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* 番外編 一週間 14  

今更だけどこんな設定でしたw




 サヤカとその彼氏に別れの挨拶をし、私とジェネは再び送迎バスに乗り込んでホテルを後にした。

 途中下車をさせてもらい、運転手のおじさんに別れの挨拶を済ませた後私たちが向かったのは――。


 「大人二枚お願いします」


 往復チケットを受け取り、ジェネと二人でリフトの乗降口に立つ。ベンチのような椅子が流れてくるタイミングにあわせてそれに座ると、ゆるやかに斜面を昇り始める。

 ここは大室山。

 行きのバスからの車窓で、後で寄ろうと思った場所だ。徒歩で登るのは禁じられているため、このリフトで頂上へ向かうのだ。

 

 「ね、折角だからお鉢巡りしよ?」


 頂上には土産物と軽食を売る売店がある。そこはまた帰りに寄るとして、ジェネを誘い歩き出す。

 ぐるりと一周火口周りを歩くのを、お鉢巡りという。大して距離があるわけではなくおおよそ一キロ、ゆっくり歩いて二十分程度だ。てくてくと整備された通路を稜線に沿って歩く。

 三百六十度大パノラマが広がる景色は本当に素晴らしい。遠くに見える富士山はその姿をくっきりと表し、相模灘、伊豆諸島、そして空気が澄んでいるのか、遠く房総半島まで眺める事ができた。


 山と言えばラスメリナとレーンの国境付近が思い出される。行きはとにかく疲れを知らないかのようにガツガツ登れたのが不思議だった。それは精霊姫としてレーンに近づいて、国外で押さえられていた『力』というものが国境でリミッター解除となるからだ。今となっては納得いくけれど、当時初めてその解放された力に耐え切れなかった私は意識を失ってしまって……。


 「きゃっ」


 「危ないぞ」


 ちょっと前の出来事を思い出しながらボンヤリ歩いていた私は、足元が疎かになりちょっとした段差に躓いてしまった。それをジェネは手を差し出し転ぶのを防いで、「ほら」と私の手をぎゅっと握って再び歩き出す。


 ――こういった所がなんだか私愛されてるな、って思っちゃうんだ。


 ジェネのゴツゴツとしてる関節の、私の手をすっぽり包む大きな手。ザラザラしてて厚く、所々タコがある働く手。働くといっても扱うものは剣なんだけどね。私をこうやって優しく包んでくれたり、危険から守ってくれたり、私がここにいていいんだって思える大好きな手なんだ。


 ――出会えて良かった。ジェネの所に落ちて、本当に良かった。


 手島から逃れる為に窓から飛び出してジェネに抱きとめられた時、やっぱりジェネは私にとって『運命の人』なんだと胸が熱くなった。

 

 『私が出会った全てのトリップ経験者は、皆こっちに来た時落ちた相手と結ばれてるのよ? 赤い糸でもあるのかしらねー?』


 そう言った母親。まれに落ちない人もいたらしいけれど、それには個々に理由あっての事。次元を超えたのが妊娠中という他に例を見ない体験をした母親や、生殖が望めない年齢のトリップは皆一人でこの地球に降り立ったらしい。

 そういえば、と昔の記憶を辿ってレーンにいる母親に聞いたことがある。幼い頃急に「コセキができた」と言っていたのは? と。

 

 ――ああ、それはね? ほらあっちの世界に日本はもとより世界中から次元超えちゃった人がいるじゃない? で、また戻れた人がこちらの世界でそれなりに組織作っててさ。それも結構古い歴史持っちゃってて、国の中枢にまで入り込んでたりするのよね。だから――。


 ああ、だから戸籍が作ってもらえたのか。

 極秘事項だから表には一切だせないけどね? と、母親は勿論その組織に属している、と明らかにした。その中の一人が『精霊姫と騎士の旅』や『剣と竜の騎士団物語』などを書いているのも、そしてそれが組織運営費の主軸であるのも、すべてが異世界を渡った同士の繋がりで作られた組織なのだ。

 世界中に支店を持つ家具や雑貨を取り扱う会社に、母親は戸籍ができる辺りから勤めているけれど、それが組織の表の顔らしい。裏では異世界経験者とその理解者がそれを運営管理する。


 翔も実は属しており、あちこちの異世界へトリップできる能力を持つからとても重宝がられているようだ。トリップした先で、一点物の家具を輸入して売る。明らかに地球上ありえないもの、文化を壊す物は仕入れないというルールの下、売買が行われていると言っていた。


 翔は元々大学生の時に、車会社の社長にナンパ(?)されて就職した経緯がある。

 それもよくよく聞いて見れば、『完全歩合制』での車販売の営業だった。翔自身日本でずっと居られないから就職は……と難色を示していたが、社長がそう提示したので「その話乗った!」となったらしい。

 ノルマクリアさえすれば出社も完全自由という、まさに翔にとって好都合の就職先だ。私は単に車屋さんに勤めている、としか思っていなかったのでその点も寝耳に水だった。


 私の知らないところでこんなにも世界は動いている。

 ちょっと手を伸ばすだけで、広がる世界がある。


 私も、その世界の歯車の一つとなって何かを成し遂げたいな――。


 漠然とした思いだけれど、志を新たにこれからの未来に翔け出そう。そう心に刻んで繋いだジェネの手に指を絡めた。







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