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2 宴会家族




 部屋に入ると、そこにはラスメリナに置いてきたはずの大きな荷物も一緒に纏められていた。うわ、助かった! 翔が持ってきたのね。

 侍女服へと着替え、軽く髪も梳かして淡い色の口紅を差した。あまり似てないとはいえ双子には違いない。これで少しは区別付けてもらえるかな? それに……あの人に少しでも女性らしくして見せたいし。


 耳朶に付く五つの宝珠をなぞり、「みんなは周りを見ててもらえるかな? 怪しい人がいないかとか。あと王太后様の様子もお願いね」と頼む。『承』と間髪いれず返事があり気配が遠のいたのが分かった。

 あ……元の世界に戻るときは一旦精霊達と離れなきゃいけないんだよね。すでに体の一部となっていたからウッカリ忘れそう。その点についてもお母さんと話し合わなくちゃ。



 

 食堂入り口の扉を開いたら、大勢の視線が一気に集まったのを感じた。


 「きゃっ! な、何?!」


 「翔子、丁度良かったわ。いらっしゃい」


 大勢の近衛騎士達が一同に集まり、正面にはお母さん、お父さん、あと数名の騎士と文官らしき人が立っていた。そのお母さんが私に手招きで呼ぶ。

 こ、この大勢の前に出ておいでっていうの、お母さん……。

 私の事はきっと食堂の料理人だと思っている人も多数いるようだ。しかし侍女服を着ているから全く立場が分からない存在となっているだろう。

 

 「みんな聞いて! 大体の事は今話した通りよ。私はこれから王の補佐に付く。そして団長……アルゼル・クランベルグは大将軍の座に着く。――――私が色々と説明不足のまま消えてしまったその罪は消えない。その償いをこれから生涯をかけてキッチリやらせてもらうわ。だから……よろしくお願いします」


 そういって、お母さんは大勢の前で――――深く、礼をした。

 

 これは、けじめだ。お母さんなりの。私もお父さんも、黙って見守った。

 やがて顔を上げたお母さんは、今度は私を引き寄せにっこりと笑う。


 「それから紹介! この子はね、私とアルゼルの娘よ」


 ――――おぉぉぉぉぉっ!!


 一気に食堂がざわめきに包まれた。口々に「団長と精霊姫は……」「いやしかし」「ウンノは女だったのか!」「精霊姫っていくつだっ」「か、可愛い……」と聞こえてきたが、そんな中聞こえるセリフに耳を咎めたお母さんは「誰っ! 年齢の事言ったのは!」と素早く反応をして鋭い視線を向ける。怖いよ地獄耳!


 「あとこの国……というか、王の後見についたのは隣国ラスメリナの王、翔よ。この子の双子の弟だからよろしくね、みんな」


 と、お母さんが指差す先には翔がガッツリと並んだ料理を食べていた。テーブルに並ぶ数々の品はほぼ消えていて、翔は頬をパンパンに膨らめて口を動かす。頬張りすぎだって!


 「なっ! 竜帝!」「うおっ! また城壁消されるぞっ」「待て、団長の息子と言ってたぞ!」「なんて規格外な息子さんだっ!」


 口々に言い、ザザッと翔の周りにいた人たちは綺麗に円を描くよう後ずさった。


 「うっわ、失礼しちゃうな~。僕だってそんな考えなしにやること、あんまりないんだからね!」


 翔……それ反論になってないから。

 手に持ったグラスをお母さんと団長に向けて振る。


 「ねえ早く飲もうよ! 待ってるんだけどな!」


 「食べるのも待ちなさいな! あと一人皆に挨拶をするわ。さあ、こちらへ」


 そうお母さんが手を向けた先には、マルちゃんがいた。少しまだ顔色は優れないようだったけど、何か幾分スッキリした顔をしていて微笑をたたえていた。

 十六歳でしょ……この笑顔、危険だわ。

 ふとした瞬間ジェネに似るその整った顔立ち。そりゃ王族って大体顔がいい人が集まるんだけどさ。美しい相手と婚姻結べばもれなく王家は美形の一族となるよね。でも……内側から光りだしているような錯覚をするほど惹きつけられるその姿に、食堂にいる全ての人間が釘付けとなった。


 皆の前に立ったマルちゃん。一旦軽く目を伏せた。


 「皆の者……私はこの国の王、ディエマルティウス・アルディアント・レーンだ」


 まだ年若い声だったけど、澄んだその声色は部屋の隅々まで響く。あまり王がこのように間近に接する機会がなかったので、正体を窺っていた多くの騎士は、マルちゃんの名乗りとともに儀礼として膝を折ろうとしたけれど、それをマルちゃんはおしとどめた。


「よい。普段は形式もあるから仕方ないが、今はこのまま聞いて欲しい。

 まず、皆には……私が王たる自覚を持たぬが故に、一言では表せぬほどの苦労をかけてしまった事を謝罪させて欲しい。祖父である宰相、母である王太后の好き勝手な政治は、市井の者、城の者……国中、いや隣国までにも多大な迷惑を被った事であろう。しかし、ここにいるラスメリナ王カケル殿とその姉君、精霊姫だったリィン殿と、ずっと私を支えてくれていたクランベルグ団長のお陰で、私は自覚もなく随分甘えてきた事を思い知った」


 ゆっくりと、一言一言確かめるように話すマルちゃん。

 綺麗な明るい海の色をしたその双眸で、自らに集まる視線を確認しながら言葉を紡ぐ。


 「これからは。この身全て、この人生全てをかけて国を立て直していく。次代の精霊姫も恐らくではあるが近くにいるらしく、天候の安定も図れるだろう。まだ未熟な私にどうか力を……皆の力を貸して欲しい。共に、レーンの再建をして欲しい」


 しん……と一瞬の静寂の後、わああっと歓声が沸いた。

 口々に明るい未来の希望を唱え、一様に明るい表情となる。私としては『次代の精霊姫』という言葉にどきっとしたけれど、お母さんが私に向かってバチッとウインクした。まだ私の覚悟の決まらないうちに公表するのは避けてくれたんだろう。

 

 「さあ! とりあえずさ。飲もうじゃないのよ皆、宴会よ! グラス持ちなさい」


 お母さんの声に、皆近くにあったグラスを持ち、天に掲げる。この国の乾杯のポーズらしい。


 「この国の再出発に!」


 「この国の未来に!」


 葡萄酒が注がれたそのグラスを高く上げ、お父さんとマルちゃんが声をあげて言うと、口々に食堂に集まる全ての者達がそれに続き、くるりとグラスで円を描いて一気に煽った。


 それからは「無礼講よ!」とお母さんは張り切って……飲み始めた。

 いえね、元々お酒とか飲み会とか好きな人だと思っていたけど。この国にいた時からも好きだったみたいで数々の伝説が残されているらしい。古参の騎士達が飲み始めたお母さんを見て顔を青くしていたから、一体どんな事をしでかしたのか。知りたくもないけど。

 お父さんは、お母さんが上機嫌で飲み始めたその様子を見て、嬉しいのか悲しいのか良く分からない複雑な表情を浮かべている。

 やっと自分のところに戻ってきた妻だし、上機嫌に飲み始めたその姿は確かに自分にとって嬉しいけれど、二人きりで時間がまだ持てていないらしく……ちょっとお母さん少しは構ってあげて!


 始まった宴会だけれど、どうも近衛騎士だけでなく文官達もちらほら見受けられる。更に増えているような……って、料理足りないよね?! ちょっと大丈夫かしら。

 私はテーブルの上に乗る料理の量を調べる為、各テーブルを回ることにした。

 

 

 


 



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