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side 翔




 ぐるーりと僕は視線を巡らせた。みんなキョトーンとしてる。うん、まあ正しい反応だね。ただ一人、団長……とーちゃんは。


 「リィン……」


 と一言呟き、じっと見つめている。そうだよね僕達を産む為に異世界へ渡って早二十三年。その間一度も会っていないんだ。

 かーちゃんは、とーちゃんと一呼吸の間だけ視線を絡ませ、一つ頷く。その頷きにどれほどの想いが込められいてるか。僕の中で、ちょっと何かこみ上げるものがあった。

 それからかーちゃんは、僕の方を見てパチッとウインク。え? ちょっとそこ軽すぎじゃない?


 「さて……」と腰に手をあて、頬にかかった髪を耳に引っ掛ける。


 「久し振りでまあなんだけど。そこの翔はどっからか降ってきたわけじゃないのよ? 身元は保証するわ」


 「保障って……」


 誰かが小さく呟く。 

 突然の登場にみんな動揺を隠せず、ただひたすらその動向を見守った。しかしドロドロ泥仕合に慣れてる宰相は違った。突然現れたかーちゃんに因縁をつけ始める。あらら、知らないよ?


 「まさか……精霊姫かっ?! 今更何をしに戻って来た? 精霊を捨て、国を捨てた貴様がよく恥ずかしげもなく姿を現せたものだな!」


 「そそそ、そうだ!! 突然姿を晦ましこの国の安定を放棄し、混乱を導いた事は明白であるぞ! 逆賊め!」


 一瞬の動揺を見せたものの、すぐに気を取り直したらしい宰相と違って、大将軍の態度には余裕がなく、必死で取り繕っているようだった。


 「あんた何様? 私はこの国のあるじの王様と話したいのよ。お呼びじゃないわ」


 かーちゃん、宰相と話す気ねえな! 

 宰相の言葉をフンと鼻息一つで飛ばし、「翔、やっておしまい!」と僕に指差し命令をした。ちょ、うっかり「アイアイサー」って言いたくなるじゃん! かーちゃん自由だなあ。

 

 「わかったよ。じゃー、ちょっと黙っててもらおっかな」


 「な、何をする!」

 「宰相殿!」


 僕は自ら動き、宰相と大将軍二人ともグルグルっと簀巻き(・・・)にして天井からぶら下げ、『力』を込めてその喧しい事を喋る口から飛び出す言葉を『カケル最高』『カッコイイよカケル』に固定した。

 暫く『カケル最高』『カッコイイよカケル』『カケル最高』『カッコイイよカケル』と喋っていたけど口を開けば結局僕を褒めている形になるからやがて押し黙った。

 なんだよ、もっと喋っていいのにさ!

 それをコッソリ救出しようと動く面々は……。ふふふ。


 「みんな動かないでね? 僕達の邪魔するようだったら、すごいことしちゃうから。外見てごらん?」


 「!!」

 「ひっ……」

 「な……な……」


 窓の外を見たみんなは一様に固まった。ある者は顎を落とし、ある者は腰が砕け。

 

 「僕が契約した竜だよー。折角さ、四大古竜揃えたし? おっ披露目ー!」


 地水火風の竜達は、小さい体に身を変化していたけれど存在感はハンパない。火竜のギースなんて、むっちゃ乗り気で凶悪な口の先からチョロチョロ炎を出して見せている。

 あらら? ちょっとほぼ全員動けなくなっちゃった? ごめーんやりすぎ?


