ私を見上げてくる。
「これは騎士の礼だ。私は貴女を守ることを魂に掛けて誓う。私に守られてくれ、ウンノ」
ジェネに守られる前に、私は心臓破裂で死にそうです!