 そんなこんなを黙ってみていたかーちゃんは、外野が黙ったのを見届けた後、ヒールを鳴らしながらレーン王の傍へ歩き……膝をついた。


 「此度の混乱、全て私の因る所であります。時系列での説明のち、王の判断にて処断下さいます様お願い申し上げます」


 その凛とした背中からは表情が読み取れない。けれど、責任を果たそうとしているんだ。僕は黙って見守る事にした。


 淡々と……これまでの経緯を説明した。おおよそ僕が知っている事と変わりない。


 精霊を従える力が弱まっていた事、妊娠していた事、王太后の闇の力に干渉を受け異世界へ逃れた事――――精霊と繋がったままでは今以上の混乱が生じる為、解放してから。


 「どうしても、精霊姫として残る事は出来なかったのか?」


 窓の外からじっと室内を眺める竜に、王はビクビクしながら尋ねる。すると、少し寂しそうな顔をしてかーちゃんは答えた。


 「元々精霊姫としての力は弱まっていた、という事は私が繋がったままだと精霊たちも消滅してしまう恐れがありました。この国にはなくてはならない存在、それが精霊。解放以外に道はなかったのです。

 そして私は異世界にて子を産み、こちらに戻る機会を窺っていました。子供は胎内にいながら異世界を渡った為、強大な『力』を手に入れた――――」


 一旦言葉を切って、僕をピシリと指差す。


 「それが、これです」


 「これっていうな! かーちゃん!」


 「ちょっと! カケル、アナタ団長と精霊姫の……子だったの?」


 イルが驚いた顔して僕を指差す。おろろろろ、あれー?


 「言ってなかったっけか?」


 「知らないわよバカッ!」


 「あっはっは、ごめーん」


 そっかそっか、この場で知ってるのはとーちゃんかーちゃん、あと驚かない様子を見るとジェネだけか。


 「その通りよ、ね、アルゼル? 可愛い私達の子よ」


 「紹介が遅れましたな、王よ。私達の子供であり、ラスメリナの王である翔と申します。どうぞお見知りおきを」


 僕の肩に手をあて、腰を屈めて王へと挨拶をするとーちゃん。

 いやー、やっと公に出来たねっ! 


 「あ、ちなみにだけどもう一人いるのよ。今騎士団の厨房にいるけれど『翔子』って名前よ。『ウンノ』とも呼ばれてたみたいけれど、翔の双子の姉。何かおかしなマネしたら()が承知しないわよ?」


 「なんで僕に丸投げかなっ?! ……って、その通りだけどね」


 全く人聞き悪いな! 僕はこんなに人畜無害なのにさ!

 ――――あれ? なんか外野静かすぎじゃない?


 「双子?」

 「あんなバケモノがもう一人?!」

 「しっ! 聞こえたら消し炭だぞ?!」


 聞こえてるっての!


 「じゃ、そーゆーことで。レーンの王様? これからどうしよっか」


 僕は気軽な感じで話を振る。イジワルかとは思うけど、一国の主同士の話し合いでもあるからね。


 「……私は、貴方の姉君から叱られました。それで目が覚めました。私はこの国の王です。王としての責務を果たそうと思います」


 「へえ。ま、自覚できたならいーよ。とーちゃんとかーちゃん、それに僕も後見に付くし頑張ろ?」


 「はいっ」


 軽く頬を紅潮させて、僕を正面から見据えた。初めて会ったあの時の少年ではなく、しっかりと決意を持ったその目に安心できる。

 僕は振り返り、とーちゃんに収拾を任せた。


 「じゃ、あとはこの国の中でやってちょ」


 室内の片隅にある椅子に腰掛け、見守る。と、ジェネも隣に来た。


 「どしたのジェネ。僕もう何もしないってば」


 「そう言って本当に何もしなかったことがあるか?」


 「なかったかもしれないし、あったかもしれない」


 「後者だ」


 「ひどっ!」


 ま、どうせなら「追って沙汰する! これにて一件落着!」と高らかに宣言したいもんだけどこれは元ネタが分からないと面白さが伝わらない。大ヤケド確実だからやめた。


 「私は王として未熟だ。至らぬ点も多いゆえ、そなたらに支えて欲しい。祖父ではあるが宰相はこの国にとって災いを招いた事は明白。私に気を使うことなく処断をせよ。大将軍やその罪の汁にたかる者達も同様だ。そこの近衛騎士……ロゥといったな? どうせその様な人物の一覧も調べ上げてあるのだろう? この際、全てこの国の膿を吐き出そう」


 「御意のままに」


 団長以下近衛騎士達は一斉に膝をつき騎士の礼をとった。

 ただただ青ざめるのはその罪を受ける者だ。パラパラと書類を捲り、ろーは軽く溜息を吐いた。


 「大小様々な罪があります。ここにすべて記してありますが読み上げても?」


 ――――めんどくさいんだな、ろーったら。多分アレだ。調べるの好きだけど、結果が分かったら興味を途端に無くすタイプだ。

 かなりの人数が関わっていそうだね……眠くなっちゃいそうだよ、僕。


 ……


 ……


 ……って、寝ちゃった!


 「何で起こしてくれないんだよ、ジェネ!」


 「いや、静かでいいと思ってな」


 飛び起きた僕は窓の外を見たらとっぷりと日が暮れていた。なんてこった! 口の端のヨダレをグイッと袖で拭い、立ち上がってキョロキョロ見回すと、そこは大分閑散としていた。

 レーン王、とーちゃん、かーちゃん、イル、ハル、ろー、えーと……なんか近衛騎士団ぽい方々。


 宰相と大将軍、あと野次飛ばしてた文官達何人かも消えていた。


 「ちょっと、イルぅ? どうなった?」


 こそこそっとイルの所まで足を運ぶと、「カケルが静かで滞りなく進んだわよ」と晴れやかな笑顔で答えた。うっわ、怖! 晴れやかだって! 絶対何か含んでるよコレほんとに。

 僕にぴったりくっついてきたジェネが補足してくれた。


 ――――宰相以下罪状明らかな者は城壁北にある塔に捕らえ、裁いていくそうだ。人数多いしね! それから、人事再編成も。これから話を詰めるそうだ。


 しっかし。


 「ねー、僕お腹すいちゃったんだけど」


 『力』を使ったし、今日は色々忙しかった。エネルギー入れないと倒れちゃうよ!


 「そうね。王よ、食事にしましょうか? 近衛の食堂に夕飯頼んであります。――――みんな、飲むわよっ!」


 後半は周り全ての人間にあてた言葉だ。

 ……そう、かーちゃんは……。


 「リィン、飲むつもりか! 私とは……」


 「あら、アルゼルったら。アナタとは後でゆっくりでいいじゃない。とにかく私は飲みたいの! 宴会、久し振りね~」


 「リィン……」


 とーちゃんかわいそうだろーー!


 かーちゃんは飲み会大好き。そりゃこの国の武勇伝も耳にタコできるほど聞いたし、もちろんあっちの世界でも色々ね。

 こうなったらもう止められないだろう。僕でもとーちゃんでもねーちゃんでも!


 「翔子に作るように言ってあるから、楽しみね~」


 「ねーちゃんが?」

 「ウンノが?」「ウンノの料理?」

 「ショーコが?」「あのウンノが!」


 かーちゃんが料理をねーちゃんに頼んだと聞いて、一斉にみんな声をあげたけど、僕は聞き漏らさなかった。


 「――――へえ? ジェネったらねーちゃんの事、ショーコって呼んでるんだ?」


 「あ……いや、その」

  

 「へー?」


 うっわ、おもしろ! ジェネがこんな動揺するだなんて!! おもしろっ!

 どうチョッカイ出してやろうと思ったら、とーちゃんがジェネの肩を叩いた。


 「ジェネシズ、この場の始末を任せた」


 とーちゃん! 早く『父親』として会いたいだけだろ!

 それに対し、ジェネは非常に複雑な顔をした。きっと……自分は早くねーちゃんの所に行きたい、けれど恩人でもある団長の命には従うしかない、けれど……けれど……。

 オモシローー! 情けない顔、僕でも分かっちゃうね!


 とーちゃんは、多分かーちゃんから何らかの事情を聞いたんだな? ジェネとねーちゃんが、とか。娘の父親としてこれが初仕事なのかっ?! 頑張れジェネ!


 「じゃ、僕も早くねーちゃんのゴハン食べたいから、お先!」


 「待て! カケル――――くそっ!」


 僕はジェネの悪態を背中で受けながら食堂へと走った。








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